3 ジェンダー・ジェネレーション

人口学からみた性別
 ――晩婚化・非婚化の原因と展望


廣嶋清志
(島根大学法文学部教授)


  社会の大きな関心を集めている少子化は, 少なからぬ部分が夫婦一組あたりの出生児数の減少によってもたらされているにしても, 晩婚化・非婚化が最大の要因である (廣嶋,1999b)。 晩婚化・非婚化がなぜもたらされているか, さらに今後どうなっていくかを, 性別差の観点から考察してみよう。 この問題は次の世代をどのように形成していくかに関わっているので, 世代間関係の問題も含まれている。 いうまでもなく, 性別に関する旧来の価値観が変化していることがその要因のすべてではないにしても大きな部分を占めているはずであり, また, その変化がさらに持続し, 個人の平等が達成されていくことにより, 今度は逆に晩婚化・非婚化が緩和されていくものと考えられる。

(1) 結婚に関する意識
  晩婚化・非婚化は社会全般の個人主義化, 自由主義化が結婚行動に浸透していることと関連が深い。 結婚に関する自由主義, 個人主義は, 「結婚は個人の自由であるから, 人は結婚してもしなくてもどちらでもよい」 というような意識として表現できる。 他方これに対立する結婚に関する伝統主義, 保守主義は, すべての人が結婚を当然するものとする皆婚主義といえよう。 男性については 「結婚して一人前」 などと表現される意識であり, 女性については 「女性の幸福は結婚にあるのだから, 女性は結婚する方がよい」 などと表現され, 結婚至上主義ともいえる。 どちらも明らかに性別役割意識, ジェンダー規範を含んでいる。
  総理府の世論調査(総理府広報室1998) によれば, 女性についてのこの意見に賛成( 「どちらかといえば賛成」 を含む) する者は1992年に女性78%, 男性81%と多数であるが, 1997年には68%, 74%へとそれぞれ着実に減少した。 他方, これと対立する 「結婚は個人の自由であるから, 人は結婚してもしなくてもどちらでもよい」 という自由主義的な意見には, 1992年に賛成が女性66%, 男性58%であったが, 1997年には74%, 66%へとそれぞれ10%近く増加した。 その結果, 1997年に女性では皆婚主義より自由主義の方がやや優位(68%対74%) となる一方, 男性ではまだ皆婚主義の方がやや優位 (74%対66%) である*1*。 このように1990年代半ばに女性はやや自由主義へと傾いているが, 男性はまだそこまで行っていないというのが現実である。
  このような結婚を当然とする規範意識が弱まり, 個人主義が強まることが直ちに各人の結婚行動を非婚へと向かわせるものとは限らないが, その基盤条件となっていると考えられる。

(2) 結婚の得失意識
  結婚することが社会規範よりも個人の自由意志に基づく行動であると意識されると, 結婚は生活様式のひとつとして意識され, 未婚生活と結婚生活の生活様式としての利点を比較する意識が強まる。 その結果, もし結婚生活の方が利点が多いと意識されないなら結婚が遅くなると考えられる。
  出生動向調査によると,“今のあなたにとって結婚することは" 「利点があると思う」 ものは未婚男女とも多数で, 女子では1987年, 1997年とも約70%で変化がないが, 男子では1987年の69%から1997年の65%にやや減少し, 「利点はない」 とするものが25%から30%に増加している (国立社人研,1999b)。 さらに, 結婚にない未婚生活の利点としては男女とも「行動や生き方が自由」 を約70%が挙げている。 結婚生活の不自由さには, 単なる当面の打算の他, 男性にとっては家族扶養の義務の負担感, 女性にとっては就業継続の困難, 家庭生活の負担の偏りなどジェンダー規範とそれを生む現実的環境からくるものがあると考えられる。 このような意識と現実が変わるまでは, 個人主義化は晩婚化・非婚化をもたらすであろう。

