岐阜県企業の物流戦略を考える

新田啓之
((株)岐阜県産業経済研究センター主任研究員)


 

1.はじめに

 物流が今、注目を浴びている。多くの著書が出版され、物流について多くの意見が述べられている。ここでは、岐阜県という地域を巡る環境やその地域特性をキーに、今、岐阜県で物流戦略がなぜ、必要なのか、そしてどのような視点で考えていくのかについて筆者なりの考えを述べさせていただきたい。

 

2.いま、なぜ物流戦略か

区分 動 機 、 背 景 ス  テ  ー  ジ
ステージ

社内的な必要性
(物流面での効率化の必要性、既存の方式での限界等)
社内の仕組みやインフラを整備し物流の基礎を確立する段階
(例:物流センターの整備、配送網の構築等)
ステージ

社内的な必要性
(物流合理化による利益の確保、物流投資の回収)
対外的な必要性
(顧客からの多頻度少量輸送、コストダウン・サービス向上等の要求)
構築されたシステムを使いこなし、効率、効果を最大にする段階
(例:物流センターの稼働率の向上、輸送効率の向上等)
ステージ

経営環境の変化
(競合条件の変化、多角化、新規展開等)
交通網の整備
(立地条件の変化等)
蓄積されたノウハウと確立されたシステムにより、自社の活動の高度化、自社製品の高付加価値化を図る
(例:新たなサービスの展開)

 

 は、企業の物流を考える上での発展段階を概念的に示したものである。一般的には、企業の物流活動は、日常の業務においてしっかりとした物流活動を行うための基礎を固めるステージ1、その基礎をもとに確実な運営を行い効果を上げるステージ2、そして、蓄積したノウハウや確立したシステムを元に物流のオペレーションを基礎とした戦略的な展開を行うステージ3に大きく分けられる。その戦略的展開は、さらに高度化した物流システムを要求し、1ランク上のシステムの構築、オペレーションを実現していくといったスパイラル(らせん型)の展開をたどるものと考えられる。もちろん、明確な戦略目標のもとに新しいシステムを構築していくケースもあるが、基礎となる物流の運営のノウハウなくしては行えない。宅急便もセブンイレブンの物流システムもしっかりとした基礎がなくしては成り立たなかったものと考えられる。
 岐阜県において今、なぜ、物流戦略を考える必要があるのか。筆者は以下のような観点からその必要性を指摘したい。

  1. 先進的な物流インフラを整 備しつつある県内企業
     現状では、すべての県内企業がステージ2なりステージ3にあるものとはいえない。しかしながら、県内で過去六年間において20カ所以上の物流センター(面積1000u以上)が整備されており、そのほとんどが自動倉庫や物流情報システムなど高度な物流システムを備えている。一部の企業ではすでに物流面での体力強化を現実のものとしつつあるといえる。今なお、物流のインフラを整備し、合理的な物流を行うことが緊急の課題である企業も多いが、よりオペレーショナルな指向、戦略的な指向に向かう企業も少なくない。これが本稿で基本的な企業の物流のあり方ではなく、より戦略的な面での議論を試みる理由である。

  2. 経営環境の変化と求められるビジョン提示型の物流
    戦略的な物流を考える2つめの理由としては、企業の経営環境の変化があげられる。ご存じのように企業の活動はボーダレス化が進んでおり、本県でもアパレル産業を中心に生産拠点等の国際化が進んでいる。それに伴い、より広い視野で物流を考える必要がでてくる。中国をはじめとするアジアを単なる海外拠点としてのみの位置づけとせず、市場としての考え方をとるならば、なおさら、進出国と日本という線の考え方ではなくグローバルな面的な戦略の中で物流を考えていく必要がある。森川先生ご指摘のように、情報化、環境問題など様々な要因が企業の経営に大きな影響を与えている。経営環境の変化は急速なものであり、その対応は課題であると同時に大きなビジネスチャンスとなる可能性を秘めている。その場合、誰かを真似るのではなく、自社の強み、ポジション等を把握し、将来の姿を描くことが必要である。それ故に従来の現実対応型の物流からビジョン提示型の物流への転換が求められている。岐阜県の企業もまさにこのような状況といえる。

