9 地域・社会

環境共生型地域社会の形成


中山行輝
( (財)南西地域産業活性化センター上席研究員 )


  現在、 とりわけ1990年代に入り、 環境に対する問題意識の高まりは、 世界規模にまで達している。 そして環境問題を大別すると、 地球温暖化等に代表される全世界(「宇宙船地球号」)レベルの地球環境問題と、 ゴミ問題等に代表される地域レベルの地域環境問題の二つが存在する。 しかし、 この二つのアプローチは“Think globally, Act Locally.”というキーワードにも表現される通り、 互いに深く関係している。 即ち、 地球的な視野に立って判断した上で各地域における足下からの行動を進めることが大切である、 換言すれば、 自らの属する地域の環境問題を真正面から見つめ主体的に取り組むことが地球規模の環境問題を解決に導くことに必ず繋がるということである。
  本稿は、 この様な考え方を基調に置き、 地域における環境共生型社会の形成へ向けた行政・住民等の主要な動向を取りまとめたものである。

(1)環境アセスメントと計画アセスメント
  (1)環境アセスメント
   環境庁企画調整局環境影響評価課作成のパンフレット 「環境アセスメント制度のあらまし」 によると、 環境アセスメントとは 「緑豊かな自然、 きれいな空気や水、 騒音のない静かな環境といった、 豊かな環境を将来に引き継いでいくことは、 私たちに課せられた重要な義務です。 (中略)いくら必要な開発事業であっても、 環境に悪影響を与えていいはずはありません。 (中略)事業により得られる利益や事業の採算性だけでなく、 環境の保全についてもあらかじめよく考えていくことが重要となります。 このような考え方から生まれたのが、 環境アセスメント(環境影響評価)制度です。 (後略)」 と説明されている。
   我が国で環境影響評価法(環境アセスメント法)が制定されたのは1997年6月で、その施行は99年6月であるが、ここでまず制定に至る経緯を国際社会における環境への取り組みを横に見ながら辿ってみることとする(表1参照)。
   国際社会が環境問題を人類にとっての脅威として初めて共通認識したのは、 1972年6月にストックホルムで開催された 「国連人間環境会議」 であり、 「人間環境宣言」 が採択され、 その実施機関として後のUNEP(国連環境計画)の設立が決まった。 しかし当時の環境問題は大気汚染・水質汚濁等の公害であり、 先進国と発展途上国の歩調は大きく隔たっていた。
   この懸隔を埋め、 先進国と途上国との協調関係を生み出すエポックとなったのは、 87年ブルントラント・ノルウェー首相を委員長とする 「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」 が国連へ提出したレポートの中で定義されたSustainable Development(持続可能な発展)のコンセプトである。 この概念の登場により、 環境制約下での発展の可能性が示され、 環境と発展の両立が認知された結果、 先進国と途上国の間にコンセンサスが生まれたのである。
   そして92年6月にリオデジャネイロで開催された 「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」 において、 南北問題を越えたグローバル・パートナーシップの形成を唱った 「環境と開発に関するリオ宣言」 が採択された上、 その具体的な行動計画である 「アジェンダ21」 が策定された。
   この 「アジェンダ21」 は、 今日の差し迫った環境問題とともに21世紀へ向けた課題にも取り組んでいる。 また、 行動の基礎、 目標、 行動、 及び実施手段といった幅広いプログラム分野について具体的な計画を示し、 その主体についても、 国家から地方自治体、 産業、 個人まで幅広く想定している。
   一方、 我が国においても、 環境への問題意識は徐々に高まりを見せたが、 その歩みには余り速いものではなかった。 1981年に旧環境影響評価法案が国会に提出されたものの83年には廃案の憂目を見ている。 翌84年には、 法律の代わりに政府内部の申し合わせにより統一的なルールが閣議され(閣議アセス)、 地方公共団体においても条例・要綱の制度が進められた。 そして上述の 「アジェンダ21」 に対応して1993年11月に 「環境基本法」 が制定された。 これは、 公害対策基本法(1967年制定)を廃止、発展的に継承したもので、 Sustainable Developmentを実現する社会の構築を目指して、 環境保全に対する基本理念や基本方策の総合的な枠組みを示し、 環境アセスメントの推進が位置づけられた。 また翌94年12月には、 21世紀を展望した環境政策の基本的な考え方を掲げた 「環境基本計画」 が閣議決定された。 施策の方向性として、 循環を基調とする経済社会システムの構築、 自然と人間との共生、 すべての主体の参加、 国際的な取り組みの推進という4つの長期目標が定められ、 97年6月事業の実施に先立ち環境への影響を調査・評価した上で地域に意見を求める制度の促進を図った環境アセスメント法が公布されたのである。

