9 地域・社会

官民の役割分担
 ――官民協働を目指して――


橋本哲実
(北海道東北開発公庫総務部企画担当参事役)


1. 官民協働の背景 ――民間主導による公共的課題の実現――
  世界の主要国では、 1980年代から 「小さな政府」 の取り組みが具体化し、 規制緩和、 民営化、 外部委託等が推進された。 我が国においても、 国鉄、 電電公社等の民営化、 社会資本整備への民間活力の活用等が図られてきた。 今後も、 社会資本整備や公共サービスの提供への民間の資金やノウハウの活用を進めることが求められている。
  これは、 官の領域を絞り込むとともに、 官民の関係を官民協働型、 官民パートナーシップ型へと転換するものであり、
  第1に、 官民の役割分担を多様化することにより、 公的部門の改革が進み、 効率的かつ効果的な公共サービスの提供が可能となる。 これは、 国民に対するサービスの向上とともに、 厳しい財政状況にある我が国の財政構造の改革に寄与するものとなる。  
  第2に、 公共分野についても出来る限り民間事業者に委ねることは、 新たな事業機会の創造とフロンティアの拡大をもたらし、 当面の景気拡大に資するとともに、 中長期的な経済構造改革の推進にも寄与するものとなる。
  しかしながら、 現在の官民の役割分担の議論は、 単にこのような行革の観点からの動きにはとどまらない。
  今後の成熟社会において、 経済社会の環境変化に対応するためには、 新たな公共的な課題の実現が重要な意味を持ち、 これらを官のみならず、 民の積極的な参画により実現することが鍵となるとの認識に立つものである。
  すなわち、 グロ−バル化の進展、 少子・高齢化の進行、 地球環境問題の深刻化等のなかで、 経済効率のみを追求する社会から、 経済活力と生活、 環境が調和した持続的成長が可能な社会への転換が求められている。
  こうした社会を創造するためには、 単なる市場原理の徹底ではなく、 地球環境の保全、 循環型経済の実現、 福祉・生活等に関連した社会サ−ビスの提供、 良質な都市空間の創造、 国際的な知的基盤の整備等の公共的な課題の解決が重要な意義を持つ。
  このためには、 「官−公」、 「民−私」 という従来の図式を見直し、 「民−公」、 すなわち、 民間が市場原理に基づき公共領域を担う動きを拡大させる必要がある。
  このような新しい官民協働は、 21世紀に直面する地球環境問題等を解決し、 環境等と調和した持続的成長の実現等に寄与するとともに、 経済活動を通じて、 単なる利益追求だけでなく、 知的価値、 内面的な要素を追求できる 「新しい経済」 を実現するものと期待される。 また、 地域においては、 新たな地域産業の創造を支えるものとなる。
 