(3) 結婚の意志
  自分自身の結婚に対する意識についてみると, 出生動向基本調査によれば, 結婚する意志の有無について 「生涯独身で暮らす」 という独身主義は1982年から1997年の15年間に18−34歳未婚人口の男2.3%, 女4.1%から男4.9%, 女5.2%前後へとやや上昇しているが, 全体に占める割合は微々たるもので, 非婚志向はきわめて弱い。
  しかし, 結婚するものについてこれを2分して, 「ある程度の年齢までに結婚するつもり」 という年齢重視と 「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」 という相手重視に分けると, 1987年から1997年に男女ともほぼ6:4から5:5(女性では4:6に近い) に変化している (国立社人研,1999b)。 このような年齢規範の弱化, 相手重視の意識変化は, 理想的な相手に巡り合えない可能性がある以上, 未婚にとどまる可能性を高めているといえる。
  これは, 結婚がより純粋に個人間の人格的な関係へと変化していくことによって生まれた困難である。 ただし, それがどの程度の困難となるかは, 結婚前にどの程度, 男女の交際が行われるのかということや, 結婚をやり直すための離婚がどのように意識されているかが影響するであろう。

(4) 夫婦の年齢差縮小
  晩婚化は, 戦後全体を通じて男性より女性においてより大きく進み, その結果夫妻の年齢差が小さくなった。 人口動態統計によると, 夫妻の平均初婚年齢差は1950年の2.9歳から1997年の1.9歳まで47年間に1.0歳縮小した。 平均年齢差ではそれほど大きな変化にみえないが, 夫妻の年齢の組み合わせをみると特徴的な変化が現れている。 夫妻の年齢の組み合わせでは, 夫妻が同年齢の婚姻が全婚姻の1970年の10.1%から1997年の18.5%になり, 妻年上の婚姻も10.3%から19.5%に増加している。 夫妻の年齢をぞれぞれ固定してみてみると, その配偶者の年齢は夫妻の晩婚化にともない高齢化する可能性が高い。 実際, 初婚年齢25-29歳の夫の妻の年齢は1970,80,93年にしだいに高年齢化し, 頂点(最頻値) は23, 24, 25歳と移行した。 これに対して, 初婚年齢25-29歳の妻の夫の年齢は同じ期間に頂点は28歳で変化していないが, 第2位は27,29,26歳と変化し, 1993年には1970年よりもさらに若年化している。 つまり, 妻にとっては以前に比べより若い夫を選ぶ傾向が強まっているといえる。 全体的にみて夫妻の年齢の性別偏差は晩婚化を通して緩和されつつあるといえる。
  夫妻の年齢差の縮小は年齢面で男女がより平等であることを意味するが, 実際に年齢差の小さい夫妻における妻の就業率,夫の家事参加度が高いことが分かっており (広原ほか,1995), 同年齢婚は女性にとって男女平等により近い夫婦関係を生み出している。 その意味で, 年齢差の小さい夫を選ぶのは妻にとっての戦略となっている面があるし, 妻の晩婚化そのものが夫妻の年齢差を縮める手段となっている面もあるとみられる。

(5) 希望結婚年齢
  希望する結婚年齢は, 出生動向基本調査によると35歳未満の未婚者全体で1987年から1997年の10年間にも男子28.4歳から29.3歳へ,女子は25.6歳から27.4歳へそれぞれ0.9,1.8歳も上昇している (国立社人研,1999b)。 したがって, 晩婚化は基本的に男女とも自らの選択の結果といってよいだろう。 相手に希望する年齢も, 男子の場合24.7歳から26.3歳へ, 女子の場合28.6歳から29.5歳へ, それぞれ1.6歳,0.9歳上昇している。 したがって, 希望する夫妻年齢差は男では3.7歳から2.9歳へ, 女では3.0歳から2.2歳へと縮まっている。 このような夫妻年齢に関する偏差意識は妻については夫の晩婚化を促進する方向にあり, 夫については妻の晩婚化を抑止する方向にある。
  たしかに, 男女の希望を1997年について比較すると, 男子の結婚年齢については男子自身の希望より女子の希望の方が若干(0.2歳) 高く, 女子の結婚年齢については女子自身の希望より男子の希望の方が1.1歳も若い。 また, 希望する年齢差は男では2.9歳, 女では2.2歳であるから, 0.7歳女性の方が小さい差を望んでいる。
  これらの希望とさきの現実の結婚年齢を比較すると, 1997年の男女の未婚者における結婚希望年齢は1997年の現実の平均初婚年齢夫28.5歳, 妻26.6歳よりそれぞれ0.8歳高く, 相手に望む結婚年齢は夫については1997年の現実値より1.0歳高く, 逆に妻は0.3歳若い。 このことから考えると, 未婚男子が妻に望む年齢は実際より低いがそれにもかかわらず, 近い将来男女ともさらに晩婚化が進むことが予測される。 一方, 1997年の現実の夫妻平均年齢差は1.9歳で, 男女それぞれの希望年齢差よりすでに小さいが, 女性の希望年齢差2.2歳により近い。
  今後, 希望年齢差は夫妻年齢の偏差意識の弱まりとともに, また現実に追随して, より小さくなることが予想される。 これによって男性の年齢上昇圧力は緩和されるが女性の結婚年齢の上昇は容認されるといえる。