  3. 交通整備の進展、物流インフラの整備により広がる可能性
     この号が発行される頃には安房トンネルは開通し冬の吹雪が飛騨と信州を妨げることもなくなっていることであろう。また、東海北陸自動車道は着実に日本海へと延びており、新しい時代の躍動をその槌音に重ねている県民の方々も多いであろう。また、関のロジスティックセンターなどの物流拠点も精力的に検討が重ねられているようである。昨年11月には国際空港も国際港湾もない岐阜県にインランドデポも開設された。物流ネットワークを支える点(物流インフラ)も線(交通インフラ)も着実に整備が進んでおり、まさに岐阜県は大きなチャンスと可能性を秘めた新しいステージを迎えつつあるといえる。
     このような交通整備は、地域に大きなインパクトを与え、可能性を広げる。と、同時に競争激化による淘汰や大手資本の進出など様々なマイナスの影響も与える可能性は否定できない。そのインパクトを予測し、適切な対応を行うことは言葉でいうほど簡単ではない。ただ、一つだけいえるのは、漫然としてみているだけでは大きなメリットは享受できないということだ。自らの意思と明確なビジョンを持った経営者のみがその果実を味わうことができるのであり、従って、より前向きのよりアグレッシブな物流戦略が必要となる。幸いにも筆者がお話をできる機会を得た人々の中には、高速道路の開通などによりどのような影響を与えるのか心配しているむきも多い。しかし、大切なのは、自分たちの地域や企業が「どうなるか」ではなく、「どうしたいのか」であるといわせていただきたい。

  4. 情報化等に伴うビジネスチャンスの拡大
    インターネット等の普及は急速に進んでいる。岐阜県においてもソフトピアをはじめとして積極的に情報化時代への対応を進めている。その中で、例えば、インターネット上での商品の販売などにみられるように、従来とは異なる”物の流れ”が生まれ、大きくなっている。従来の箱単位、ケース単位の限られた問屋、小売店など配送先から、商品単位、しかも個人が要求する単位の荷物が日本だけでなく、世界中を駆けめぐる時代になる。それに伴い、物の流れが大きく変わるだけでなく、そこに大きなチャンスが生まれる。それ故に、戦略指向を強める必要があるのである。加藤先生のご指摘のように、海外旅行の若いOLのおみやげという市場を宅急便は開発したが、さらにインターネットとそれを支える物流が整備されれば、彼女たちは帰国後も日本に居ながらにして、なんどもお気に入りの商品を取り寄せることができる。
     また、岐阜県においては県産品の販売会社の設立され、県内の地場産業や農林業に与える効果は大きい物と期待される。と、同時に県産品の販売は、新しいチャネルの構築にもつながり、そこには物流を巡るビジネスチャンスが期待される。その他、県内では道の駅の整備がされ、そこには、地域の産品を販売する場所が確保されていることも多い。その地域を訪れた人が土産物ではないありのままの地域の産品に接する機会が提供される。遠くまで運ばずにすみ、自動車に乗せて持って帰ってくれる今までにはない形態の販売方法。そこには大きな販売網や全国的な配送も必要なく、独創的で質の高い産品を生産する中小企業にとっては大きなチャンスがあるといえる。

 

3.岐阜県の物流戦略に関する2、3の考察

(1)物流戦略を考える上での視点
 物流戦略を考える上での必要性は、先に述べてきた通りであるが、ここではどういう風に考えていくべきなのか、その視点について筆者なりの考えを述べてみたい。

  1. 岐阜を活かし、岐阜を越える/もう一度、まん真ん中の意味を
     岐阜を巡る環境は今、大きく変化しようとしている。交通整備による立地条件の変化、国際化の波、県をあげての情報化への挑戦。物流拠点の整備。そのような中でもう一度、岐阜という場所、ロケーションをまん真ん中の意味を考えて頂きたい。中部のなかの岐阜はもとより、日本のまん中の岐阜、そして世界の中での岐阜をごくごくあたり前に仕事をし、事業を続けてきたこの場所の意味を。世界戦略の中で、全国展開の中で岐阜の本社をどうするのか、その位置付け、機能、規模をより広い視野で考えて頂きたい。その中から物の動き、動かし方の考え方、すなわち物流戦略が見えてくると思われる。グローバリゼーションの中で、物流戦略を考える視点として、より広く、大きなエリアでものを見ることを、いわば、岐阜を活かし、岐阜を越えるという考え方を持って頂きたい。

  2. 歴史の中から明日の物流を
     この言葉は釈迦に説法かもしれないが、岐阜の歴史の中に、岐阜の明日が示唆されていることも多いのではないだろうか。浅学の筆者には岐阜の歴史を熟知しているわけではない。しかしながら、思いつくまま、例をあげて見る。富山のブリが高山に渡り塩漬けにされて長野の正月のごちそうとなった“飛騨ブリ”、豊富な水の流れにより内陸部の大垣市、岐阜市、さらには美濃市にまでつくられた“湊”、商人の自由な活動を保証し、いろいろな地域から多くの品物が集まり当時の日本有数のにぎわいを見せた“楽市楽座”。これらは、物流戦略を考える上で多くの示唆に富んでいるのではないだろうか。
     また、物流にとどまらず、戦国時代、天下をとるために多く武将たちが美濃を狙った地政学上の意味や、新兵器である鉄砲や楽市楽座を取り入れた信長の進取性、近くは満州から引きあげてきた人々が始めたハルビン街がやがて日本一のアパレルの街、問屋街につながったグローバルなバイタリティなど、日本のまん真ん中で情報化・国際化時代の戦略を考える際のヒントとなるような気がするのは筆者だけであろうか。