2. 官民協働の 「仕組み」
(1) 特色
  官民協働は、 民間主導で社会資本の整備や公共的なサ−ビスを提供するための官民の役割分担の新たな枠組みであるが、 80年代以降、 欧米各国で新しい 「仕組み」 が模索されている。 これらは、 次のような特色を有するものである。
  第1に、 ニーズが多様化するなかで、 官民の関係がより多様性を増し、 規制や指導の関係ではなく、 対等なパートナーとして 「協働」 する関係に立つものである。
  第2に、 官民協働の手法を固定化せず、 課題や分野に応じて、 「オーダーメイド」 で仕組みを構築する柔軟性、 機動性が必要となる。 すなわち、 すべてを官又は民に委ねるということではなく、 あくまで官と民の最適な関係を設計するものである。
  第3に、 公的なサービスに競争的な環境を実現することにより、 良質なサービスを効率的に提供することを目指すものである。 その際、 施設の建設のみならず、 運営を含めた事業の全過程にわたるコスト評価やキャッシュフロー分析を基礎にするものである。
  第4に、 官民のリスク分担、 責任分担の明確化が中核的な意義を持つものであり、 もたれ合い的な関係をできる限り廃したリスク・アセスメント、 リスク・マネジメントの仕組みを構築するものである。
  第5に、 リスク分担を明確化しつつ、 投資家の拡大等を図るプロジェクト・ファイナンス等の新たな資金調達手段を活用するものである。
  第6に、 情報開示、 アカウンタビリティを徹底し、 事業内容の透明性を高め、 行政のみならず利害関係者からの多面的なチェックを受けるものである。
  更に、 官民協働の 「仕組み」 は、
 ・官民の役割をより峻別し、 契約的な関係で処理するアプローチ
 ・官民の協働領域や共同事業体の役割を尊重するアプローチ
 に大別される。
  前者は、 官民の 「分野」 の明確化に重点を置くものであり、 英米諸国にみられ、 後者は 「事業主体」 に重点を置いて仕組みを構築するものであり、 大陸諸国にみられる傾向にある。
  我が国は、 従来第3セクター、 民活方式のような官民の中間的な領域に意義を見い出してきた傾向にあるが、 官民のリスク分担が不明確である等の問題が指摘されており、 これらの活かすべき点、 改めるべき点と上記の新たに求められる事項を組み合わせ、 「日本型官民協働」 ともいうべきものを構想していく必要があると考えられる。  
  以下、 現在議論されている官民協働の仕組みについて海外の動向を含めて、 従来の民活方式との比較等を中心に概観する。
(2) PFI
  PFI (Private Finance Initiative) は、 従来公共部門が担当してきた公共施設等の整備・運営等に民間の資金やノウハウを活用し、 民間主導で公共サ−ビスの提供を行うことにより、 効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図る考え方である。
  1992年に英国で開始されて以降成果を挙げており、 我が国でも 「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律案」 (PFI法案) が国会に提出され、 現在関係省庁では、 国民生活に関連する廃棄物処理・リサイクル・発電施設、 物流基盤施設、 道路、 公園、 庁舎等の幅広い施設を対象に導入の検討を行っている。
  その核心は、 公共サービスの提供における官民の役割分担を見直し、 新たな官民パートナーショップに基づき民間が公共サービスを提供する主体となること、 事業全体にわたる官民関係者で最適なリスク配分を行い、 契約等でこれを明確に担保することにある。
  従来の公共事業は、 官が公共施設の設計、 建設、 運営・維持管理を行い、 公共サービスを提供するが、 PFIは、 民間事業者が基本的にこれらを行うことになり、 官は事業の企画、 監督等による公共性の担保、 サービスの購入等に特化する。
  その結果、 官が負担していた事業リスクは、 民間に移転し、 事業関係者間の契約等により最適なリスク分担を行うことになる。 すなわち、 事業会社は、 公的機関との事業契約により、 公共サービスの購入、 需要リスクの分担等のルールを定め、 建設会社等との間で建設リスクを分担し、 金融機関とは融資契約等を行う。
  更に、 これらは、 資金調達においていわゆる 「プロジェクトファイナンス」 方式を活用するなかで実現されることが想定されている。
  従来の民活事業、 第3セクター事業は、 公共事業ではないが公共性が高い社会資本等を対象にしていたこと、 関係者間のリスク分担が必ずしも明確でないこと、 官民共同事業体を活用したこと等の点で、 PFIとは異なる。
(3) SEM
  フランスのSEM (Socie′te′ d'economie Mixte)は、 公共的な事業を行うために、 民間及び公共団体により資本が拠出された官民共同出資会社である。
  法制度上は、 商法上の株式会社であるが、 1983年の 「SEMLに関する法律」 等の適用も受け、 地方公共団体の出資する会社の場合、 これが単独又は複数で株式の過半数を占めなければならないことを求められている。
  現在、 フランスに約1,300社が存在し、 事業分野は、 都市整備、 不動産建設、 サービス (廃棄物処理、 交通、 観光等) を中心としている。 国の関係機関からスタートしたが、 地方分権化に伴い地方自治体に関連したものが中心となってきており、 地公体の関連業務のうち、 純粋の民間企業が取り扱えない公共性の強い分野の担い手となっている。 EU全体では、 類似の地域公社が約1万社存在しているといわれる。
  SEMは、 我が国の第3セクターに当たるものであり、 歴史も古く、 都市開発・地域開発において大きな役割を果たしているが、 我が国と比較すると、 官民の役割分担等において次のような点が異なる。
・地方公共団体の出資比率を50%以上とし、 地方公共団体の管理下で運営される組織としての公共性の担保を明確にしている (SEM出資者の平均像:地方公共団体65%、 民間企業・非営利団体25%、 公的金融機関10%)。
・地方公共団体から派遣される取締役は議員を当て、 事業体への民主的コントロールを徹底する一方、 経営者については民間企業としての経営責任を明確にしている。
・公共サービスの提供に際して、 地方公共団体との関係は契約により規定し、 リスク分担を明確化している。
(4) CDC
  米国のCDC (Community Development Corporation) は、 大都市の衰退地域等において住宅供給や社会サービスの提供を行っている民間非営利組織である。 1960年代に始まり1974年の住宅・コミュニティ開発法等を契機に発展し、 全米で3,000を超えるものが活動していると言われる。
  CDCは、 民間の非営利組織、 いわゆるNPOであり、 民間が自発的に公共的なサービスを提供する点で、 第3セクターのような直接的な公的コントロールは受けない。
  しかしながら、 その発展は、 CDCを支える 「官民連携」 によるところが大きかったと考えられる。 すなわち、 CDCの活動は、 連邦政府、 州政府のほか、 大学研究機関、 個人、 コミュニティへの再投資を行う金融機関、 フィランソロピーを重視する民間企業、 情報・資金等を提供する各種仲介組織 (インターミディアリー) 等のネットワークに支えられたものととらえられよう。
  換言すれば、 CDCは、 官民双方が明確な役割分担に立ちつつ、 対等な関係のもとに 「協働」 する 「パートナーシップ」 の関係を基本とするものである。
  シリコンバレー等における新産業の創造においても、 こうした地域のNPO的な活動によるコミュニティニーズの吸い上げや企業間の交流・連携の拡大が大きく寄与したことは、 既に多くの関係者が指摘しているところである。
  我が国においても昨年、 「特定非営利活動促進法」 が成立し、 NPOを支える法制度の整備が前進をみたが、 NPOの本格的な展開はこれからと期待されており、 これを支援するネットワ−クの形成が待たれている。
(5) MBO
  MBO (Management Buy Out) は、 英国をはじめとする欧米諸国において民間企業等が事業再編の手法として用いているもので、 「子会社、 企業の事業部門等において、 それらの行っている事業の継続を前提として、 現在の経営者、 事業部門の責任者、 外部投資家により構成されるグループが、 株式を買取り、 経営権を取得すること」 をいう。
  MBOは、 公開企業の事業の一部売却、 未公開企業の事業継承以外にも、 国営企業等 の民営化においても活用されている (MBO全体の1割程度)。
  MBOは、 もともと80年代初頭のサッチャー政権下で国営企業の民営化のための手法として誕生してきたものであり、 現在までにMBOにより民営化された案件は200件以上に及ぶとされる (国営・自治体バス会社、 国営鉄道、 国営鉄鋼会社等)。 また、 事業の一括売却のほか、 分割、 ノンコア事業の分離売却、 政府機関の売却等の形態に活用されている。
  我が国において、 これまでMBOを活用した事例は、 中小零細企業の事業継承等の僅かなものに限られているが、 MBOは、 現在その実現のための法制度等の整備が検討されており、 また、 公的な事業の継続性を確保しつつ、 裁量・自由度の拡大を図りうるものとみられ、 今後民営化の手法のひとつとして活用されることが想定される。
 