(6) 配偶者選択
  配偶者選択において結婚相手の条件としてどのような点が重視・考慮されるかを, 1997年の独身者に対する出生動向基本調査によってみると, 女子では人柄98%,経済力91%, 職業78%, 容姿67%であるが, 男子では人柄95%, 容姿74%, 職業36%, 経済力31%で, 女性には経済的な条件をあまり求めないという性別役割分業の選択基準があるといえる。
  ただし, 男性に主たる経済的役割を期待しつつも, 「自分の仕事に対する理解と協力」, 「家事・育児に対する相手の役割」 を重視・考慮する女性がそれぞれ約90%にも上り, 旧来の性別役割を変える動きも併存している点が注目される。
  また, 女性の結婚相手に対する条件を女性の学歴別にみると, 男性の学歴と職業に対する女性の重視度が学歴によってかなり違い, 高学歴の女性ほどその重視・考慮度が高い。 それは女性の学歴につりあった男性の学歴,職業が求められていることを意味し, 男性の学歴, 職業の社会的地位が女性より高いことを求める結婚観(男性上方婚) の存在をうかがわせる。
  主に男性が経済的役割を担うという男女の価値観に合致する配偶者を選択することがどの程度現実に可能であるかは問題であり, その価値観と現実のずれが晩婚化のひとつの要因となっていると考えられる。 今後, 性別役割意識の変化によってこの面からの晩婚化は緩和されるものと思われる。

(7) 女性の人生
  性別役割分業に関する意識変化も結婚に対する意識変化の重要な側面である。 女性の労働力参加が進行するとともに, 女性の結婚後の就業をめぐるライフコースに対する考え方が多様化し, 同時に男女間でも差が生じている。 総理府の調査によれば 「夫は外で働き,妻は家庭を守る」 という考え方に賛成するものは1972年の80%あまりから1997年の男65%, 女52%へとかなり減少した (総理府,1973,1998) が, まだ賛成が半数以上で, 欧米に比べるとはるかに賛成が多い (東京都,1994)。
  しかし, 女性の専業主婦志望は1990年代後半に入ってかなり後退した。 出生動向基本調査によると未婚女性においては, 理想の生き方で, 第1に多いのは1987年と1992年には“結婚あるいは出産を機に退職しその後仕事は持たない" 「専業主婦」 (34, 33%) であったが, 1997年には子育て後の 「再就職」 (34%) になった。 そして第2位は結婚育児と就業の 「両立」 (27%) となり, 1992年の19%から目立って増加している。 したがって, 「専業主婦」 は1位から3位(21%)へと転落した。 これに対して, 現実になりそうと予想される生き方は, 「専業主婦」 と 「両立」 の間の妥協的な性格を持つ 「再就職」 により集中し, 「再就職」 43%, 「専業主婦」 18%, 「両立」 16%となっており, 「両立」 を望むものの後退が目立っている。 結婚後育児期に家庭にとどまる 「専業主婦」 と 「再就職」 を合わせると, 理想と予想は55%, 61%でほぼ共通している。
  なお, 「非婚継続就業」 は理想で4.4%であるが, 予想では9.3%に上っているのも注目される。 これはさきにみた結婚について生涯独身と答えた者5%の約倍である。 また, “結婚するが子供を持たずに仕事を続ける"といういわゆるDINKSは理想で4.4%, 予想で3.0%に過ぎない。
  一方, 未婚男性が女性に望む人生は 「再就職」 43%, 「専業主婦」 21%, 「両立」 17%で, 男性は女性に比べて, 結婚後育児期に女性が家庭にとどまるのを望むのが合計64%で, 女性 (55%) に比べ10%ほど多く, 「両立」 は半分程度にすぎない。 ただし, 「専業主婦」 は1987年の38%からかなり減少し, 女性の理想(21%), 女性の予想 (18%) にほぼ同じになった。 また 「非婚継続就業」 は1.0%, DINKSは1.5%で, ほとんど全部の未婚男性が女性の結婚・出産を希望しているといってよい。
  このような女性の人生という重要問題について男女間で考え方の違いがあることは, 未婚男女が結婚に踏み出すのに時間を要する原因の一つとも考えられる。

