近年の銀行貸出行動分析と展望

−地域金融機関と中小企業の関係を中心として−
加納 正二

(大阪大学大学院国際公共政策研究科助手)


はじめに

今や日本の金融システムの安定化は世界から注目される懸案事項となり、不良債権問題は景気低迷の一因ともされ、また最近は「貸し渋り」という言葉をよく耳にするようになった。さらに銀行の地位低下、メインバンク・システムの崩壊などということも言われる。本稿では近年の銀行の貸出行動について分析し、メインバンク・システム、貸出審査、貸出金利等の観点から主に地域金融機関と中小企業の関係について考察し、今後の展望についてまとめたものである。

1 岐阜県下におけるメインバンク・システムの実証分析

 一般にメインバンク・システムと言われる時、都銀を中心とする大銀行と上場企業を中心とする大企業との関係をさすが、地域金融機関と中小企業の関係と明確に区別して考察する必要がある。本稿では前者をCシステム、後者をRシステムと呼ぶことにし、主にRシステムについての考察を行う。1)
 ここでは岐阜県下での地域金融機関と中小企業の固定性を1983年から1993年の10年間『帝国会社年鑑』のデータを用いて調査する。
 固定性の程度の指標として、メインバンクが交代した企業の数Dを分類可能な企業の数Cで除した率を求める。Cは1983年当時のメインバンクの業態によって下記のようにC1〜C5およびその他に分類する。


C5都市銀行
C4地方銀行(現在の第一地銀)
C3相互銀行(現在の第二地銀)
C2信用金庫
C1信用組合
その他

 この各々Ciをメインバンクとする企業の中で、1993年にメインバンクを交代した企業をD1〜D5とし、各々の変更率D5/C5〜D1/C1及び全体の変更率D/Cを求める。これをまとめたのが、表1である。


表 1 固定性の指標

A:1983年版帝国年鑑に記載されている岐阜県の企業総数
2、045社
B:分類不能企業数 (1983年版帝国年鑑に記載されている企業で、
何らかの理由により1993年版には記載されていない企業数)
744社
C:分類可能企業数(1983年版帝国年鑑に記載されている企業で、
かつ1993年版にも記載されている企業数。A−B)
1、301社
D:メインバンクが交代した企業の数
161社
E:メインバンクが交代しなかった企業の数
1、140社


出所:帝国データバンク[1983,1993]をもとに筆者作成
1983年のメインバンク
の業態別内訳
  メインバンクが
交代した企業数
  変更率
(Di/Ci)%
固定率
100-(Di/Ci)%
C5都市銀行160  D532  20.080.0
C4地方銀行801  D472  9.091.0
C3相互銀行91  D317  18.781.3
C2信用金庫227  D234  15.085.0
C1信用組合  D1  25.075.0
その他14    28.6
C計1,301社  161社  D/C12.4%87.6%


表2 メインバンクの固定率の比較 出所:各著者の論文より筆者作成
堀内・福田[1987] 83〜89%
三輪
[1992]
上場企業全体 66.8%
都銀のみ 41.2%
首藤・高橋[1986] 60.7〜67.6%
本稿 岐阜県中小企業全体 87.6%
第一地銀のみ 91.0%

 岐阜県下の企業が10年間同一のメインバンクを継続した固定度は87.6%であり、第一地銀だけに注目すると岐阜県の有効サンプル企業数1,301社のうち第一地銀をメインバンクとする企業は61.6%にあたる801社であるが、このうち10年間でメインバンクを変更した企業は9.0%の72社となっている。つまり第一地銀の固定度は91.0%ということになる。これは、今までの研究例でみる都銀と大企業の固定性に比してかなり高いと結論することができる。他の実証研究との比較は表2に示されている。

