製造業を核とするシンガポール




林 領事

 

 世界経済フォーラム(本部ジュネーブ)が発表した97年版「世界競争力報告」によると、前年に引き続きシンガポールが競争力ランキングの1位となった。この報告は58カ国・地域を対象に、対外開放度、政府の役割など8分野の評価によって決まるが、シンガポールは税制、規制、公務員の資質など「政府」の項目でトップ、他の項目についても高い評価を得た。

このように世界で最もパフォーマンスに優れたシンガポールの発展の秘密や岐阜県企業がシンガポールに進出する場合の魅力、留意点などについて、駐大阪シンガポール共和国総領事館領事である林 瑞年(リム・スウィ・ニェン)氏にお話を伺った。

シンガポールの発展要因について、林氏は「まず政治のリーダーシップをあげることができる。竄ヘり政府がリードして進めることが重要。現に方針がハッキリしており、今後どうすればよいか十分議論され、実行されている。このことがシンガポールの競争力を高める大きな要因となっている。そして、国が小さい(面積646ku、人口約300万人)ため、トップが決断してからすぐに実行に移すことができることも大きな要因だ」とシンガポールの発展に政府の果たしてきた功績の大きさを強調する。

 とかくシンガポールは、日本においては観光地として、そして香港と並ぶ国際金融・貿易の中心地として、サービス産業が強いというイメージがあるが、シンガポール政府はあくまでも製造業をメインに経済発展を考えているという。林氏は「シンガポールは製造業を核に経済発展を図ろうとしている。情報産業や金融サービス業はあくまでも製造業強化のためのもの。金融サービスセンター、物流サービスセンター等の整備もこの一環である。情報産業や金融サービス業だけでは経済を維持し、雇用を維持することはできないのだ。現状ではGDPの24.7%程度が製造業だが、中・長期には4分の1ないしそれ以上を占めるよう目指している」とシンガポール政府の製造業重視の姿勢が伺える。

 その製造業についてみると、95年における製造業の成長率は10.3%とGDPの成長率(8.8%)よりも高成長を遂げている。また、シンガポール政府は西暦2000年におけるキー産業として、電子、化学、航空宇宙、バイオテクノロジー、精密機械、サポーティングインダストリー、軽工業の7産業をあげているが、林氏は「製造業の大きな柱は電子産業であり、製造業生産高の約半分となっている。これは何故か。電子産業は一番進歩が速い。進歩が速いということはそれだけビジネスチャンスが拡がる。つまり、電子産業を強くすることが国としての競争力強化につながるため、政府としても電子産業のウェイトを大きくしているのである。そして、もう一つの柱は石油化学産業。石油精錬関係(製造業生産高の18%)が世界第3位を誇り、今後も石油化学プラントの建設予定がある。更なる強化をし、製造業生産高の20〜25%には持っていきたい。なお、この2つの産業の景気の波にはズレがあるため、電子産業のバッファー(補完)として石油化学産業を位置付け、これからもこの2産業をメインに考えていきたい」という。

 シンガポール政府は、資本・技術集約型産業の誘致を積極的に行っているが、その誘致は国内市場を対象にした産業誘致ではない。シンガポール内に生産、開発拠点を置き、世界市場を対象に競争力のあるモノを作ってもらうという形態である。

 そこで岐阜県企業のシンガポールへの進出に際して、林氏は「インフラは整っており、人材も質が高い。人件費は周辺国に比べて決して安いとは言えないが、原料購入から流通、販売までのトータルのビジネスコストを考えて欲しい。インフラの良さや政府による補助金、税金の優遇策など全部含めて考えればまだまだシンガポールは競争力があると思う。ただ、シンガポールはオープンな市場のため競争が激しい。だから、自分に一番強いモノがないと、例えば、世界一の技術力があるとか製品に魅力があるとかでないとシンガポールでは勝負できない」とシンガポール経済の魅力と環境の厳しさをアドバイスし、さらに職種については「やはり電子関係だが、これらの支援産業として工作機械や精密金属も有望である。特に電子産業は質の高いパーツの供給が欠かせないからである。なお、シンガポールの地元企業も多国籍企業を相手にサポート部品やサービスを提供しており、岐阜県企業とジョイントで事業を行うのも一方法ではないか」と続けた。

 最後に、シンガポール地元企業の日本への進出の有無について、林氏は「流通システムと言葉が2大ネック。地元企業でも大手の場合は、合弁でも大手商社と組んででも参入することができるが、中小では難しいだろう。日本市場は、各産業とも企業数が多く、日本国内だけでも競争が厳しい。そして系列という問題もある。このように日本市場はなかなか参入しにくい市場であり、中小の進出は当面ないであろう」とのことである。

 

 

<問い合わせ先>
○駐大阪シンガポール共和国総領事館
 大阪市中央区安土町2丁目3番13号 大阪国際ビル14階
 TEL 06-261-5131 FAX 06-261-0338
○財団法人岐阜県中小企業振興公社
 岐阜市薮田南5丁目14番53号 岐阜県県民ふれあい会館10階
 TEL 058-277-1092 FAX 058-277-1095
 
<出典・参考文献>
日本経済新聞(97年4月22日)
日本経済新聞夕刊(97年5月21日)
日本貿易振興会 ジェトロ貿易市場シリーズ318 シンガポール
シンガポール経済開発庁 INVESTMENT NEWS
(財)世界経済情報サービス THE WORLD 1996

 

<参考>県内企業のシンガポールへの進出状況

企 業 名 拠点所在地 業 態 事 業 概 要
イビデン(株) シンガポールセシール通り 販 売 プリント配線板、ICパッケージ等の販売
(株)イマオコーポレーション シンガポール 販 売 総代理店
(株)ゲン・コーポレーション LEONIC HILL ROAD 事務所  
(有)サンライズ技研   販 売 コンピュータ生産管理システム
西濃運輸(株) シンガポール 事務所 現地での営業渉外
大日本土木(株)   事務所 シンガポール及びアジア地区の営業拠点
テクノタカギ(株) ジュロン市 販 売  
東海サーモ(株) 5LONG BAKER BATU 販 売 接着芯地の販売

 出典:岐阜県「岐阜県海外取引実態調査報告書(平成6年3月)」