岐阜県の製造業について
前回、「産業構造から岐阜を考える」ということで岐阜県の産業構造の推移や産業構造をめぐるいくつかの視点から考察を試みたが、今回は、岐阜県の産業構造の中でも最も大きな位置を占める製造業にスポットを当て、製造品出荷額等における特化係数及び岐阜県製造業の付加価値生産性の側面から主に地場産業関連業種と機械器具製造業との比較を中心として検討を行ってみたい。
1 岐阜県製造業の特化の状況
地場産業関連業種への特化が著しい岐阜県の製造業
岐阜県の製造業は、現在も岐阜県の産業の中で非常に大きな位置を占め、岐阜県の産業を支える重要な業種というこに変わりはないが、その中身においては大きな変化がある。ここ30年における岐阜県製造業の製造品出荷額等構成比の変化を端的に表すと、「繊維工業の衰退」、「窯業・土石製品製造業をはじめとした地場産業関連業種の横這いもしくは漸減傾向」、「一方で電気機械器具製造業や一般機械器具製造業の伸び」ということが言える(図1)。
図1
主要産業別製造品出荷額等構成比の推移
次に製造品出荷額等における特化係数から見てみると、特化係数が1であれば全国平均であるが、岐阜県は全国と比較して、依然として繊維工業(特化係数=3.71、平成7年工業統計調査。以下同じ。)、衣服その他の繊維製品製造業(2.59)、家具・装備品製造業、(3.17)、窯業・土石製品製造業(3.48)など地場産業関連業種の特化係数が非常に高いことがわかる。この一方で電気機械器具製造業、一般機械器具製造業、輸送用機械器具製造業など最近において製造品出荷額等が伸びてきている業種については、一般機械器具製造業(1.10)が全国と比較してわずかに上回っているものの、電気機械器具製造業(0.76)及び輸送用機械器具製造業(0.76)の特化係数は全国平均を大きく下回っている。この状態は、最近10年程の間にも業種毎に増減はあるものの、さほど変わりはない。(図2、表)
図2、表 製造品出荷額等特化係数の推移
昭和60年 | 平成2年 | 平成7年 | |
食料品 | 0.78 | 0.76 | 0.63 |
飲料・飼料 | 0.56 | 0.28 | 0.26 |
繊維工業 | 3.10 | 3.04 | 3.71 |
衣服・その他 | 3.93 | 4.00 | 2.59 |
木材・木製品 | 1.69 | 1.67 | 1.79 |
家具・装備品 | 2.91 | 2.62 | 3.17 |
パルプ・紙 | 1.68 | 1.63 | 1.82 |
出版・印刷 | 0.50 | 0.46 | 0.51 |
化学工業 | 0.51 | 0.51 | 0.58 |
石油製品 | 0.02 | 0.08 | 0.08 |
プラスチック | 1.83 | 1.56 | 1.68 |
ゴム製品 | 0.55 | 0.73 | 0.91 |
なめし革・毛皮 | 0.25 | 0.25 | 0.33 |
窯業・土石 | 3.73 | 3.79 | 3.48 |
鉄鋼業 | 0.26 | 0.36 | 0.41 |
非鉄金属 | 0.75 | 0.63 | 0.57 |
金属製品 | 1.20 | 1.36 | 1.39 |
一般機械器具 | 0.91 | 1.09 | 1.10 |
電気機械器具 | 0.82 | 0.65 | 0.76 |
輸送用機械器具 | 0.75 | 0.78 | 0.76 |
精密機械器具 | 0.44 | 0.19 | 0.15 |
その他製造業 | 0.69 | 0.90 | 0.90 |
このようなことから、岐阜県の製造業の特徴としては、製造品出荷額等構成比が横ばいもしくは減少傾向にある地場産業関連業種に依然として大きく特化しているということがいえる。
2 岐阜県製造業の付加価値生産性
付加価値生産性の高い業種も全国と比較すると低い岐阜県の製造業
次は岐阜県製造業を付加価値生産性において見てみたい。岐阜県製造業のの付加価値生産性(従業員1人当たりの付加価値額)は、製造業全体で平均864万円(平成7年工業統計調査)。全国平均が1096万円なので、全国平均と比較すると低い数値となっている。また、これを業種別に見ると、繊維工業(605万円)、衣服その他の繊維製品製造業(426万円)、木材・木製品製造業(594万円)、家具・装備品製造業(695万円)、窯業・土石製品製造業(773万円)などのいわゆる岐阜県の地場産業関連業種は総じて低く、一方で電気機械器具製造業(1019万円)、輸送用機械器具製造業(1015万円)一般機械器具製造業(892万円)などは比較的高い状況にある。これだけを見ると、最近伸びつつある業種の付加価値生産性が高くその業種の勢いを象徴しているように見える。
しかしながら、この付加価値生産性を業種毎に全国と比較してみると、意外にも、付加価値生産性が低く、製造品出荷額等構成比も減少傾向にある繊維工業、衣服その他の繊維製品製造業、家具・装備品製造業などが全国の同業種と比較してわずかではあるが高い数値を示している。また、その他の地場産業関連業種では、プラスチック製品製造業は、他業種に比べ比較的付加価値生産性も高く、それを全国と比較しても高い状況にある。逆に窯業・土石製品製造業は、付加価値生産性そのものも低く、全国と比較してもさらに低い状況にある。(図3、図4)
図3 岐阜県製造業の付加価値生産性(平成7年)
|
![]() |
図4 岐阜県製造業の付加価値生産性 全国との比較(平成7年)
付加価値生産性全国比較
|
![]() |
その一方で、岐阜県内においては他の業種と比較すると付加価値生産性が高く、今後岐阜県において伸びていくことが期待される一般機械器具製造業、電気機械器具製造業などの付加価値生産性は、全国の同業種の付加価値生産性と比較するとかなり低い状況にある。
このように全国における付加価値生産性と比較して特に電気機械器具製造業、一般機械器具製造業で付加価値生産性が低いのは岐阜県においては製品の完成品を製造している事業所が少なく、部分品を製造している下請け事業所が多いことが理由の一つとして考えられる。
3 岐阜県製造業の今後
新たな付加価値の模索、小さくても光る企 業を目指すことが必要
これまで見てきたことから今後の岐阜県の製造業はどのようになっていくのであろうか。
従って、各業種の置かれた状況を見極めたうえで今後の岐阜県製造業の進む道を考えていく必要がある。例えば、繊維工業については、岐阜県は全国と比較しても付加価値が高いものの、やはり今後とも海外進出の動き、海外との競争は避けられない状況にある。このような中で県内に繊維工業が残り生産を維持していくとすれば、新素材の開発、高品質な製品の生産など海外製品に対抗しうる新たな付加価値を生み出す力をつけていくことが必要となってくるのではないだろうか。
また、電気機械器具製造業や一般機械器具製造業などの業種については、単なる下請け企業構造からの脱却を図るため、高度な技能によるその企業でしかできないような製品の生産、短納期で対応できる体制づくりなど、それぞれの企業が独自性を発揮し、企画力を持ち、親企業や取引先に対し、提案する力を持つような小さくても光る企業への途を目指すなどの企業改革が必要となってくると思われる。それにはやはり技能の維持、伝承、高度化が必要不可欠なものとなってくるのではないだろうか。
これらは統計数値からみた製造業の分析であり、今後の岐阜県の製造業のあり方を考えていく上での一つの参考として見ていただければと思う。
(研究部 主任研究員 栗山 昌治)