 次にメインバンクに変更のあった企業はどの金融機関へ変更しているか、その質的な変更を考察してみよう。メインバンクを変更したグループは、さらにどのように変更したかによりグループ分けが可能である。各々の銀行は各々の特徴をもつものの、一般的には業態別に都市銀行、第一地銀、第二地銀、信用金庫、信用組合というような質的な順序付けができているとみなして良いであろう。ここでは、この序列を数量化して示すことにする。すなわち、上記の業態順に5、4、3、2、1というようにポイントをつける。2)このポイントに基づき、メインバンクをどの業態からどの業態へ変更したかをポイントの増減数で示す。例えば、信用金庫から都市銀行へメインバンクを変更した場合は+3点(5−2=3)と示すことにし、これをここでは「業態ランクアップポイント数」と呼び、RPで表すことにする。同一業態の中でメインバンクを変更した場合はRP=0となる。ここでは、メインバンクを変更したグループと変更しなかったグループにどのような相違があるか検討してみよう。ランクアップの要因としては、一般的には企業の成長性などが考えられる。企業成長を示す指標として売上の増加率をここでは採用する。
 表3はメインバンクの変更のあった163社について1983年から1993年の比較においてメインバンクがどの業態からどの業態へ変更されたかを示した遷移行列である。

表3 メインバンクを変更した企業のメインバンクの業態別変更内訳

1993


1983
その他
18 32
142820 72
17
21 34
その他
24791434 161
出所:表1と同じ
 メインバンクを変更した企業161社の内、CからCの5業態間で変更があったのは148社であり、RPの正負、すなわち上位の業態へ移行したか下位の業態へ移行したかを示したのが表4である。

表4 メインバンク変更企業内訳
メインバンクを変更した企業    161社
内訳
  5業態間の変更        148社       RP>0  56社       RP=0  33社       RP<0  59社   その他の業態間の変更     13社
出所:表1と同じ
 売上増加指数の平均値の差の検定を行うと岐阜県内全企業、メインバンク変更のない企業とメインバンクを変更した企業全社 、RP>0の企業 、RP<0の企業グループ に有意な差異は見出せなかった。これを示したのが表5である。

表5 メインバンク変更による売上増加指数の平均値の比較データ
対   象 サンプル数 平均値 t値
岐阜県内全企業
メインバンク変更なし
ア)メインバンク変更企業
イ)RP>0の企業
ウ)RP<0の企業
1301
1140
161
56
59
1.7734
1.7761
1.7538
1.9072
1.6628


−0.2610
0.7762
0.8628
出所:表1と同じ
注)売上増加指数とは1981年の売上高を1とした場合の1991年の売上を示す。

 次に5業態間でメインバンク変更のあった148社について1981年の売上を1とした場合の1991年の売上増加指数とRPとの間に、相関関係が見られるかどうかを検討したが、相関係数は0.126である。RP=0の場合、つまり同じ業態同士の変更はランクの変更がなかったと解釈できるのでこの33社を除いた115社の場合の相関係数は0.133であり、どちらも有意な関係は見出せない。
 以上の点から、メインバンクを変更した企業についてみると、それは必ずしも成長企業とは限らず、また売上の成長とともに下位の業態の銀行から上位の業態の銀行へ変更していくという傾向も見い出せない。
売上高比較を企業の成長、あるいは企業の業績不安定性を示す指標として選択すると、企業成長はメインバンク関係の固定性を有意に減少させるという堀内・福田とは相違する結果が、岐阜県の実証分析では得られたことになる。しかし、企業の経営業績の不安定性は、メインバンク関係の固定性を高める方向に作用しているように見えないという点では、堀内・福田と同一の結果である。3)岐阜県の実証分析の結果から判断すると、Rシステムでリスク・シェアリング仮説が成り立つと言い切るのは本研究からは困難である。堀内・福田では、企業は成長によってメインバンクを変更するとして、企業の成長により信用が高まり、資金調達の手段が広がるためとしている。しかしながら、Rシステムにおいては、そのような傾向は見受けられない。