3. 官民協働を支える金融的支援措置、 コーディネート機能の重視
(1) 特色
  官民協働によるプロジェクトの起業化のためには、 民間の創意とインセンティブの活用を図ることが重要であり、 金融面からの支援措置が重視されている。
  これは、 次のような特色を有している。
・プロジェクト・ファイナンスの活用等、 プロジェクトベースで資金調達を設計して支援するスキームであること
・債券発行等による市場からの資金調達を中心とするが、 直接金融等の最新の金融技術を活用しつつ、 公的な支援により低利資金の供給が可能な仕組みを講じていること
・地域単位の金融的支援措置であり、 域内の資金循環を重視し、 地域金融システムの安定にも寄与していること
  また、 これらは、 官民の多数の関係者により推進されるため、 資金面にとどまらず、 情報面、 人材面から事業化を支援する総合的なコーディネート機能を重視するものである。 これは、 ワンストップアプローチとも言われる。
  このような動きの背景には、 欧米諸国における地域政策の転換がある。
  すなわち、 欧米諸国においては、 経済のグローバル化等の進展による地域問題の深刻化や地域の多様性をベースとした新規事業の創造、 循環型社会の形成等の必要性の高まりに対応するため、 地域政策の戦略的な位置付けを高めている。       
  一方、 その政策手法は、 80年代以降の低成長、 財政悪化等のなかで、 国主導の財政移転型のものから、 地域主導による民間活力の活用、 市場原理の重視、 金融的手法の重視、 支援措置の総合化等を特色とするものに転換しつつある。
  このような支援措置のあり方は、 欧米諸国においては80年代以降様々なかたちで模索されているところであり、 以下いくつかの事例を概観したい。
 
