(1)内需の動き
家具の国内市場規模(=内需額)は、工業統計表の出荷額と貿易月表の輸入家具の合計として捉えることができる。家具の需要は、マクロ的には住宅建設やオフィスビル、ホテルなどの建築需要の影響を受ける。ミクロ的には耐久消費財であり、家計調査で「一般家具」購入動向を見ると90年代を通じて所得弾性値が1を超える選択的消費に該当し、所得変動の影響を受けやすい。
バブルが崩壊した1991年にマクロの建築関連需要は軒並み前年比マイナスに転じたが、家具の内需はこの年に過去最高を示し、前年比減になったのは92年からとなっている。これは家具の需要がこれらの建築関連需要にラグを伴って現れてくるためと考えられ、業界でも「家具の市場景況は、一般景気動向とは半年から1年のズレが生じる」と経験則で語られている。
(図4) 建築・住宅需要データと家具内需額の対前年伸び率の推移
出所:(財)岐阜県産業経済研究センター作成
家具の内需は92年からマイナス成長が続き、95年にプラスに転じて一時回復を見せたものの、消費税引き上げの影響からか97年には再度マイナスに戻っている。
国内出荷を木製家具と金属製家具に分けた場合、バブル崩壊の影響はもともとシェアの大きい伝統的な木製家具の方が打撃が大きく、92年以降マイナスのままである。
また建築関連データも97年に大きなマイナスを示していることから、98年以降も家具の内需が拡大する見込みは薄い。このため業界の中には、97年から現在に至る家具市場を戦後最悪と評する人も少なくない。
(2)輸出入の動きと特徴
輸入は、85年以降の円高基調によって家具も増加基調にある。国内品の販売額が減少するにつれて輸入の内需全体に占めるシェアは順調に拡大し、94年に5%を超えてから97年には約10%を占めるに至っている(図5)。
(図5) 家具の市場規模(内需)の推移(単位:億円)
出所:通産省「工業統計表」、大蔵省「貿易月表」より(財)岐阜県産業経済研究センター作成
次に、脚物家具に限って輸入額の国別順位をみると表3のようになっている。90年代以前と以降では上位国の地域特性に変化が見られ、最近はアジア諸国が中心を占める。
(表3) 脚物家具の輸入額国別順位の推移 (単位百万円)
出所:大蔵省「貿易月表」をもとに(財)岐阜県産業経済研究センター作成
これらの脚物家具輸入品についてタイプ別に平均単価を算出したのが次頁の表4である。
参考までに、輸入品の平均単価と飛騨地域の大手メーカーの平均出荷単価を比較してみると、ドイツ以外の国は大半のタイプで飛騨地域の大手メーカーの平均出荷単価より大幅に安価となっている。このことから、輸入品は普及品ないし中級品が主力であると判断される。
(表4) 輸入先別の木製腰掛けタイプ別平均単価 (円)
出所:大蔵省「貿易月表」をもとに岐阜県産業経済研究センターで作成。
飛騨地区のメーカーの平均単価は有力メーカーから教えて頂いたもの。
一方、家具の輸出は下表のように85年の円高基調定着から急減している。
特に木製家具の97年の輸出額は85年の16分の1に過ぎない。88年から通関統計に採用されることになった「家具部品」をみると、完成品とは対照的に90〜92年に輸出増加を示している。
なお輸出先国は過去10年以上にわたり米国がトップである。97年では輸出額の大きい方から米国、マレーシア、インドネシア、台湾、香港の順となっている。マレーシア以下の国は現地生産のための家具部品の輸出が中心ではないかと推察される。
(表5) 我が国の家具輸出の推移(億円)
出所:社団法人 国際家具産業振興会、資料:通産省「工業統計表」、大蔵省「貿易月表」
(3)家具内需の決定要因
家具の内需額と前年比伸び率の推移は次頁の図6のようになっており、バブル崩壊の92年以降、ストック調整が生じているように見受けられる。
家具の需要量を決める要因として、一般に1.新設住宅着工戸数、2.人口動態、3.婚姻件数の三点が重視されている。ただし、新設住宅着工戸数自体が、人口動態と婚姻件数の影響を受けると考えられること、新設住宅着工戸数では面積や質の面が考慮されないことが問題である。そのため、建築関連データを用いて家具内需額との回帰分析を様々に試みたところ、前期の実質住宅投資額を用いた家具内需額の説明が最も当てはまりが良い結果となっている(図7)。
住宅投資は人口と婚姻件数に正の影響を受けると想定され、長期的に人口、婚姻件数の大幅な増加はないと見込まれることから、家庭用家具の市場規模の大幅な拡大は期待できないと予想される。
(図6)家具内需額の推移
(図7) 住宅投資額と家具内需額の関係 (対数目盛)
最小二乗法推定( 1981 - 1997 )
LOG 家具内需額 = +2.24820 +.792377 LOG 実質住宅投資額(前年)
(2.49) (8.73)
決定係数= 0.8245 標準誤差= 0.064 ダービン・ワトソン比= 1.013
以上のようなマクロの家具市場の動きを踏まえ、次に飛騨地域で製造される家具製品についての分析を行う。
(1)高山市の家具装備品製造業の出荷額推移
高山市の家具装備品製造業の出荷額は、1984年以降では90年がピークになっており(20,690百万円)、97年には84年までの水準に落ち込んでいる(11,480百万円)。原因としては、バブル景気後の消費の低迷や輸入家具の増加が影響していると考えられる。
高山市全体の製造品出荷額に対する家具製造業の出荷額の比率は概ね20%付近で推移しており、高山市における家具製造業の位置は大きい。
出所:通産産業省「工業統計表(市町村編)」より、(財)岐阜県産業経済研究センターで作成
(2)家具製造業の規模
飛騨木工連合会に所属する企業について従業員規模別に構成比を見ると、表6のように小規模・零細企業が多い。
(表6)飛騨木工連合会の加盟会社の従業員数規模別構成比
従業員数 | 社数 | 構成比 |
9人以下 | 22社 | 44.90% |
10〜29人以下 | 17社 | 34.70% |
30〜99人以下 | 5社 | 10.20% |
100人以上 | 5社 | 10.20% |
計 | 49社 | 100% |
出所:飛騨木工連合会資料
U−3.飛騨の家具を含む岐阜県の脚物家具の全国的地位 |
飛騨地域のみのデータが公表されていないため、岐阜県の脚物家具出荷額の全国シェアを見ると、愛知県についで2番目であり、81年以降、10%〜12%を維持している。
愛知県については、他産地の家具メーカーとは比較にならない全国規模の大メーカーがあり、高いシェアに貢献していると考えられる。なお、広島県の92年以降のシェア拡大が目立つが、かなり厳しい状況で生産・販売を行っていると現地関係者は言っており、シェア拡大の原因は定かでない。
飛騨の家具について、家具小売店の評価(表7)を基に、品質=グレード感とデザインの傾向=テイスト感という家具製品の分類手法を用いて特徴を判断すると、次頁の図10のように位置づけられる。
テイスト(デザイン)的には、飛騨の各メーカーごとに特徴があり、北欧的モダン調やカントリータイプなどを追求するなど様々であるため、テイスト傾向の面では全てを包括し、マップ上は中央に位置させている。
一方、グレード的には高級品を主に扱う百貨店でも高い評価を得ており、特に消費者の「憧れの的」であるとの感想を考慮すると、ベターゾーンの上段に位置する高級家具と判断できよう。
このような飛騨の家具に対するイメージを大切にしたブランド戦略・販売戦略を採ることが必要であろう。