2 CシステムとRシステムの理論

 第1章の結果からRシステムには強い固定的関係が見られ、取引企業の成長に応じてよりランクの高い業態にメインバンクを変更するというような傾向は見られないことがわかる。これは限定されたエリアの中での競争がexitよりもvoice4)を優先することになるためと思われる。また、
reputationが地域金融機関、中小企業両者にとって重要で関係を継続する方が有利なゲームになるとの判断があるものと思われる。Cシステムの特徴とされる株式持ち合い、経営者の派遣、ラストリゾート機能等はRシステムでは示されるかどうかは疑問である。むしろRシステムの場合は資金のアベイラビリィティの確保が重要な点であろう。一般にCシステムは黙示的契約と言われるが、Rシステムの場合は明示的とも言えよう。何故ならば、中小企業にとってその担保の占める意味は大企業よりも重大な意味を持ち、オーナー経営者の自宅も含め本社・工場が根抵当権としてメインバンクの担保に第1順位として入ることが多い。これは根抵当権の設定額を限度としてアベイラビィリティを中小企業が銀行に対して確保したことを意味するメインバンク契約とも換言可能である。たとい担保があるからといっても、それを銀行が行使することは、中小企業の経営に対して当該メインバンクのコンサルティング能力が低いが故に企業が倒産したという悪いreputationが地域に広まるリスクがあり、これは銀行にとって当然マイナスである。したがって地域金融機関にとって中小企業の発展とは重要な意味を持つことになる。したがってRシステムと担保、そして貸出行動は密接な関係があると言える。このような共生の関係は地域において継続していくと思われ、Rシステムは今後も大切な役割を担い続けていくと考えられる。他の資金調達手段もあり、また担保が企業すべてをカバーするものではないCシステムの場合には、この考え方は当てはまらない。
 Rシステムではこのような担保の枠内という制約条件のもとで審査基準に従い貸出が実行されることになる。審査基準を銀行が公開しているわけではなく、また現実の銀行における貸出諾否の個別案件データを収集することは実質上不可能に近い。そこで次章では銀行実務家の審査に関する見解5)を参考にして中小企業に対する銀行の貸出審査モデルを構築し、貸出の諾否に替わるものとして中小企業の貸出金利の高低について分析してみよう。

3 中小企業に対する貸出審査基準モデルと貸出金利の分析

 今日の貸し渋りと言われる現象が果たして早期是正措置等の銀行の自己資本比率規制に関連してのみ発生したものなのか、厳密な分析が必要である。そもそも銀行は企業のどのような点を評価して貸出行動を行っているかを分析することが大切だからである。銀行の自己資本比率達成とは無関係に、企業の財務内容の審査で貸出が拒絶されている場合も現在あり得ると予想される。実際、貸出残高の減少要因を借り手企業の経営内容の悪化によるためと回答している銀行も多いようである。これらを識別することが必要であろう。また銀行の審査とはそもそも妥当なものであるのかも考察してみる必要がある。
 本章では全国中小企業22万社の財務諸表の分析が掲載されている『平成9年版TKC経営指標』6)を用い1996年の都道府県別、業種別の中小企業の実効貸出金利7)のクロスセクション分析を行ってみよう。
 審査基準のモデルとして次の要素を考える。まず、当該借り手企業にどれぐらいの貸し手、すなわち銀行の競合があるかを考える。これは個別に異なるがここでは代理変数として地域ごとの市場集中度を充当し、ダイヤモンド[1990]のデ−タを用いる。8)中小企業の経営状況を判断する際に最も重要なものの一つは、経営者の資質であるが、これを統計上の数値として計量化することは難しく、本章では経営者の能力を具現したものと考え得る企業の財務諸表で記載されている指標を用いる。その中で重要であるのは収益性、安全性、成長性の三つの指標であろう。ここではまず、その代表的なものとして総資本経常利益率、自己資本比率、対前年売上高比率を用いる。銀行からみた企業の取引状況を示す一つの指標として預貸率を用いる。これはいわば銀行と企業の取引状況における親密度を示す指標といえよう。これらをまとめると次のような貸出金利決定の審査基準モデルになろう。
貸出金利=f(銀行の競合度、企業の財務内容、銀行と企業の取引状況) これは、つまり
貸出金利=f(市場集中度、収益性、安全性、成長性、預貸率) ということになる。これを回帰分析のモデルで示すと次のようになる。