(2) 欧州投資銀行 (EIB)
  EUでは、 欧州の経済的統合に向けた条件整備として地域政策 (Regional Policy) を重視しており、 地域政策の目的は、 地域間格差を是正し、 域内の経済的社会的結束を高めることを通じて、 競争的な市場を実現することにある。
  こうした課題を実現するため、 財政的手法として 「構造基金」 等から低開発地域、 衰退地域等へ補助金を交付するとともに、 金融的手法として 「欧州投資銀行」 (EIB、 EuropeanInvestment Bank) による融資等が活用されている。
  EIBは、 ローマ条約に基づき1958年に設立されたEUの政策金融機関であり、 地域開発分野を中心に、 欧州共通インフラ整備、 環境対策等の分野で融資等を実施している。 融資に必要な原資は、 市場から調達しており、 調達に当たっては加盟国の信用や充実した自己資本により高格付けを得て低利調達が可能となっている。
  また、 EU各国においても、 地域政策を目的とする政策金融機関が設立され、 官民連携プロジェクトへの資金供給や情報提供に当たっている (バイエルン州復興開発金融公庫 (ドイツ)、 CDC (フランス)、 MCC (イタリア)、 ケラ社 (フィンランド) 等)。
(3) 産業開発債 (IDB)
  米国では、 各州が特色ある経済開発、 都市再開発等を柱とする地域政策を展開しているが、 これを支える金融的手法が 「産業開発債」 (IDB、 Industrial Development Bonds) である。
  産業開発債は、 一般的な条件では資金調達が困難な民間の地域開発事業や官民連携プロジェクトに当てる資金調達を行うために、 利子所得に係る連邦所得税の免税措置による低利で発行される債券である。 各州では、 これに基づく資金供給や情報提供を総合的に行う政策金融機関が設立されている事例が多く見られる (マサチューセッツ州開発金融公庫、 ニュージャージー州開発公庫等)。
  産業開発債は、 60年代以降地域開発事業の資金調達手段として本格的に活用されてきており、 その後財政悪化のなかで、 連邦税制改革法 (86年) 等による起債対象の限定等も実施されているが、 97年度の発行額は112億ドルとなっている。

