
新しい第一歩を踏み出したタイ王国
「世界の成長センター」として目覚ましい発展を続けているアジアに赤信号がともった。 平成9年7月2日のタイバーツの大幅下落に端を発したアジアの通貨急落の影響が、アジア各地に進出している日本企業にも大きな暗い影を落としつつある。
![]() ソンポン公使 |
このように加熱気味であったアジア経済が変わり始めている中、その発端の地であるタイの現状や岐阜県企業がタイに進出する場合の留意点などについて、在日タイ王国大使館経済・投資部公使でありタイ投資委員会(BOI)日本事務所長であるソンポン ワナパ(Somphong Wanapha)氏にお話を伺った。BOIとは、タイ国内の投資を振興するためのインセンティブを付与する権限を有する政府関係機関であり、タイ及び海外において、幅広い投資奨励活動を行っている。 |
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タイ政府は7月2日から、バーツを米ドルにリンクしたバスケット方式から管理フロート制に移行し、バーツの事実上の切り下げに踏み切った。これはタイ政府の「バーツの価値は市場の需要と供給のよって決まるべき」という認識により実施されたものである。ソンポン氏はこのことについて「タイの経常赤字が対GDP比率の適正比率5%を超える8%台となっていたこと。外国からの短期負債が増大傾向にあったこと。この2点が直接的要因としてバーツの通貨不安が表面化していった。このため投資家はタイバーツは弱くなると予想し今年2月と5月に大きな売りをし掛けてきた。タイ政府はバーツを安定させようと資金を投入し防衛したが、結局防衛しきれず、最終的には市場の原理に任せようということになり、管理フロート制に移行した」という。その後、タイ政府は8月5日の閣議決定により経済構造改善策をまとめ、経済の立て直しを図っている。また、タイ政府はこの経済構造改善策を発表するのと同時に、国際通貨基金(IMF)に対しバーツを安定化させるため、一定の枠内でいつでも引き出せるスタンドバイ・クレジット方式による通貨支援を要請した(その後開催されたIMF主催の支援国会合により要請額以上の支援の表明があった)。なお、景気の減速により起こった不動産バブル崩壊に伴うノンバンクの不良債権問題については、ソンポン氏は「政府は2つの独立行政機関を作って不良債権問題を解決しようとしている。一つは金融再構築機構(FRA)で、58程ある営業停止ノンバンクをFRAが再度経営内容をチェックし、営業可能な所は営業開始させる。もう一つは資産管理公社(AMC)で日本の住専処理機関と同じ様なもの。これらの処理策はIMFや世界銀行の意見、日本・メキシコなど過去の世界の経験を生かして決めた。この2つの組織により不良債権問題は解決されるだろう」という。
しかし、「これらの救済策がうまく機能すれば、債権者の信用は回復するし、投資家も帰ってくる。そうすればバーツも安定するだろう」というソンポン氏だが、やはり短期的にはタイ国内における当面の混乱は免れないだろう。
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日本企業にとってバーツの下落はマイナス面ばかりでない。タイと日本との関係は非常に緊密で、2000社を超す日本企業がタイに進出し、日系製造業の集積度は世界一ともいわれている。ソンポン氏は「タイに進出している日本企業にとってのプラス面は、労働力(円で換算した時)や現地で調達する原材料費、その他の現地費用は安くなる。また特に有利になるのは輸出産業(タイからの輸出)である」という。続けて「タイ国内の消費は国内市場が景気低迷により冷え込んでおり、耐久消費財、特に自動車の売上は大幅に減少している。このため自動車メーカーは、市場をタイ国内から国外に切り替えていかなければいけないだろう。三菱自動車工業の場合、既にこのことに対応しており、97年10月までの9年間にトータル10万台輸出していたのが、来年が6万台、再来年は8万台の輸出を計画している。このようにタイ国内からの輸出はバーツが下がったおかげで国際競争力が回復しているのだ」という。
岐阜県からもタイには自動車部品産業などが多く進出しているが、ソンポン氏は「やはり、これからは輸出を考えた方がよい。ビジネスとして考えた場合、タイ国内を相手にしているようではその会社は潰れてしまう」と厳しくアドバイスした。また「自動車産業も有望だが、これから進出するならばエレクトロニクス部品産業、電機・電子部品産業、食品加工産業といった産業が有望である。特に食品加工産業はタイ国内にある原材料を使うので、コストはより安くつくのではないか」と続けた。加えて、タイに進出する場合に留意すべき点としては「特にコミュニケーションが重要だ。またBOIやジェトロ、中小企業事業団、日系銀行(東京三菱、さくら、日本興行、住友、第一勧銀)、日本商工会議所などから信頼できる情報を得て、すべてを理解した上で進出するか否かを決断しても遅くはない」という。
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<出典・参考文献>
タイ投資委員会東京事務所「BOIニューズレター(August,1997)」
中日新聞社(平成9年10月19日)
(株)ダイヤモンド社「週間ダイヤモンド(97.9.27)」