(8) 結婚形態
  結婚形態を恋愛婚と見合い婚に分けると, 結婚年次別にみて見合い婚が1930-39年の69%から1995-97年の10%まで毎年約1%の割合で直線的に低下する一方, 恋愛婚は1930-39年の13%から1995-97年に87%に達している(国立社人研,1999a)。
  希望する結婚形態について, 出生動向基本調査によれば, 「恋愛結婚したい」 と希望する未婚者は1982年の男女とも約50%から1997年に男子67%, 女子73%に増えており, 近年さらに恋愛志向が強まってきたといえる。 ただし, 恋愛婚希望の割合は現実の結婚における恋愛結婚の割合よりかなり低い。 残る未婚者では 「見合い結婚をしたい」 というものは男女とも1%未満にすぎず, 大部分 (男子31%, 女子25%, 1997年) はどちらでもかまわないとしている。 したがって, 見合い結婚を受容する者はかなり多いといえ, この多さは結婚相手にめぐり会う機会が少ない未婚者が多いことを反映しているとみることができよう。
  恋愛結婚が主流となった今日, 結婚は第三者が介在して意図的に男女を引き合わせることにより成立するものから, 各自が自分で相手を見つけ恋愛によって成立する自由な関係という性格を強め, いいかえると男女が結婚市場に参加して各自のもつ資源をめぐる取り引きによって成立するという性格が強まっているといえる。 このことから, 直ちに晩婚化・非婚化が引き起こされるとはいえないが, 晩婚化のひとつの重要な要因が当事者の男女交際の在り方に存在するものと考えられる。

(9) 男女交際
  晩婚化・非婚化の要因として, 男女交際が何らかの要因で阻害されて十分でないからという説と反対に男女交際が活発化したことそのものを挙げる見方がある。 しかし, この2つは現象としては必ずしも対立するものではない。 結婚の恋愛中心主義化, 結婚の市場主義化の進行そのものが男女交際の不均等化を生み出すのは当然と考えられる。
  実際, 未婚者における男女交際の程度をみると, 出生動向基本調査によると1982年から1997年にかけて婚約者, 恋人, 異性の友人のどれかがいるものは男子で59%から42%へ, 女子では66%から51%へそれぞれ減少し, 「交際している異性がいない」 というものが男子では37%から50%に, 女子でも30%から42%に増大している。 その一方で 「恋人として交際している異性がいる」 というものは男子で17%から23%へ, 女子では18%から32%へ増大している。 男女交際の機会に恵まれない男女が増加する一方で, 恋人として交際する男女が増大するという男女交際の不均等化が進行している。
  結婚10年以下の夫婦について, 結婚にいたる期間を出会いから計ると, 1987年の2.5年から1997年の3.4年まで10年間に0.9年の延長がみられる。 この間に出会いの年齢は男では25.7歳から25.1歳に若年化し, 女では22.7歳ごろであまり変化がみられないので, 結婚年齢の上昇は, 男女の出会いが遅くなったからではなく, 結局交際期間の延長によって生じたといえる (国立社人研,1999b)。 その意味では結婚前の男女交際がより活発化しているといえるし, また結婚に踏み切るのを遅らせる事情が生じてきたともいえる。

