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21世紀の物流に関するいくつかの視点 森川高行 |
1.はじめに
必要なものがいつも過不足なく並べられているコンビニエンスストア、手ぶらで行ける北海道でのスキーやゴルフ、11月の第三木曜日には世界に先駆けて飲めるボジョレーヌーボー。我が国の物流システムの進歩によって、消費者は本当に便利になった。しかし一方で、他国に比べての港湾や空港のインフラ整備及び運営方法の遅れ、進まない共同配送、トラック輸送への過度の依存、都市内で渋滞を引き起こす低積載率小型貨物車の運行や荷さばき駐車など物流に関わる様々な問題も指摘されている。
これらの問題に対するインフラ整備や規制緩和のあり方、共同配送や高度なロジスティックスなどの企業の物流戦略については、本特集の他の記事において随所に書かれることと思う。筆者は、主に人の交通を専門としており、生半可な知識で物流戦略について述べることは避けたい。代わりに、本稿では交通一般に対する21世紀のいくつかのキーワードから、物流交通を若干異なる視点から論じてみたい。
2.高度情報化と物流・人流
高度情報化の社会を迎え、情報・通信技術が交通に及ぼす影響ということが専門家だけでなく新聞・一般雑誌などにも話題に上ることが多くなってきた。なかでも一番わかりやすい内容は、テレワーキングやテレショッピングなどにより出勤や買物の交通を行わなくて済むといったものである。同様なものに、テレビ会議、在宅医療、ホ―ムバンキング、ビデオティーチングなどがあり、すべてこれまで利用者が出向いていっていたものが、高度な通信機器により在宅のまま用を足すことができるものである。交通工学研究者の間では、「通信による旅客交通の代替効果」と呼ばれる。
一方、情報・通信技術の高度化は旅客交通を増大させる効果も大きい。情報化はビジネスチャンスを増やすし、エンターテイメント、ショッピング、観光地の情報は娯楽・買物・観光の交通を促進する。
最近とくに注目されているものが、「補完効果」というもので、情報によって交通の質を高めることである。カーナビに代表されるITS(Intelligent
Transportation Systems、高度情報化交通システム)がそれである。近年、大都市圏や主な高速道路上では、車載カーナビにリアルタイムの混雑情報を取りこめるようになり、ダイナミックルートガイダンス(リアルタイムの交通状況に基づいて目的地までの経路を指示するシステム)への一歩を踏み出した。ITSは、その他にも事故防止システム、自動料金収受システム、公共交通機関の運行状況表示など、交通に関わる幅広い情報化システムである。
上に挙げたものはすべて人の交通(人流)に対するインパクトである。翻って物流交通を見ると、人流よりも早く高度に情報化が進んでいると言えよう。小売店でのPOSデータが即座に配送センターに送られ商品を配送するシステムや運輸・流通・製造業界のトラック運行管理システムは、人流交通の一歩も二歩も先を進んでいると言える。これは、個々人が自由意思の下で動く人流に対して、まとまったフリート単位で最適化をはかれる物流交通の優位性の効果が大きい。今後もさらに技術革新による高度化や集配の共同化が進めばより効率的な運行が望めるであろう。
物流交通に関わるITSでとくに将来的に望まれることは、貨物車の高速道路上の自動運転化(Automated
Highway Systems; AHS)である。現在でも運転手の人手不足が進み、一方で物流費における人件費が業績を圧迫している。また、過酷な運行条件により事故が増え、一般ドライバーを巻き込んだり、長期に渡って高速道路を閉鎖させたりしている。安全性や経費削減だけでなく、AHSは車間距離を短くできるために道路の交通容量を大きく増し、また定速運転は環境・エネルギー的にもよい。片側二車線の高速道路では一車線をAHS専用車線にすることは難しいが、片側三車線となる第二東名・名神あたりから実現を望みたいものである。
新たな視点としては、人の交通との連携を考えた商品物流がある。現在、人の自由目的交通(買物,娯楽など)では自動車利用が急速に増えており、渋滞、環境・エネルギー、都心部の衰退などの問題から公共交通利用促進が叫ばれている。しかし、著者らも名古屋市の都心部への来訪者にインタビュー調査を行ったが、買物をして荷物が出そうなときにはほとんど自動車で移動することが確認された。現在でも商品配達のシステムはあるが、手元に届くまでに通常一週間程度かかる。人は買ったものをすぐに手に入れたいものである。都心で購入した瞬間に居住地またはパークアンドライド駅近くの配送センターに指令が行き、その日のうちに配送またはパークアンドライドの帰りにピックアップできるようなシステムがあれば、公共交通機関を利用しての都心への自由目的訪問が増えると思われる。
また、テレショッピングの形態が増えると商品の配送も格段に増えるであろう。上記のような買物形態の配送と連動させ、小規模な小売店も巻き込んだ効率的な配送システムが構成されると次世紀における新たな形態のショッピングが生まれるのではないかと思われる。
3.環境・エネルギーと物流
