T.家具製品の特徴

T−1.家具製造の歴史

 わが国における和家具の歴史は非常に古く、正倉院御物のなかに、厨子、棚、箪笥などの最古の収納整理家具が収められているのを見ても容易に理解できる。
 一方、洋家具の歴史は、安政の通商条約(1858年)の結果、横浜に外国人居留地が設けられ、木造西洋館に外国人が母国から家具類を持ち込んで生活を始めた時と言われている。そして昭和初期には東京の芝に、洋家具生産地が早くも出現している。
 以後、太平洋戦争前までは、職人的技術に頼る多くの小零細業者を中心とする家内工業の形で産地が形成され、発展してきたが、戦後日本に駐留した進駐軍とその家族の家具需要による大量受注が、家具産業の隆盛をもたらす基礎となった(「第8次新版 業種別貸出審査辞典」参照)。
 一方、飛騨地域の木製家具製造業の沿革としては、全国有数の森林資源を活かして、伝統的に高度な木工技術が地域に豊富に蓄積された。飛騨での起源は江戸時代の飛騨箪笥が起源と言われる。その後、大正9年、飛騨地域にある豊富な森林資源を背景にして椅子やテーブルの生産が始まった時点が、飛騨における本格的木製家具製造の端緒と言えよう。
 大正時代にドイツ人によって考え出された曲木家具製造が飛騨に伝わり、曲木家具造りが始まった。その後、昭和のはじめには「展開椅子」(注)が新しく考え出された。畳み込みが容易にでき、片付けも簡単であったため、各方面から注文が多く寄せられたという。台湾、満州、中国、インドへも出荷するようになり、特に、高山線の開通により出荷が容易になり、ますます家具造りが盛んになった。
 戦後は主にアメリカ向け輸出が成功し、順調に生産拡大した。しかし、円高が進行した85年以降については、輸出はふるわず内需指向に180度転換し、現在に至っている(「ひだみの産業の系譜」参照)。
 現在の飛騨の家具は伝統的なイメージをベースとし、柔和な木の風合いを表現したものと、現代感覚を取り入れ、新鮮な感覚で造形する二つの特徴を持ち、現在に至っていると言えよう。

(注)展開椅子=木製の折り畳み椅子のことで、当時かなり売れたヒット商品

T−2.家具の種類

 家具の種類は、形態別、用途別、目的別に分類できるが、形態別には図1のようになっている。
(図1) 木製家具の形態別分類


 岐阜県の家具製品出荷額の品目別構成比を見ると、次頁の表のとおり脚物に該当する「木製家庭用、事務所用机、テーブル、いす」が4割を占め最大であり、岐阜県の家具製造業は脚物家具が中心である。

(表1) 工業統計表(97年度)による生産額と品目別構成比
(表1) 工業統計表(97年度)による生産額と品目別構成比 注:×は非公表である。
出所:「工業統計表」より(財)岐阜県産業経済研究センター作成

 次に、品目分類別に岐阜県の全国シェアの推移を見ると「木製家庭用、事務用机、テーブル、いす」がほぼ毎年10%を超えて推移しており、特徴的な製品であることを示している。これらのほとんどが飛騨地域産と考えられる。また「木製棚、戸棚」がほぼ順調にシェアを伸ばしている。(図2参照)

(図2) 岐阜県の品目別全国シェアの推移

T−3.家具の製造工程

 家具の製造工程については、家具の種類によって異なるが、飛騨地域のメーカーが得意とする脚物家具の製造工程は下表のようになる。
(表2) 製造工程の表(上段より下段へ進むに従い、完成品となる。)

 飛騨地域では、一貫生産を中心にしているメーカーが圧倒的に多い。最近は内製化の傾向がさらに強まり、一部加工工程を外注するケースは減少傾向にあると言われている。

T−4.家具の流通構造

 我が国の家具流通の骨格は図3のようになっている。メーカーから最終消費者に直接販売されるカタログ、通信販売ルートはごく僅かで、店頭ルートが大半となっている。
 97年の販売額でみると、店頭ルートの中では図のように家具専門店を経由する場合が65%程度を占め、百貨店が15%程度、チェーンストアが12%程度とされる。
 百貨店の家具部門売上高は97年実績が91年実績比の約6割という落ち込みを示し、小売販売に占めるシェアも減少基調にあると見られる(「わが国家具業界の概要」(社)国際家具産業振興会 1998年 の推計による)。
 この原因として大手家具専門店の営業担当者のインタビューでは、ここ数年、百貨店の家具売場面積は縮小気味で、かつ店員の商品知識も専門店に比較すると劣るため、消費者離れが生じているのではないか、と指摘があった。

 高度成長期には商品開発の指導やメーカーの発掘の面で、百貨店と共に、産地問屋、消費地問屋も産地ブランドの浸透を行うなど、流通における役割は大きかった。
 しかし、近年は家具メーカーが大手ゼネコンやハウスメーカーに直販したり、大手小売業のPB製品を引き受けるなど、卸の役割は低下しつつある。
(図3)木製家具の流通チャネル
出所:「商品流通ハンドブック」日本経済新聞社、462頁の図と小売業者へのインタビューを基に(財)岐阜県産業経済研究センター作成

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