
産業の情報化と岐阜県企業
県内企業の情報化推進にむけての一つの提案
−「岐阜県製造業の経営課題と産業情報化の方向」報告書より−
はじめに
産業経済研究センターでは情報化を企業が直面する様々な経営課題を解決するための重要かつ有効な手段として捉え、県内の産業情報化の方向やそのための支援策を検討を行った。岐阜県の製造業、特に代表的な業種であるアパレル産業、機械工業の2つをケーススタディとして取り上げ、情報化に向けての1つの提案をした。なお、検討にあたり産業Eや学識経験者からなる「産業情報化研究会」(座長:辻 正 岐阜県情報産業協会会長)を開催し、ご指導、ご助言を頂いた。
1.経営課題と情報化(アンケート調査結果)
岐阜県内の製造業を対象にアンケート調査を行い、県内企業の経営と情報化の現状と課題について検討した(有効回答企業数は690社で、有効回答率は26.7%)。
(1)製造業の産業構造(仕入・生産・販売活動面から見た)
県内の製造業は、「自社ブランドの完成品製造」を行う完成品メーカー(約4割)と、一次下請・二次下請等受注型メーカー(約4割)とに二分されている。「衣服等」や「家具等」の地場産業には比較的完成品メーカーが多く、機械系産業では受注型メーカーが多いという業種別特徴が見られる。仕入れから販売にいたる流れとしては「商社・問屋等」と「国内メーカー」の2つから仕入れを行い、一番多い「商社・問屋等」の他、「国内メーカー」「親会社」などに販売(納品)している。受注型企業の多い機械系産業では販売(納品)先として「国内メーカー」と「親会社」の割合が高く、完成品メーカーの多い「衣服等」では「小売店」の比重が高くなるなど生産内容の特徴を反映する結果となっている(図−1)。

(2)経営課題
多くの県内企業の経営課題は、"市場・販売関連"と"技術・製品の高度化"にあり、"それらを担う人材"が求められていると言える。社内体制では、「販売力の強化」(39.4%)・「生産技術力の強化・生産工程の高度化」(36.2%)・「優秀な人材の確保」(35.4%)という回答が多い。特に、完成品メーカーの多い地場産業で「販売力の強化」を、機械系産業で「生産技術力の強化・生産工程の高度化」を、挙げる企業が多い。対顧客・市場関係に関わる経営課題でも「国内新市場・顧客の開拓」を重視する企業が多く(34.9%)、以下、「新製品の開発・投入」(31.0%)や「既存製品の高付加価値化」(29.7%)が続いている。
(3)情報化の現状
情報化推進の主な目的・動機としては、「事務処理の効率化」を挙げる企業が圧倒的に多く、「社内業務の標準化」(26.0%)・「コストダウン」(15.3%)が続いている。その意味で、現状における情報化推進には、事務関連の効率化という視点が強く働いている。この点は、情報システムを「人事・財務管理」・「受発注管理」・「生産管理」・「在庫管理」で活用している企業が圧倒的に多いことからも裏付けられる。情報化の効果については、54.5%の企業が期待した効果は上げていると判断している。ただ、費用対効果という視点からは、3割強の企業が現状に満足していないとの結果が現れている。また、現状における課題としては、「人材開発の遅れ」を指摘する企業が約5割にのぼり、「社内体制の不備」、「情報化投資の負担が大きい」、「社内での利用が不徹底」といった回答が続く。
(4)今後の情報化の方向
今後の情報化推進の目的では、「社内業務の標準化・効率化」を挙げる企業が多いが、これまでとの対比で言えば「技術力の向上、製品の高付加価値化」・「新たな取引相手・事業分野の開拓」・「情報収集・発信力の強化」と回答した企業が増えており、今後は、情報化を手段に具体的な事業展開に前向きに活用しようという意向が強まっている。また、情報化を推進したい分野としては「生産管理」(41.3%)が一番多く、"生産面"での情報化の一層の拡大・深化が指向されている。この他、事務管理的な分野の比重は相対的に小さくなり、「販売活動及び情報発信」や「外部情報の利用」等の新たな取り組みが視野に入れられている。
このような今後の展開に向けて、行政に対してはコンサルティング、人材開発・訓練、資金の3つの面での支援を期待している。(図−2)

2.アパレル産業の情報化の基本方向の提案
(1)岐阜アパレル産業の特色と課題
岐阜県のアパレル産業は、その特色として「駅前に立地する前売り問屋と郊外の量販店・専門店向け製造卸の二分化」「自ら企画したものを委託生産し、販売する製造卸の高い集積度」「種類が多く、色・柄・パターンなどの変化が激しいファッション性の高い婦人服が主力製品」「国際化、海外との分業体制の進展」等が挙げられる。産業の課題としては、「販売力の向上」「季節性商品の投機的色彩への対応」「品揃え等における岐阜企業の連携強化」「高付加価値商品の創造」「産地に関する情報提供の充実」などが考えられる。
(2)産業情報化の考え方
@「販売力の強化」をサポートする情報化に重点
販路の拡大方策に着目し、特に、岐阜の商品の良さを認めてくれる顧客(ベストパートナー)探しを支援し、新しい顧客の開拓を目指すアパレルメーカーと小売のマッチングの機能の整備を重視する。
A岐阜にあったQRの展開
全国で展開されているQRをそのまま適用するのではなく、岐阜県の企業規模、商品特性等に適したQRを展開していく。
Bデザイン、企画等は基本的に個々の企業対応
デザイン、企画等は基本的にはそれぞれの企業の課題であるが、岐阜のアパレルには重要なテーマであるため、人材育成、基礎的な情報の提供などの側面的支援を行う。
(3)情報化の基本方向
アパレル産業として、取り組むべき1つの方向性として、図−3のようなものを提案する。