21世紀における最も重要なキーワードは環境・エネルギーであることは間違いないであろう。我が国の貨物輸送量は、トンキロベースで見た場合トラック輸送のシェアはずっと伸び続け、現在五〇%を越えている。また都市圏内物流の件数ベースで見るとほとんどすべてが自動車によるものである。しかも積載率は落ち続けている。
トラックによる多頻度輸送は、環境・エネルギー的に最も望ましくない形態である。化石燃料消費や二酸化炭素排出といった地球規模の問題以外にも、大気汚染、騒音、振動などの地域環境問題も貨物車が大きな原因となっている。地域環境問題については、貨物車の排ガス規制強化、電気自動車などのエコトラックの利用推進、クラクション禁止、トラックルートの指定、道路の地下化などが当面考えられる対策であり、将来的には都市内地下物流システムのようなものを目指すべきであろう。
地球規模問題については、先に述べた高速道路上の自動運転化、鉄道や船舶へのモ―ダルシフト、大量・共同輸送化、エコトラックの推進などが考えられるが、直接的な経済的インセンティブがない限り企業がこれらの対策を自然に行うことはあまり期待できない。それには、炭素税や二酸化炭素排出権の債券化といった政策が必要になろう。企業が利潤追求のため自ら上記のような方向にシフトしていくことが重要である。もちろん課税などにより輸送費用は上昇し、商品の価格に反映されるであろう。環境税の税収のうちいくらかは所得税及び法人税の減税に回せばよい。商品の価格は上がっても所得税減税により可処分所得は上がり、しかも環境に悪影響を与えているものほど価格上昇は大きくなるので消費者の購買パターンや生活パターンが変化する。一国だけでこのような政策を行った場合、その国の製品の競争力が低下することが懸念されるが、21世紀の早いうちに世界中でこのような政策が施行されているはずである(さもなくば人類の未来は極めて短いであろう)。
もう一つ環境関係で重要になるのが静脈系の物流であると思われる。物流というイメージはこれまで動脈系を表していた。しかし、ご承知のとおり産業廃棄物や一般の家庭ゴミは増え続け都市部では最も大きな脅威になりつつある。近い将来、耐久消費財の廃棄は生産者の責任で行うことになるであろうし、産業廃棄物問題もより深刻となろう。ここにリサイクルのための物流の大きなニーズが出現すると思われる。
このように極めて近い将来にCO2排出や廃棄物処理などの環境に関わる大きな政策転換が行われることが予期される。物流に関係する業界は、これを大きな新しいビジネスチャンスとして捉え、その準備をしておくことが業界としても社会的にも望ましい。
4.アメニティと安全
物の輸送は市民生活をより豊かにするために行われることがほとんどであるが、物流交通自体は市民生活のアメニティや安全性を大いに減じていることが多い。よりアメニティ嗜好が強まる次世紀においてはこのような矛盾がこのまま許されてはいけない。
より具体的には貨物車などの無謀運転、違法駐車、騒音、排気ガス、景観破壊などである。例えば、多くのトラックはわが物顔で無謀運転をし、たとえ事故を起こしても死傷するのは必ず自家用車の乗員や歩行者である。ジャストインタイムの輸送のために道路脇でアイドリングを続けながら連なって停車している貨物車は、企業の効率のために道路という社会資本や大気を浪費していると言える。このような些細なことの積み重ねが、市民の貨物車に対する嫌悪感を増幅させ、ひいては業界全体の大きなマイナスになっていることに気づいていないのではなかろうか。航空会社を筆頭に旅客輸送業界が好印象をもたれ、例えば就職人気企業に名を連ねているのとは好対照である。
宅配便の配達員の愛想はずいぶんと良くなったが、道路においても常に市民の目に触れていることを考え、業界のイメージアップを図ることは長い目で見れば極めて重要なことではないかと思われる。
5.おわりに
物流というテーマの割にはずいぶんと景気の悪いことを述べてきた。インフラ整備、ターミナルの合理化、ロジスティックス化、地下物流システムなどということを期待していた読者の方には肩透かしであったかもしれない。しかし、私の考えでは21世紀は明らかに(経済的な意味で)「景気」は悪くなるが、人々はより豊かな暮らしをしている、ということにならざるを得ない。簡潔に言うと、大量生産・大量消費からの転換である。必然的に物資流動の量は少なくなるであろう。
このような背景の下での物流の転換の方向は、より消費者・消費活動に直結し、高度な情報・通信技術を駆使し頭を使い、環境・エネルギー・廃棄物など環境関係の政策変更に(反対するのでなく)proactiveに対応し、市民に迷惑産業と思わせない夢のある、産業となっていくべきであろう。
なお、環境政策などの結果国内物流コストが高くなり、すべての産業の国際競争力が低下することが懸念されるが、それに対してはより高度な情報化と共同化などによる業界の合理化、そしてテクノスーパーライナーや鉄道ピギーバック輸送などのためのインフラ整備、不要な規制撤廃、情報インフラの整備などの公共サイドの努力の両者が必要となろう。また、先に述べたようにすべての国で一律の環境政策が施行される日も遠くないはずである。
物質文明から精神文明の時代に変わってもモノを手に入れることは人間の最も大きな喜びのひとつである。そのモノが製造から流通、廃棄に至るまでなるべく環境にダメージを与えないようするためには物流は大きな任務を背負っており、また同時に大きなビジネスチャンスを持っていることを認識したい。