表1 環境影響評価法(環境アセスメント法)の制定までの経緯
経緯 備考
1969年 アメリカ「国家環境政策法(NEPA)」制定 世界初の環境アセスメント制度
1972年 「各種公共事業に係る環境保全対策について」閣議了解 公共事業に限り、アセス制度を導入
1981年 旧「環境影響評価法案」国会提出(1983年廃案)
1984年 「環境影響評価の実施について」閣議決定 法律ではなく、行政指導による制度化
1993年 「環境基本法」の制定 環境アセスメントを法的に位置づけ
1997年 「環境影響評価法」制定 環境アセスメントの法制化
1999年 「環境影響評価法」施行

出典:「環境アセスメント制定のあらまし」(環境庁)

   環境アセスメント法によるアセスの手順を簡略に示すと図1の通りであり、 閣議アセスからの主な改善点は表2の通りである。 しかし問題点もいくつか残された。 例えばスクリーニングに関し、 対象事業をその規模によって第一種と第二種に分け、 前者は必ずアセス対象としたものの、 後者は対象とするか否かは個別に判断することとしたが、 このプロセスの透明性が低いことと住民参加の機会が設けられていないこと、 またスコーピングの際の住民参加に関し説明会や公聴会の場が設定されていないことが挙げられている。 中でも最大の問題として、 環境アセス法第1条で“その事業の実施に当たり”と規定されている通り、 所謂事業アセスメントにとどまっており、 法制化に向けて出された中央環境審議会 (中環審) の答申で提言された、 持続的発展にとり不可欠の要件である計画段階へのアセスメントが表現されておらず、 代替案の検討についても明示されていないことが指摘されている。

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表2 環境アセスメント法による主な改善点
対象事業 例外を認めない。発電所、大規模林道、在来線鉄道等追加。
許認可への反映 横断条項によってアセス結果が許認可に拘束力。
環境庁長官の意見 評価書の公告前に、必要に応じ意見を出せる。主務官庁はこれを尊重しなければならない。
全体の手続き スクリーニング(対象事業の選定)の新設。スコーピング(検討範囲の絞り込み)の新設。
評価項目 環境基本法の新しい環境概念での項目に拡大。生態系、廃棄物、温暖化ガス等も含む。
意見の収集範囲 関係地域住民に限定しない。
準備書の記載事項 必要に応じ複数案の検討経過(代替案に相当)。作業を委託した場合、委託先の名称と所在地。不確実性に関する記述と将来の対応。
フォローアップ 将来の対応としての事後調査の可能性を付与(義務づけはされていない)。

出典: 「アセス法を評価する」 原科幸彦 著 科学1998年  8月号 (岩波書店)

  (2)計画アセスメント
   上述の通り事業(Project)段階のアセスメントでは“時既に遅し”で限界があり、 もっと意思決定の早い戦略的な段階、 即ち政策決定(Policy)、 基本計画(Plan)、 実施計画(Program)各段階で環境配慮を行う戦略的環境アセスメント(Strategic EnvironmentalAssessment)が必要であるという認識は我が国でも広まりつつあり、 相当数の欧米諸国では法制化されている(我が国においては一般的に計画アセスメントと称されることが多い)。
   戦略的な環境アセスメント(計画アセスメント)の導入により、 以下の様な効果が期待される。
  T) 計画者や意思決定を行う者が環境への影響をより明確に理解し、 効果的に考慮する結果に繋がる。
  U) 代替案がより適切に評価される( 「何もしない案」 の検討を含む)。
  V) 計画の作成プロセスがより透明なものとなる。
  W) 事業段階での遅延や追加コストの発生が減少する。