3.機械工業の情報化の基本方向の提案
(1)機械工業の特色と課題
岐阜県の機械工業は、その特色として「金型等の部品製造を中心とした一次加工、二次加工の業種の集積」「単一の工程のみの技術ではなく幅広い技術を有する総合力の高い企業の集積」「バブル崩壊後の企業の二極分化(高度な技術、独自の技術を有する企業の受注拡大と一般的な技術しか持たない企業の受注の停滞)」等が挙げられる。一方、産業の課題としては、「大田区、諏訪地域などと比較して余り知られていないため、一層の知名度の向上が必要」「親会社等の固定的な取引先だけでなく、新たな取引の拡大とそのための情報の活用」「関連業種内での連携、情報交流の促進」などが考えられる。
(2)情報化の考え方
@交流の中からのニーズの掘り起こし
金型などの受注型の部品メーカーでは、大企業等の生産現場のニーズを明確に把握できていないことが多い。こうしたニーズは日常の「ものづくり」の場面(企画・開発、試作等も含めて)で生じるものも多い。そこで、日常の交流の中でニーズを堀り起こしていく。
A技術力をアピールする情報発信
岐阜の機械部品産業は、技術力には一定の評価を得ているため、「専門家にわかるアピールの仕方」「国際的にも技術力を認められる仕組み」等に留意しつつ、技術力をアピールしていく。
B新たな展開の支援
「機械産業の技術力の高さを生かした関連分野進出」や「地域の新しい産業技術の創造(ソフトピア、VRテクノ等)と技術波及」を図り、機械産業の高度化を進めていく観点から、地域の実験的プロジェクト展開に着目する。
C技術力の深耕は個々の企業対応
技術力の深耕やそれに関連する情報化は基本的に個々の企業で対応していくこととする。
(3)情報化の基本方向
機械工業として、取り組むべき一つの方向性として図−4のようなものを提案する。

4.産業情報化の推進に向けて
岐阜県が整備を進めているソフトピアジャパンやVRテクノジャパン、国際情報科学芸術アカデミーなどは大きなポテンシャルを持つ機関であり、岐阜県の情報化に大きな役割を果たしていくものと考えられる。従って、本県の産業の情報化を考えた場合、このような高度な機能を産業情報化の推進の原動力として活用していくことは21世紀の産業をリードするという意味からも重要かつ不可欠な戦略となる。
一方、(財)岐阜県産業経済研究センターで行っている中小企業のための情報化コンサルティング、情報検索などの日常業務に密着した実践的な事業は利用が増加している。県内企業・業界は情報化の推進にあたって、様々な課題、問題点を抱えており、行政の支援に対する期待も少なくなく、県内企業が日々直面する現実的な課題に対応する地道な施策(ボトムアップ)も重要である。
本県の産業情報化を進めるに当たってはソフトピアジャパンを中心とした"先導的な施策の推進(リーディングプロジェクト)"とともに、各企業の現状に即した"中小企業の現実的課題への対応(ボトムアッププロジェクト)"を行うものとし、このような2つの柱がいわば両輪となって岐阜県の産業の情報化を強力に進めていく必要がある。
先導的施策としては、共同研究などによる先進的な取り組みへの支援、産業情報化のための高度な人材の育成支援、ソフトピアジャパン等の拠点を活用した新しい情報ビジネスの創業支援などが求められる。また、中小企業の現実的課題への対応として、情報化に向けてのコンサルティングの充実・情報提供、中小企業の人材育成への支援、企業、業界のPR、情報発信の支援、情報化に向けての経営者等への啓発などが求められる。さらに産業全般に共通する支援策として広い岐阜県の中で地域格差のない、高い水準の情報通信インフラの整備が必要となる。
5.おわりに
今回、提案した産業情報化の方向は一つの案である。企業の中には花王のような全国にいくつもの工場を持つ企業のあれば、一つの工場兼事務所で世界的な技術で頑張っている企業もあり、生産する製品や業態、規模などにより様々な経営課題を抱えている。それらのすべてにこの提案が当てはまるわけではなく、また、情報化が経営課題解決のための万能薬でもないことは皆さんご承知の通りである。しかしながら、情報化は企業の経営課題解決のために最も有効な方法の一つであり、特色を持った中小企業がネットワークを通じて自らの優位性を発揮できる大きなチャンスであることも事実である。今回の提案は更に検討を要する点や実現に向けての課題も多々あるが、これが一つのたたき台となって、産業界、各企業、行政などの各方面でそれぞれご検討いただき、岐阜県の産業情報化の推進に役立つことを願って結びとしたい。
(研究部 主任研究員 新田啓之)