RL=a+bSH+cKP+dRC+eSA+fDL……モデルその1
但し RL:実効貸出金利
a:定数項
SH:市場集中度
KP:総資本経常利益率
RC:自己資本比率
SA:対前年売上高比率
DL:預貸率


 これらの関係を業種ごとにクロス・セクシヨンの回帰分析をした結果は表6に示されている。比較的有意な結果が見られるのは、企業の安全性を示す自己資本比率である。収益性を売上高経常利益率に替え、回帰分析を行ってもほとんどど有意な結果を見出せない。しかし収益性の指標として支払利息割引料対売上高比率9)を使用すると数種の業種では有意な関係が見られる。有意な結果が得られなかった成長性の項目である対前年売上高比率と収益性の項目である総資本経常利益率を削除し、支払利息割引料対売上高比率の項目を追加したのがモデルその2であり、次のように示される。

RL=a+bSH+cIS+dRC+fDL  ……モデルその2

但し IS:支払利息割引料対売上高比率

 すなわち、業種別の実効貸出金利を市場集中度、支払利息割引料対売上高比率、自己資本比率及び預貸率の4つから説明したが、その結果とこれを要約したのが表7である。この結果から銀行は自己資本比率が高く、金利負担の低いいわゆる安全性の高い企業ほど低い金利で貸出を行うということがわかる。1985年、1990年すなわちバブル前、最中の時期においてモデルその1、モデルその2に関して各々回帰分析の結果を示したのが表8〜表11であるが、中小企業の収益性や成長性に特に傾注したという傾向は見られず、やはり銀行の審査が安全性に重点を置いていることが理解できる。

4 今後の課題・展望

 第3章の分析結果から貸出金利の決定に当たって必ずしも中小企業の収益性や成長性が有意に反映されているとは思われない。むしろ借入過多や金利負担の過重を判断する自己資本比率や支払利息割引料対売上高比率に重点が置かれているように思われる。安全第一という銀行の姿勢が伺えるが、もっと企業の収益性や成長性にも注目すべきであろう。
 今後、ビッグバンや金融のエレクトロニスク化が一層進展し、どの金融機関も比較的簡単に他地域の企業にアクセスが可能となり銀行の貸出行動は地域に無関係に行われることも可能である。そこでは市場集中度が問題になるのではなく、借り手の企業の成長性等の評価が貸出金利を決定する重要なポイントとなり、たとえ地方に立地していても優良企業であればどの地域の銀行からも低金利で借入が可能となり、この意味で益々個々の中小企業の能力が問われることになる。これは、銀行についても同様に審査能力が問われることを意味する。
 昨今の銀行の不良債権問題の影響もあり、メインバンクの役割は薄れつつあると言われるが、それはCシステムに関して言えることであり、Rシステムに関しては第1章で分析した通りの堅固な関係は今後も続くと思われる。
 Rシステムは地域金融機関が中小企業に対して根抵当権を設定することにより、その設定極度額までの借入が保証されるという資金のアベイラビイリティに重点を置いたメインバンク・システムと言えよう。ただし企業の経営内容が健全であることが条件となってくる。そこでメインバンクは様々なアドバイスを中小企業に対して行い、オーナー経営者の家族も含めた中小企業企業との総合的な取引を推進しながら、中小企業とともに地域の中で発展してきた。
 地域の産業の育成・発展の見地からもRシステムの役割は重要であろう。しかし日本の産業構造の変化に伴い、このRシステム、すなわち従来の貸出審査のあり方そのものを見直す時期が来ていると言って良い。不動産担保偏重、というよりもRシステムそのものが根抵当権の極度額と範囲を決めた、ある意味では明示的な一種のメインバンク契約と言うことができ、再考する必要があると言えよう。
 今後、銀行はその審査能力を高めるべく人材育成を行い、社内体制を整備していくことが要求される。これは逆に言えば、いかにリスクを的確に判断し貸出の諾否及び貸出金利を決定していくかということである。日本経済を支えてきた産業構造の変化に伴い、新時代に即応した貸出審査、貸出行動を行い、リスク管理を科学的に分析し、銀行全体のリスク管理体制を構築していく必要があろう。
 技術進歩の著しい今日、企業の技術力を評価し審査することはますます困難になってこようが、審査は情報の蓄積であり、ビッグバン時代の銀行はこの能力で決定的な差異が生じるであろう。今日、早期是正措置の影響による貸し渋りなどと言われたりもするし、過去にはバブル期における担保偏重に対する批判などもあったが、このようなことの繰り返しを避け、日本の銀行が果たして国際的に通用する審査能力を蓄積してきたかを根本的に考え直してみる時期が来ていると言えよう。
 また社会全体のシステムとして債権の流動化、不動産の流動化など所謂広義の証券化を日本でも進め、その流通市場を確保することが大切である。