   特に計画段階からのアセスの必要性が強く主張されるのは、 自然保護と対立する場合であり、 その代表例として名古屋市港湾部の藤前干潟の保全問題が挙げられる。 ここは現在名古屋市の一般廃棄物の最終処分場として埋め立てられようとしているが、 埋立事業に入る直前で行うアセスの欠陥が如実に現れている。
   我が国でも川崎市、 横浜市等において部分的であるが、 計画アセスメントの試みが行われ始めている。 その中で東京都は1998年6月総合環境アセスメント制度と称する計画アセスメントの同年10月からの試行(2000年本格実施)を発表した。 同制度による手続と条例アセスメント制度との比較は図2ならびに表3の通りである。 計画段階からの情報公開と住民参加において一定の前進が認められるが、 環境部局が中心になってこのプロセスを運用するため、 社会・経済面と環境面との比較考量という設定にはなっておらず、 全庁的な取組がなされなければ総合的なアセスメントとはいえないとの厳しい指摘もある。

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表3 東京都総合環境アセスメント制度と条例アセスメント制度との比較
総合環境アセスメント制度 条例アセスメント制度
目的 及び 実施時期 計画立案の早い段階で、複数の計画案を作成し、これを比較・評価することにより、計画段階から環境に配慮 計画案の内容が具体的に固まる事業実施の段階で、環境への影響を事前に予測し、環境の悪化等を未然に防止
適応対象 原則、都が策定する条例アセス対象事業に係る基本計画素案等やこれらを含む広域開発計画に係る基本計画素案等(本格実施までに明確化) 事業の実施により環境に著しい影響を及ぼすおそれのある、道路・鉄道・都市開発等の個別の事業
代替案 社会・経済面からみて採用可能な複数の計画案を作成 代替案の作成の義務づけはないが、評価書案の作成前に代替案を検討した場合は、「事業計画の作成に至った経過」としてその概要等を記載








項目 公害・自然環境等のほかに、地球環境等の項目   (26項目) 公害・自然環境等に関する項目 (19項目)
内容 複数の計画案について、事業の実施に伴う環境への影響とともに、環境へのプラス面の効果についても予測・評価 事業計画案について、事業の実施が環境に及ぼす影響を予測・評価
方法
  • 計画熟度に見合った予測・評価
  • 広域開発計画等については、複合的・累積的影響も予測・評価
  • 各計画案について、評価項目別に予測し、(1)環境影響の程度又は目標の達成の程度及び(2)豊かな環境の創造に対する配慮の程度の2つの評価軸ごとに、それぞれの指標に基づき評価

    この結果に基づき総合的な評価を行い、環境面からみた各計画案の特性を明らかにする。
  • 原則として、定量的な手法による予測・評価

  • 個別の事業計画の環境影響について、評価項目別に予測し、環境基準等の評価の指標に基づき評価

出典:「東京と総合環境アセスメント制度施行の概要について」(東京都)

   更にフォローアップに関連して、 時のアセス(公共事業再評価システム)の様に原則として事業の整備決定から5年後に、 プロジェクトの費用対効果やプロジェクトを巡る社会的状況の変化あるいは進捗状況等を鑑みて、 プロジェクトそのものを再評価し、 継続か縮小かあるいは中止か休止かを判断する評価方法が、 国や地方で既に導入されて軌道に乗りつつあることも参考とすべきであろう。