  3. 人々情報の流れの中から物流を
     人の流れや情報の流れ。これらは一見、物流とは関係のないように思われる。ところがもう一度、よく考えて頂きたい。例えば、インターネットなどによる直販。これは別の見方をすれば、従来、メーカー→卸売→小売という流れで伝わっていた“モノ”に関する情報がメーカーから直接消費者に届くことになったという変化を表したものと考えられる。その結果、当然のように物の流れはメーカーから直接、消費者へ届けられるようになる。これまでは、物の動きには必ず情報の流れを伴うといわれてきたが、これからは、情報の流れが新しい物の流れを生み出す、情報の流れに物の流れがついてくる。これが筆者の考える情報化時代における物流戦略の視点である。
     同時に人の流れについても重要である。“ゴルフ宅急便”や“海外からのおみやげ便”。これらは、ゴルフ場への人の流れ、海外への人の流れをビジネスチャンスに結びつけたものである。この他では例えば、駅でのクリーニングサービス。共働きの夫婦もしくは単身者の通勤という人の流れの中での物の動きに着目すれば、客の方が通勤の途中に洗濯物を持ってきて帰宅の時に持って帰るという中で、駅のクリーニングというサービスが見えてくるのではないだろうか。これはまた、今までのクリーニングにつきものだった御用聞きと配達という物流を変えてしまうことを意味する。いずれにせよ、従来、物流とは異なると考えられていた人流や情報の流れの中に物流を見い出すという視点が、物流戦略を考える上で重要ではないだろうか。

 

(2)方向性
 岐阜にける物流を先略的に考える際の産業のイメージについては、97年92号のセンターレポートで「日本の真ん中に新しい産業を〜ネットワーク産業の育成方策〜」として概要を説明したので、ここでは具体的なイメージではなく、それとは異なった視点で、特に企業の戦略の方向性を2、3述べてみたい。

  1. 日本海を視野に入れた展開
     東海北陸自動車道の開通や安房トンネルの開通は岐阜と日本海側の結びつきをさらに強めることとなる。日本海側との結びつきをどう考えるかは、各企業の性格により様々であるが、日本海側を市場として見れば、岐阜は日本海側も含めた中部圏内での供給基地や物流拠点としての位置づけが考えられる。また、調達先として見れば先ほどの飛騨ブリのように日本海側の特産品を関東・信越、中部に運ぶという動きが考えられる。港湾や空港を活用すれば日本海側は空港も港湾ない岐阜県のアジアへの窓口となる。

  2. 国内の複数の空港、港湾を活用した国際的展開
     港湾も空港もない岐阜県の特性と日本の真ん中という条件も考えあわせると、国内の複数の空港、港湾を活用し就航便や混雑度などを考えあわせ使い分けることが考えられる。その際、国内企業では従来からの通関業者等の付き合いなどにより、あまりドラスティックに使い分けを行えないかもしれないため、比較的行動の自由がある外国企業を誘致することも一つの方向であろう。

  3. 川筋の復活
     岐阜県、特に南西部の物流を考える際には川を抜きにしては考えられない。川は横切る方向にはしばしば渋滞を起こし、物流にとっても問題となることが大きい。一方、現代の川筋は水運ではなく、堤防道路という一種のハイウェイとして復活しており、信号機の少なさや名古屋港、名神自動車道へのアクセスの良さが物流道路として大いに期待できるのではないだろうか。今後、中部新国際空港や四日市港の充実と関連させれば、さらに面白い存在になるだろう。

  4. 物流を"語れる"人材を
     物流戦略に必要なものは、将来を見据えるビジョンである。従来、物流というと間違いなく顧客のもとへ決められた時間に正確に商品を配達することが求められており、どちらかといえば"不言実行型"の信頼できる人材が求められたのではないだろうか。その正否はともかく戦略型の物流を考えるには、物流の将来像を語れる"有言説得 型"の人材を置くべきだと筆者は考える。なぜならば、物流戦略は経営戦略に直結しており、社内外の多くの人の理解を得、説得していかなければならないから。戦略的な物流を成功させている企業の多くには、その考え方や狙い、全体像を"語れる"人材が必ずいる。もし、企業内にそのような人材がいないとなれば、例えば企業の物流部門の担当者を決め、外部からの取材や問い合わせに積極的に答えさせるという努力を行って頂きたい。その過程で自社の考えが整理され、質疑応答を通してはっきりとした全体像や課題、問題点が見えてくるから。また、関係者に理解を求め、説得させる力がつくだろうから。

 

3. おわりに

 若輩者の筆者が、偉そうなことを書きつづり、せっかくの特集をだいないしにしないかと心配であるが、この稿のどこかに何かを感じていただける読者がいることを信じて筆を置きたい。

(現・(株)三菱総合研究所研究員)