<注> 1)RシステムとCシステムの特徴の相違点は加納[1996]に詳しい。

2)銀行のポイントの付け方には、この他にも様々なものが考えられ得る。例えば、不良債権額、格付け機関による格付け、資金量、融資量、あるいは岐阜県・中部圏における銀行の人気度のようなものでも可能であろう。これは今後拡張できる点と考えている。

3)堀内・福田では企業の成長の指標には有形固定資産の増加率の平均値を、企業の経営業績の不安定性の指標には総資本事業利益率の変動係数を用いている。彼らは企業の成長はメインバンク関係の固定性を減少させる有意な効果を持ったと結論づけ、その理由を企業の成長はその企業の市場における名声を高め金融取引における情報の非対称性という障害を取り除く効果を持っており、メインバンク関係の重要性、固定性も低下するとしている。

4)exitとvoiceについてはHirschman[1970]みよ。金融自由化の中での金融機関経営における「退出による脅威」、「顧客の声」については蝋山[1986]で述べられている。

5)銀行の実務家による審査・財務分析の手法を記したものには、例えば十三信用金庫[1997]、大野[1987]、住友銀行事業調査部[1998]、東海銀行[1997]、東京三菱銀行[1997]等がある。

6)TKCは職業会計人専門の情報センターで、TKCのコンピューター会計システムを利用する全国の公認会計士、税理士がTKC情報センターで処理した中小企業の財務データを集めたものがTKC経営指標である。中小企業の月次貸借対照表、月次損益計算書の毎月作成した上で、決算手続きを完了した財務データを調査の対象としている。従って基本的には決算時の財務諸表の数値がもとになっている。また、TKCのデータは分析後の財務比率が、47都道府県別、業種別に公表されている。
 本稿で用いられた財務比率の算出方法を株式会社TKC[1997]に準拠し、以下に示す。但し、「平均」とは、期首と期末の平均を意味する。

7)従来の研究では、分析する際の貸出金利として主に表面金利を用いているが、信用力の乏しい中小企業にとって預金も不動産と同様に実質的な担保と解釈されることが実務では多く、貸出金利の分析に際しても実効貸出金利を用いる方がより現実に即していると言えよう。株式会社TKC[1997]においては実質金利という用語が使用されているが本稿では一般に使用されている実効貸出金利に用語を統一する。
 実効貸出金利とは一般的には次により示される貸出金利のことである。
RL=(L・ rL−D・rD)/(L−D)
但し RL:実効貸出金利
L:貸出金残高
D:預金残高
rL:貸出金利
rD:預金金利

 業種別の実効貸出金利を求めた場合、預金残高は業種特性に応じ差異があると考えられる。すなわち資金の流れから売上代金等が銀行口座に振込等により入金になり、銀行に比較的歩留まりを形成しやすい業種とそうでない業種があるということである。
 したがって、厳密な意味での実効貸出金利を算出するためには預金残高Dを次のように考え、業種特性に応じた分析を行う必要があろう。