5. 我が国における官民協働の実現を目指して
  今後、 我が国で官民協働の仕組みを導入していくためには、 海外の先進事例に学ぶとともに、 単にそれらを形式的に模倣するだけでなく、 我が国の実情を踏まえた 「日本型官民協働」 の仕組みを創造する必要がある。
(1) 「地域」 をベースとした取り組み ――地域政策の新展開――
  官民協働は、 「地域」 をベースにした取り組みが中心的な役割を果たすこととなる。 その意味で 「地域」 は、 今後の社会創造に際して、 戦略的に重要な単位であり、 キーワードとなる。
  第1に、 今後経済社会が直面する課題は、 その多くが生活の場である地域やコミュニティのニーズに根ざすものであり、 地域に根付いたアプローチが必要なことである。  
  たとえば、 地球環境問題の対応については、 技術的な対応とともに社会システムの見直しが重要であり、 地域単位で循環型社会を実現することが必要である。 また、 福祉、 生活等の社会サービスの充実については、 きめ細かなコミュニティビジネスの起業化が重要な役割を果たすものと期待される。 さらに、 新規事業の創造については、 地域で多様なニーズに応える産学官連携の起業化支援ネットワークが求められている。   
  第2に、 経済のグローバル化が進み、 社会の抱える問題が複雑化するなかで、 従来の全国画一的な発展モデルでは対応が困難となり、 「国家」 の枠組みの比重が低下する一方、 「地域」 の多様性や個性を重視した発展が期待されていることである。    
  これは、 グローバル化のなかで、 「地域」 に新しい位置付けを与えるものといえ、 多様性ある分散型の経済社会を目指す観点から地域政策を再構築することは、 欧米諸国にも共通する動きとなっている。
  第3に、 財政制約が強まるなかで、 地域経済を支えてきた財政トランスファーの継続が見込めないことから、 地域において財政依存を脱却し、 民間主導の社会資本整備等を進める必要があり、 官民協働プロジェクトの推進は地域が自立的な発展を図るうえでも緊急の課題となっていることである。 その意味で、 官民協働プロジェクトの推進は、 地域政策の新たな展開を支える柱のひとつとなる。
(2) 仕組み性の重視
  官民協働の仕組みについては、
  第1に、 画一的なものとはせず、 対象分野やニーズに応じて、 地域主導でオーダーメイドで構築することである。 その際、 官民協働については、 前述のように官民の役割分担の明確化が基本的な特徴となる。
  第2に、 我が国が従来から取り組んできた第3セクターは引き続き官民協働の手法のひとつとして活用が期待されるが、 官民リスク分担、 経営責任の所在、 情報開示の徹底等の点で問題が生じてきたため、 適切な見直しを行う必要がある。      
  その際、 「オールオアナッシング」 ではないきめ細かな議論を行うべきであり、 たとえば、 次のような視点に配慮すべきである。
・フランスのSEMのように対象分野を純粋の民間では行えない公共性が強い分野や地方自治体の広域的な共同事業の仕組み等として活用すること
・民商法を超えて独自の法制度的な整備が必要なものはその手当をすること
・経営責任を持った経営者を配置し、 広く民間からも人材を登用すること
・情報開示で透明性を高め、 事業を定期的に見直す仕組みを導入すること
(3) コーディネート機能の整備
  官民協働の仕組みを構築するためには、 国と地方、 官と民の複数の関係者間の架け橋となり、 縦割りの行政分野にとらわれず総合的な視点を持った、 専門的なコーディネート機能を整備する必要がある。
  今後の官民協働は、 事業に応じて、 また、 地域毎に様々な形態となり、 多様な関係者がリスク分担等を明確化にする複雑なプロセスを経るものと考えられ、 資金供給から計画・構想策定支援、 運営ノウハウの提供を含めてプロフェッショナルなノウハウを持つ機関の総合的なオーガナイズ機能が不可欠である。 このため、 従来からこのような機能を発揮してきている政策金融機関等を活用することも考えられる。
  更に、 官民のリスク分担に関する理解の浅い我が国では、 官民連携を支える法制度的な基盤整備を行うべきである。 契約社会としての性格が弱い我が国において、 リスクマネジメントを定着させるためには、 慣例的に行うだけで十分ではなく、 法制度的な裏付けが必要となり、 PFI法、 NPO法や各種ガイドラインは、 こうした役割が期待されている。
(4) プロジェクトベースの地域政策金融と域内再投資の強化
  地方圏における官民協働を行う場合は、 我が国の地方分権は依然として十分ではないことに加え、 地方の財政事情が悪化しており、 民間金融の事業基盤も弱いため、 金融的支援措置の整備を行うべきである。 特に、 プロジェクトファイナンスは、 一般に100億円程度の規模が必要とされるが、 地方圏の官民協働プロジェクトは、 小規模でリスクも高いため、 地域単位でプロジェクトベースの地域政策金融機能を強化する等の地域独自の仕組みを開発する必要がある。
  これは、 地域内の投資家と地域のプロジェクトを結び付け、 域内再投資を促進し、 地域金融システムの安定を図るうえでも重要な課題となろう。
  以上、 新たな時代に対応した官民協働の試みは、 未だ緒についたばかりである。 北海道東北開発公庫は、 平成11年10月日本開発銀行と統合し、 日本政策投資銀行に移行する予定であるが、 新銀行もプロジェクトファイナンス等による資金供給やプロジェクト起業化支援、 コーディネート機能等の面で官民協働の推進に貢献することが期待されている。
  日本型官民協働の創造へ向けた関係者の幅広い議論を期待したい。
  (本稿の意見の及ぶ部分は個人的な見解であることをお断りしておきたい。)


■橋本 哲実 (はしもと・てつみ)
 1955年東京都生まれ。 1981年東京大学法学部卒業、 北海道東北開発公庫入庫。 北海道支店、 郵政省通信政策局出向、 東北支店、 総務部総務課主任調査役、 総務部参事役等を経て、 現在、 同庫総務部企画担当参事役。 専門は地域政策、 政策金融。 論文は 『地域開発金融機関の展開方向』 (『地域開発』) 等。


情報誌「岐阜を考える」1999年記念号
岐阜県産業経済研究センター

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