
平成8年度調査研究
「美濃紙のニーズ調査」報告
はじめに
約1300年の歴史をもつ美濃紙は、卓越した技術で美濃地方において造られていたが、現在ではそれらの技術は継承、発展され、手すき和紙、機械すき和紙、各種の紙加工品など数多くの美濃和紙製品が生産されている。しかし、バブル経済崩壊後の長引く消費の低迷や消費者ニーズの多様化が進む中、紙産業においても一層の活性化が求められている。
このような中、平成7年度に開催された「美濃地域紙産業活性化フォーラム」において、美濃和紙のマーケティングリサーチの実施が諸施策の一つとして提案され、この提案にもとづき本年度「美濃紙のニーズ調査」を実施した。
- 紙関連製造・卸売・小売業の現状
- 紙関連製造業は、県内製造業の中では、比較的規模が大きく生産性の高い業種であるが、全国と比較した場合、規模が小さく生産性も低い。このため、高付加価値の製品開発が望まれている。
- 本県の紙関連卸売・小売業も全国と比較した場合、製造業と同様に規模が小さい。とりわけ、卸売業は産地卸の形成がされていないため、価格形成力が小さく、消費者ニーズの把握が不十分などの課題があるものと推測される。
- 和紙関連製造業の現状
- 和紙関連製造業の製造品出荷額等は、平成2年をピークに減少傾向にあり、平成6年では紙関連製造業の約25%を占めている。
- 本県の機械すき和紙の中心は家庭紙(家庭用薄葉紙、ちり紙)であったが、近年では産業用の雑種紙が伸びており、全国と比較した場合でも、本県では雑種紙の占める割合が数量、額とも高くなっている。
- 本県の和紙関連製品は、全国における和紙関連製品の一翼を担っているものの全国順位3位までに入っているものはなく、今後、和紙産業の活性化には、本県ならではの付加価値の高い製品開発が必要であり、このためには、消費者ニーズの把握が必要である。
- 今後高齢化社会を迎える中で、和紙の特性を生かすことができ、特殊紙の生産技術の活用が期待される住分野を中心に新製品の検討を進めることも考えられる。
- 今後の和紙製品の方向性
住空間における消費者ニーズ調査、住空間関連企業の評価をもとに今後の和紙製品の方向性をまとめると以下のとおりである。
一.和紙製品に求められる要件
- 住まい方・室内インテリアから見た指向
(1)現在の住まい方の指向
- 全体としての指向は和紙の特性に合う日本的なもの(和風、モノトーン、自然)とベーシックなもの(機能、いいものを長く使う)
- 日本的なもの、ベーシックなものは、地域別、年齢別、性別を越えた重要なニーズ
- 地域別では岐阜県の指向は日本的なもの、愛知県の指向は機能重視、東京都の指向はモノトーン、いいものを長く使うで一部デザイン重視、年齢別では高齢者の指向は日本的なもの、いいものを長く使う、中年の指向は機能重視、モノトーン、若年の指向はモノトーンで一部買い換え派、デザイン重視、性別では男性の指向は日本的なもの、女性の指向は機能重視、モノトーン・トータルインテリアの傾向は、ヨーロッパトレンドからアジアトレンドを取り入れた和洋折衷指向、部屋の指向は洋風化
(2)将来の希望住居の指向
- 全体としては、地域別では自然豊かな郊外が2/3、形態では一戸建て持ち家が大半、指向では和洋折衷指向が主流
- 和洋折衷指向は、地域別、年齢別、性別を超えた重要なニーズ
和洋折衷指向の中でも、地域別では岐阜県は和風ベース、東京都は洋風ベース、愛知県は中間ベース、年齢別では若年は洋風ベース、高齢者は和風ベース、中年は中間ベース
- 和紙製品に求められる特性から見た要件
(1)和紙製品の現状認識(イメージ、関心)
- インテリアとしての和紙製品はあたたかみがある、落ち着くなどよいイメージを満たしているのが大半であるが、関心はイメージほどには高くない
- 関心あるは地域別では東京都で7割、地元岐阜県、愛知県で5割、関心あるは年齢別では高齢者で7割、中年で約6割、若年で約4割
(2)和紙製品の現状の不満点、今後の重視点
- 不満点は手間がかかるが大半で、メンテナンスフリーというのは、地域別、年齢別、性別を超えた重要なニーズ