 D=D1+D2
  但し
  D1:銀行との貸出金利等の交渉を有利に行うために中小企業が銀行に預入したと認識している部分
  D2:財務上、自然体で歩留まりになる部分
 しかしながら、統計上これらを識別したD1、D2のデ−タを入手するのは困難であり、本稿ではこの区分を行わず、定期預金の期首と期末の平均残高をDとして用いて分析する。参考までに中小企業の貸借対照表上における業種別の企業平均実数値として現金・当座預金、その他の預金の数値を以下に示す。

表12 業種別中小企業平均実数値

(単位:千円)
業 種 現金・当座預金 その他の預金
建設業 389,868 資料なし 389,868
製造業 92,138 171,669 263,807
卸売業 82,424 130,754 213,178
小売業 14,538 17,485 32,023
飲食業 4,304 6,671 10,975
不動産仲介業 105,153 31,508 136,661
出所:中小企業庁[1997]

 本資料は『中小企業の経営指標』中小企業庁[1997]から該当部分を抜粋したものである。調査対象の中小企業数は24、190社、調査対象年度は平成7年度(平成7年4月期〜平成8年3月期決算)である。

8)ダイヤモンド社[1990]のデ−タにより、都道府県毎の全取引社数シェアで上位2行の合計シェアを用いた。現状のシェアは長期間の競争の結果生じたと考えられるので、一定時点(1989年)のシェア数字を用いて分析した。

9)支払利息割引料対売上高比率は、売上高が負担する借入金利息や受取手形割引料等の金融費用の割合を示すものである。財務の分析上は収益性分析の項目に含まれることが多いが、企業の資本構成が健全なものかどうかを端的に示す指標である。

<参考文献>
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中小企業庁[1997]『中小企業の経営指標』
ダイヤモンド[1990]『週刊ダイヤモンド』1月27日号 特集記事
Flechig,T.G.[1965],”The Effect of Concentration on Bank Loan Rates,” The Journal of Finance,vol.20,No.2,pp.298-311
Gilbert,R,A[1984],"Bank Market Structure and Competition:A Survey,"Journal of Money,Credit,and Banking,vol.16,no.4,pp.617-60
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十三信用金庫 角保利[1997]『優良中小企業融資の基本と実践』きんざい
金子隆[1994]「貸出金利の銀行間格差」『地域金融問題研究』第2号
加納正二[1996]「地域金融機関におけるメインバンク・システムの実証分析」『大阪大学経済学』第46巻、第2号
加納正二[1998]「審査と貸出金利」『国際公共政策研究』Vol.2, No.1
株式会社TKC[1986,1991,1997]『TKC経営指標』
三輪芳郎[1992]『日本の企業と産業組織』東京大学出版会
大野敏夫[1987]『財務分析の実践活用法』経済法令研究会
Ogawa,K.and Kitasaka S.[1998] “The Determination of Bank Loans: The case of Japanese Banking Firms” mimeograph.
蝋山昌一・筒井義郎[1987]、「金融業の産業組織」、館隆一郎・蝋山昌一編『日本の金融[1]新しい見方』、東京大学出版会
蝋山昌一[1986]『金融自由化』東京大学出版会
鹿野嘉昭[1994]『日本の銀行と金融組織』東洋経済新報社
首藤恵・高橋俊治[1986]『現代の企業金融と金融システム』有斐閣
住友銀行事業調査部[1998]『貸出審査の総合判断』きんざい
帝国データバンク[1983,1993]『帝国会社年鑑』
東海銀行 高橋俊樹[1997]『稟議の書き方・考え方』きんざい
東京三菱銀行 黒米秀夫[1997]『企業実査の基本と実践』きんざい
筒井義郎[1988]『金融市場と銀行業』東洋経済新報社



情報誌「岐阜を考える」1998年夏号
岐阜県産業経済研究センター


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