(10) 結婚と出生のつながり
  結婚と出生とのつながりの程度を示すものとして, 婚姻(法律婚) 外の出生の割合を見ると, 1947年には全出生に占めるその割合は3.8%であったが, 1970年代後半から1980年代前半に0.8%と最低となった。 それ以後いくぶん増加し, 1996年に1.3%になっているが, いずれにしてもきわめて例外的なものである。
  日本における同棲は戦前を別として, 今日, 欧米に比べてきわめて少ない。 近年どの程度存在するかを示す確かな統計はないが, 現在, 結婚期にある世代では少なくとも4-5%の人が一定年齢までに同棲を経験しているものと推定される (国立社人研,1999b)。 夫婦の出会いから結婚にいたる期間 (交際期間) も長くなっている。 これらのことから未婚期における性行動が以前より活発化し, 同棲が増加しているとしても不思議ではないが, 婚外子の増大はまだ始まったばかりである。
  これに関連する現象として結婚前の妊娠の増加がある。 夫との間で結婚前に妊娠を経験した妻の割合は1960年代に結婚した夫婦では10%程度に過ぎなかったが, 1980年代前半に結婚した夫婦では25%にも及んでいる (厚生省人口研, 1988)。
  たしかに, 意識の面からみると, 未婚者の性交渉には寛容であっても同棲に対する否定的な意見が強い。 出生動向基本調査によれば1992年から1997年に, 「結婚前の男女でも愛情があるなら性交渉をもってかまわない」 という意見に賛成が, 未婚男性で78→82%, 未婚女性で73→81%と増加する一方, 「男女が一緒に暮らすなら結婚すべきである」 に賛成は未婚男性で79→69%, 未婚女性で72→59%へとかなり減少したが, まだ多数である (国立社人研,1999b)。 つまり, 結婚と性の分離がますます進んでいるが, 「出生・育児は結婚で」 という結婚意識はまだ崩れていないといえる。 ただし, このまま変化が継続すると, 5年後の2002年には後者について未婚女性は賛成が半分以下になってしまうであろう。
  この結婚意識は別の見方をすれば, 結婚後の夫婦に強く出生・育児を期待する規範になる。 「結婚したら, 子供は持つべきである」 という意見に対して未婚男女は1992年に88%, 85%が, 1997年には78%, 72%がそれぞれ賛成しており, かなりの低下傾向がみられるが, 依然賛成が多数を占める (国立社人研,1999b)。
  実際に結婚直後の夫婦の子供の生み方をみると, 結婚後2年未満に第一子を出生する夫婦の割合は, 1985年結婚夫婦の58.7%から1992年結婚のもの51.4%まで, やや低下がみられるがそれでもきわめて大きく, 結婚後すぐに出産・育児に入る夫婦が非常に多いといえる。 また, さきにいわゆるDINKS志向がほんの少数であることを指摘したが, 現に夫婦で子供を持たない者は非常に少ない。 1997年出生動向基本調査によれば結婚10-14年の夫婦のうち子供数0の者は5.4%にすぎない。
  このような結婚と出生のつながりは, とくに女性の労働力参加と出生・育児との両立に大きな困難がある今日, 女性における結婚の忌避傾向, 晩婚化志向が生じるひとつの重要な要因と考えられる。 今後, 仕事と家庭の両立が可能となり, また出生に関する規範が弱化すればこの問題は緩和されていくであろう。

(11) 社会経済的変化と結婚
  未婚率の上昇は学歴上昇や労働力参加のような社会経済変化によってもたらされたとしばしば指摘されるが, これらの有力な要因も実は決定的な力をもっているとはいえない (廣嶋,1999a)。 つまり, 晩婚化・非婚化はどのような階層においても進行した, より一般的な意味を持つ社会変化であるということができる。 これは多くの曲折はあるとしても基本的には結婚を含む社会関係が全体的に自立した個人間の関係へ変化する過程であり, また女性の社会的地位向上の過程ということができるであろう。 この過程は常に晩婚化・非婚化をもたらすわけではないが, 現在の日本社会の条件の中では結婚について晩婚化・非婚化として現れているといえる。 欧米の第2の人口転換といわれる過程は, 同様の本質を持つものである(Pinnelli,1995)が, 比較的多くの国で同棲が増加し, 出生率低下を緩和している点で日本と異なっている。 今後, 日本の社会変化がいっそう進行すれば, いままでみてきたように, おおむね逆に晩婚化・非婚化を緩和していくものと考えられる。 しかし, それがいつ頃になるかを予測するのは難しい。


1) 男性の皆婚主義についてきいたものと対比していないので男性については正確な対比ではない。

―― 参考文献 ――


■廣嶋 清志 (ひろしま・きよし)
  1945年中国江蘇省徐州生まれ。1968年東京大学工学部都市工学科卒業。1970年東京大学工学系大学院修士課程都市工学修了。1973年東京大学工学系大学院博士課程都市工学専修単位取得満期退学。同年、厚生省人口問題研究所入所以来、人口情報部長、人口構造研究部長、人口政策研究部長を歴任。1996年島根大学法文学部教授、現在に至る。富山県人口問題懇話会委員、日本人口学会常務理事。著書に『人口変動と家族』(共著 1997年 大明堂)、『現代日本の世帯変動』(共著 1996年 厚生統計協会)、『人口推計入門』(共著 1990年 古今書院) などがある。


情報誌「岐阜を考える」1999年記念号
岐阜県産業経済研究センター

今号のトップ メインメニュー