地域別には東京都では商品選択の幅が少ない、PR不足という販売面の不満点がある
- 重視点は価格重視であり、地域別では価格重視の岐阜県、愛知県に対し、素材、品質重視の東京都、年齢別では価格重視の若年、中年に対し、部屋との調和重視の高齢者
(3)和紙製品に今後求められる特性(デザイン面、機能面)
- デザイン面では素材そのものの風合、美観を生かすが大半で、地域別、年齢別、性別を超えた重要なニーズ
地域別には東京都では素材そのものの風合、美観を生かすが特に強い
年齢別には若年では有名デザイナーのデザインを取り入れるというニーズもある
- 機能面では張り替え、掃除等に手間がかからないが大半で、メンテナンスフリーというのは今後とも地域別、年齢別、性別を超えた重要なニーズ
(4)今後の和紙製品
- 今後興味ある和紙製品は障子・襖・壁紙・屏風・掛軸等の伝統的インテリア製品が多く、実用性の高いインテリア製品等が求められる
今後希望する和紙製品は香りある電灯の笠が多く、香りのあるもの、においを消すものが求められる
二.今後の方向性
今後の和紙製品を考える視点として以下の2点が重要である。
- <視点1>
- ・住まい方としては日本的なものとともに、ベーシックなものが好まれるので、今後の和紙製品としては、和紙本来の特性を生かしつつ、機能・特性面での改良が必要である。
- <視点2>
- ・和室の減少、リビングに合わせた和室等、部屋の洋風化傾向がみられる。とりわけ、若年層ほどこの傾向がみられ、洋風化に合う対応(戦略)が必要である。
こうした中で、今後の方向性としては、製品では既存製品の改良と新規製品の開発という二方向があり、さらにPR・販売方法と技術的方向性(可能性)の検討が不可欠である。この上で、地域別、年齢別に応じたターゲットを絞った製品戦略が必要である。
- 既存製品の方向性
(1)現状和紙製品の不満点の改良
- 取り替えが簡単な製品や水ぶきができる製品の開発
- 製品のバリエーションの拡大
(2)和紙素材以外の製品からの代替需要
- トータルコスト面で競争力のある価格設定
- 和紙そのものの良さをPR
- 健康・ナチュラル面でのメリットのアピール
- 新規製品の方向性
(1)消費者が手作り可能なインテリア小物等の提供
(2)環境・健康分野をターゲットにした製品開発
- 環境にやさしい内装材の開発
- 健康面に配慮した壁紙の開発
- ストレス緩和のための和紙製健康商品の開発
- PR・販売方法
(1)和紙製品のより一層のPRと販路の拡大
(2)本物指向のホテル、レストラン等への活用
- 技術的方向性(和紙そのものの物性・機能の改良)
(1)新素材の活用で機能を増強、付与
(2)二次加工技術の開発、採用
- 地域別、年齢別に応じた今後の和紙製品の方向性(戦略)
(1)地域別
- 岐阜県への戦略
・ターゲットは郊外の一戸建て向け
・製品開発のテーマは和風、自然を感じさせるもの
・価格重視
・郊外型ホームセンターへの販路拡大
- 東京都への戦略
・ターゲットは都市部のマンション(洋風)向けも必要
・製品開発のテーマは自然を感じさせるものと便利な都市生活に合わせたものの双方が必要、デザイン重視の製品展開も必要
・素材・品質重視(本物指向)
・都市型ホームセンター、百貨店、専門店への販路拡大
・本物の良さのPR、外国人へのアピール
- 愛知県への戦略
・製品開発のテーマは実用性の高い値打ちなもの(機能・価格重視)
・郊外型ホームセンターから都心の百貨店までの多様な販路の確保
・製品のバリエーションの拡大
(2)年齢別
- 若年向けの戦略
・製品分野はインテリア小物
・製品開発のテーマは洋風ベース、使い捨て可能なもの
・有名デザイナーの活用
・価格重視
- 高齢者向けの戦略
・製品開発のテーマは和風、自然を感じさせるもの
・本物指向
・部屋との調和重視
- 中年向けの戦略
・製品開発のテーマは生活重視
実用性の高い製品
掃除がしやすい製品
健康面をアピールした製品
・価格重視
・製品のバリエーションの拡大
情報誌「岐阜を考える」1998年冬・春合併号
岐阜県産業経済研究センター