(2)ISO 14000シリーズと自治体
  (1)ISO 14000シリーズ
   ISO(国際標準化機構)は、 国際的な規格や標準を定めるために1947年ジュネーブに本部を置いて設立された、 非政府間の国際機関である。 その目的は、 物資やサービスの国際間貿易を容易にし、 知的・科学的・技術的および経済的活動分野の協力を促進させるため、 世界的な標準化を図ることである。 従来より写真フィルム感度や1987年から発行した品質システムに関する規格シリーズであるISO 9000ファミリー等で知られていた。
   現在、 96年9月から発行した環境に関する国際規格ISO 14000シリーズに産業界等の関心が高まっている。 ISO 14000シリーズは、 大気汚染や水質汚濁の様な法的基準を満たしているのが前提ではあるが、 法的基準自体を決めているものではなく、 企業 (工場毎) や組織 (注1) が事業活動を続ける場合のマネジメントやソフト面をどうするかを決めた規格である。 企業が自主的に環境への負担を低くする対策をどのように講じているかを環境マネジメントシステム (注2) によりチェックする方法である。

   (注1)地域住民等利害関係者との関わりから、 サイトが基本単位となる。 ISO 規格では 「組織」 と表現し、 企業に限らず様々な団体、 機関とされ、 地方自治体その他の各種団体も対象となる。
   (注2)環境に関するマネジメントを実行する上での組織、 責任、 業務手順、 プロセス(工程) およびその経営資源(人、 物、 金、 時間、 空間、 情報、 ノウハウ、 信用等)のことである。 環境方針を定めて、 目的・目標を達成するために与えられた経営資源を効果的に活用し、 成果を挙げることが求められる。
   環境マネジメントシステムのフローは一般に 「PDCAサークル」 と呼ばれている。 Plan(計画)→Do(実行)→Check(点検)→Action(見直し)というサークルの下に、 環境負荷の低減を目的として環境管理を実施していくことが要求されている。
   ISO14001(環境マネジメントシステムの仕様および利用の手引き)の認証を取得するためには、 決められた審査登録機関の審査に合格しなければならず、 事前準備に1年程度かかる。 認証取得後も半年〜1年毎の定期検査と、 3年毎の更新審査が必要で、 継続的な環境への取組みが要求される(図3参照)。

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   このような継続的な取組みとコストが求められるにも拘わらず、 環境ISOが注目を浴びるのは以下の様な利点があるからである。
  T) 既にEUをはじめとする欧州マーケット等において、 環境ISOが一種のパスポート(グリーンパスポート)的な役割を担っている。
  U) 地域社会との良好な信頼関係を築くことができる。
  V) 大きな環境破壊という責任に至る発生事象を減らすことができる。
   なお、 環境庁が99年3月に発表した、 企業が環境会計を導入する際のガイドライン (指針) 案において、 ISO 14001の認証取得費も環境保全コストに織り込まれた。

  (2)自治体のISO14000シリーズ取得
   98年に入り、 我が国の地方自治体によるISO14001の認証取得も見られ始めた。 自治体が環境ISOを取得するメリットは、 主に以下の3点が考えられる。
  T) 域内住民や企業へのアピール
   再生紙の使用、 ゴミの減量、 省エネ等地域環境問題に対して自ら取り組む姿勢を示すことは、 住民や企業に対するリーダーシップの形成に寄与する。 公共事業を通じて域内最大の事業者でもある自治体が環境ISOに取り組めば、 地域経済への波及効果は大きい。
  U) 組織力の強化
   環境という幅広い課題に対して、 首長からのトップダウンによる横断的な運営体制が整備される。 また、 環境ISOが要求による監査の導入や情報公開により外部からのモニタリングが発揮される。
  V) 企業と比べて取得が容易であること
   行政改革の流れの中で既にコストダウンを進めていた地方自治体にとり、 既存の行政コストに対する取り組みを環境負荷の低減を目指した環境コストに対する取組みへ読み替えることにより環境ISOへの対応が比較的容易に可能である。

