岐阜県東濃と美濃焼

多治見商工会議所会頭 坂　�ｱ　重　雄

　いま盛んに首都機能移転に絡んで、岐阜東濃という文字が目につく。上に岐阜とつけなければ地名として通用しない。その東濃地域とは、木曽川を境に南東可児市から中津川市までの６市と恵那郡山間部を含めてのことをいう。面積にして244,243km²、人口にして473,083人を東濃といっている。その東濃も西部と東部に区分されている。
　昔から隣同士は仲の悪いもので、よくけんかをしたことも子供心に憶えているが、世の流れに従って漸く戦後50年を経て、今日隣町同志で町村合併話も聞かれるような頼もしい時代に変わりつつある。
　さて、その私が住む東濃西部は、県の七大産業の中でも国の伝統産業に指定を受けている陶磁器産業を中心に経済が成り立っており、安土・桃山時代を経て今日まで700年以上を経過することになる。一口に陶磁器といっても和食・洋食・装飾品・工芸美術品・タイルから電磁器に至るまで幅広い種類で構成されている。
　やきものは、手造りで手を加える程に価値が上がるものと機械化された一般食器とに区別されるが、陶磁器の世界は大企業では及ばない中小企業又は零細企業が担う産業である。原料の産出が豊富な当地方は、戦後逸早く復興し、外貨獲得に輸出貢献企業として活躍し、内需においては、陶磁器もファッションの一角に参入、デザイン・色彩等新しい新技術が同業他社との競合の成果によって、美濃焼が全国一の陶産地として発展してきた。それは半世紀に亘る涙ぐましい努力の結果である。
　それが今日、日本人の舶来志向も手伝って輸入品の増加、海外合弁企業が送り込んでくる超安価品との競合に加え、茶碗は割れるまで使うという昔からの先入観も手伝って、今まで経験したことのない大不況に見舞われている最中にある。何時の時代でも他人の仕事、他産業は良く見えるもの。人の集まるところで、万一こんな話しになったらその場で説き伏せてもらいたい。「こんなに儲からない仕事は倅達に後を継がせたくない。自分の代で終わりにしよう」などと愚痴にまかせて発言する経営者もいるが、このようなことは一切口に出してはならない。
　21世紀は岐阜県も東濃の時代の到来である。先ず、第一にリニア新幹線東京大阪間を１時間で、その中間が東濃。当然新駅もできると朝、東京を出て緑が美しい空気が美味い山間の陶房で家族揃って思い思いの作陶に心がはずむ。窯入れから窯出しまで、自分の手で自分が焼き上げた作品を夜には自宅に持ち帰れる。一度来たら必ず又来たくなる炎の芸術観光産業として発展することが約束されているからである。
　次は、国際陶磁器テーマパーク構想の建設である。美濃焼を世界の美濃焼情報発信基地として2001年までに建設されるものである。これは、美濃焼1000年の集大成として梶原知事さんの発想に地元３市１町が協力、実現の運びとなった。既に基本構想も終り設計の段階、世界的に著名な建築家磯崎新先生の手により進められている。建設場所も多治見市、土岐市の境界、多治見市東町一帯の山間の谷間に自然を保ちながら逆円錐型の器をイメージした３階建て、総面積12,500�uで一階はイベントホール、２階はミュージアムホール等、東方山並みに展望台、遊歩道に作陶施設、自然の高低を利用しての流水施設、まさに磯崎芸術ならではの作品である。完成の暁には世界各国から大勢のお客様、国内は勿論、愛陶家の皆様により賑わいをみせるべく、産・官一体となって努力申し上げるように約束している。幸いにも、2005年に愛知万博がお隣の瀬戸市にて開催が決定されており、人と自然が共生する「新しい地球創造：自然の叡智」がテーマである。会期中の入場者3000万人を想定、着々準備が進んでおり、それに負けないテーマパーク会場に作り上げねばならない。さて、そのアクセスであるが、現在名古屋市を中心に160km東海環状自動車道が建設工事中である。南は豊田インターから北は美濃関インター間の77.5kmの間は2005年に供用開始と聞いており、そうなると瀬戸万博会場から僅か10分で当テーマパーク会場に到着できる。万博入場者3000万人の２割600万人のお客様を迎えて、ミュージアムに並んだ世界のやきものの多くと対面していただき、名実ともに美濃焼の殿堂であると認識を深める場づくりをめざしている。
　次は、今年10月23日から11月３日迄、当多治見市において第５回国際陶磁器フェスティバル美濃'98が開催され、過去４回の実績からまさに世界最高にして最大の規模であり、毎回海外から招請する審査員の先生から異口同音にやきもののイベントとしては世界一と評価をいただいている。15年前に始まったこの陶磁器フェスティバルも５回目を迎え国際交流の旗振り役として大きく貢献しているといえよう。
　そして最後に始めに述べた首都機能の移転、「東京より岐阜東濃へ」である。この話が出はじめてもう６年になる。最初は夢のような話、そんなことが実現するのかなと思いながらも３県知事さんの中でも一番熱心な梶原岐阜県知事の強い要望もあり、只今一生懸命に頑張っている。先般、国会等移転審議会が中央地域の中部と畿央地域それに北東地域を調査対象地域に決定した。東京から全部を移転する訳でもなく、現在の一極集中のひずみの是正と次世代の子供たちのために世界に誇れる国になるよう人心の一新をはからなければ21世紀の日本が心配でならない。中央地域は日本の中央部に位置し、人口重心地であると共に鉄道・道路など交通基盤や中部新国際空港の建設も進んでおり、今まで大阪・広島・高松・甲府等地域を代表する経済団体を訪問し中部にお願いしますとの要望をさせていただいたが、いずれも理解され、積極的なご支援をいただけるとの回答を賜っている。
　ただいま、参議院選挙の最中であるが、われわれ中小企業の経営者は何とか現下の不況を乗り切ろうと必死の努力をしている。橋本内閣に対し、先に日米協調により円安・ドル高に対する介入も一時的に終ろうとしている状況を見ると、一日も早く日本の信頼回復に向けて、不良債権処理、所得税・法人税の抜本改革などを先送りすることなく実行に移されんことを強く望むところである。

（平成10年７月５日）