(3)環境共生型社会の形成
 (1)サステイナブル・コミュニティ
   冒頭でも述べた通り、 地球環境問題の解決にとっても地域における環境への取組みは不可欠である。 またSustainability(持続可能性)もまず生活に密着した地域のゴミ問題、 水の問題、 エネルギーの問題等から着手しなければならない。 そしてその主体は地域住民であり、 脅威にさらされているのは住民の生活である。 地域環境問題の解決  は環境と共生した社会づくり、 生活環境に配慮した地域づくりの成否にかかっており、 “住民が住み続けたいと願う魅力ある地域づくり”が、 地域環境問題におけるSustainable Developmentの実践ということになろう。
   米国にSustainable Communityというコンセプトがある。 これは過度な自動車交通への依存等によるコミュニティの分断・崩壊を深刻に危惧する6人の建築家・プランナーが1991年ヨセミテ国立公園のホテル・アワニーにおいて起草した地域づくりに関する原則において取りまとめられた概念である(表4参照)。 その内の1人ピーター・カルソープ氏によるとSustainable Communityは“ Community which are environmentallysound, economically feasible and sociallyprogressive”と定義され、 環境・経済・社会という3つの側面があり、 各々の側面がコミュニティの再生という共通目標の下で密接に相互連関しているというものである。 なお、 この概念は平成10年度版 「環境白書」 でも紹介され、 我が国においても関心が高まっている。

表4 アワニー原則によるSustainable Communityの理念と要素
理念 要素
(1)アイデンティティ
  • 象徴的な建物、広場、ランドマーク
  • 歴史・伝統の保護
  • 住民参加
  • 住民同士の結びつき
(2)自然との共生
  • 自然との調和・共生
  • コミュニティ内での食物生産
  • 自然を用いた境界線
(3)自動車の利用削減のための交通計画
  • 自動車の使用抑制
  • 歩ける大きさのコミュニティ
  • 歩道、自転車の整備
  • 道路の配置(クルドサック、グリッドシステム)
(4)ミックストユース
  • 生活上の活動拠点
  • 自己完結
  • 建物の中に商住混在
  • 商工業施設とコミュニティの共存
  • コミュニティのコンパクト化
(5)オープンスペース
  • 中心となるような公的広場
  • 魅力的なオープンスペース
  • 自然保護のためのオープンスペース
  • 境界として緑を用いたオープンスペース
(6)画一的でなく、いろいろな意味で工夫された個性的なハウジング
  • 個性的な家
  • 地域に根ざした技術・工夫
  • エネルギー効率の追求
  • 多様な住宅のタイプ
(7)省エネ・省資源
  • 水の効果的利用
  • 省エネのための工夫
  • 太陽エネルギー等のソフトエネルギーの利用
  • 廃棄物リサイクル
  • エネルギー効率を考えた建物構造

出典:「サステイナブル コミュニティ 持続可能な都市のあり方を求めて」川村健一、小門裕幸 著(学芸出版社)

   アワニー原則について若干コメントすると(3)に関し、 歩くこと、 自転車の利用、 バスの活性化、 路面電車の活用、 道路整備等の各モーダルが有機的・総合的に組み合わされることが必要であり(ポートランド、 フライブルク等)、 (7)に関しては風力発電、 太陽光発電等の自然・地域エネルギーのフル活用(ドイツ、 デンマーク等)と、 廃棄物の処理・リサイクル関連分野を中心とするエコビジネス(環境関連産業)による雇用創出を指摘しておきたい。
   またほぼ同様の観点から米国の本家である欧州においても環境共生に配慮した地域社会づくりが行われている。 以下に96年早稲田大学がボンにヨーロッパ・センターを設立しシンポジウムを開催した際、 その基調講演で独自然保護庁のシュルツ氏が提示したエコロジカル・プランニングに関する5原則を掲げる。
  T) 生命環境の保護
   大気、 土地、 地表上の水、 地下水の4つの生命環境を支えるものを保護する。
  U) エネルギー利用の縮小
   日本は欧州と比べると、 交通機関のエネルギー利用効率の面が最も遅れている。   各家庭でのエネルギー利用の効率化も重要だが、 交通機関における効率の向上が最大の課題である。
  V) 素材流通の循環
   包装材を極力少なくし、 瓶等の容器に社名やラベルを貼らないこと、 再利用可能な素材の開発等により、 素材の流通を循環させ環境を汚染しないようにする。
  W) 極力小地域のまとまりにする
   物資の輸送距離を少なくすることで、 大気汚染を防止する。
   都市・地域の特徴、 伝統的な構造を重視し、 各地域のアイデンティティの強化や郷土意識の醸成によってエコロジカルな都市計画を促進する。
  X) 自然の保全と促進
   実効性のある対策として、 街の中の自然環境を保全したり、 自然や都市のエコロジーの観察路を作る等、 体験的な自然保護教育や広報活動が極めて重要である。

  (2)エコマネー
   最後にSustainable Communityに関連して、 エコマネーについて触れておきたい。 エコマネーはシリコンバレー・ムーブメントにも詳しい通産省の加藤敏春氏の提唱する新しい概念である。 加藤氏はまずエコミュニティという新しい社会の構築を提案している(図4参照)。 エコミュニティにおいては、 生活者である人間が、 知識創造機能を有する経済と帰属意識を感ずるコミュニティが一体となった経済社会構造の下で、 自然と共生し地球に優しく持続的な発展をめざすことが目的とされる。 大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムの中で物質的満足度をひたすら追求する社会から、 コミュニティの構成メンバーが自己実現を達成する機会が保障され、 失敗・社会実験が許容される社会へと転換がなされる。 エコミュニティにおける生活者は“情報とサービスは豊かで、 モノとエネルギーは慎しい”ライフスタイルを確立できる、 としている。
 そして同氏は、 エコミュニティにおいて生活者が、 現在の市場経済の下では正当に評価されにくい価値を扱う“温かいお金”としてエコマネーを提唱している(表5参照)。 エコマネーの導入により環境・福祉・介護・コミュニティ・文化等の地域にある貴重な資源で、 貨幣に置き換えられていないため流動化していないものを資源化し、 流通させ、 それにより地域を活性化させるという仕組みである。 欧米においては、 地域限定流通のLETS(地域経済信託制度)が多くの地域で展開されており、 我が国でも一部地域で既に実験が開始されており、 このような仕組みを採用しているNPOも見受けられる。

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表5 エコマネーとは
1) 地域内で生産・消費・廃棄される財・サービスに対し、地域内に限って運用する地域内通貨
2) 決済機能だけで金融仲介機能は有しない
3) 地域内の経済循環が地域内で完結することによる問題解決可能性を狙いとする
(環境・福祉・介護サービスの確保等)
4) 経済の枠組みを小規模化する狙いを有する
5) 過疎地域においても経済循環と物資循環ループを確立する
6) リアルマネーと組み合わせて使用される


―― 参考文献 ――

開銀・地域レポート「地域における環境への取組みについて
  〜地方自治体とNPOによるローカル・パートナーシップへ向けて〜」

「環境アセスメント制度のあらまし」 (環境庁)
「アセス法を評価する」原科幸彦 著 科学1998年8月号(岩波書店)

「日本におけるSEAの可能性」原科幸彦 著
戦略的環境アセスメントに関する国際ワークショップ資料,1998年11月26日

「東京都総合環境アセスメント制度試行の概要について」(東京都)

開銀・調査「わが国機械産業の課題と展望−ISO14000シリーズの影響と環境コスト−」

「サステイナブル・コミュニティ 持続可能な都市のあり方を求めて」川村健一・小門裕幸 著
(学芸出版社)

開銀・設備投資研究所「平成10年度サステイナブル・コミュニティ研究会議事録」

「エコマネー ビックバンから人間に優しい社会へ」加藤敏春 著 (日本経済評論社)

「21世紀の“温かいお金”エコマネー」加藤敏春著 現代農業1999年5月増刊号


■中山 行輝 (なかやま・ゆきてる)
  1972年東京大学法学部卒、 日本開発銀行入行。 (財) 中東経済研究所出向を経て、 1990年設備投資研究所主任研究員。 1992年日本開発銀行企画部副長。 1993年、 同企画審議役。 1994年 (財) 大阪湾ベイエリア開発推進機構総務部審議役 (出向)。 1995年、 同、 総務部長 (同)。 1996年設備投資研究所次長。 1998年 (財) 南西地域産業活性化センター上席研究員 (出向)、 現在に至る。


情報誌「岐阜を考える」1999年記念号
岐阜県産業経済研究センター

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