カウントダウンが始まった香港


 

 香港が世界経済に占める役割は非常に大きい。多くの日本人にとって香港は、観光地、ショッピングの街としてのイメージが強い。しかし、現実には東京、シンガポールと並ぶアジアにおける金融・貿易の中心地としての香港が存在するのである。

 その香港が中国に返還される日(1997年7月1日)まであとわずかとなった。香港との経済的な結びつきも強い日本。香港が中国に返還された後どうなるのか。日本にとっても重要な関心事である。

 このような中、香港貿易発展局大阪事務所長である古田茂美氏に香港の経済状況や香港進出の際のアドバイスなどについてお話を伺った。

 香港貿易発展局は1966年9月に、香港製品の市場開拓や販売促進、また貿易のパートナーとしての香港、あるいは製造業中心地としての香港の好イメージを創出することを目的として設立された。そのため毎年香港や海外において、約240の貿易推進プロジェクトを立案し、既存市場との通商関係の拡大、発展市場への新規参入の強化、更に新市場及び供給源の開拓などに努めている。また、世界各国の主要都市に事務所を置き、海外企業に貿易に関する有益な情報をコンスタントに提供している。

 香港の中国返還は1984年12月の「中英共同声明」により決定したが、中国側の功労者であった 小平氏が本年2月19日急逝した。しかし、この‘Xデー’を香港の人々は冷静に受け止めることができたという。ハンセン指数という経済状況をあらわす指標があるが、これは同時に香港人の心情をあらわす指標とされている。この指標をみると 氏が急逝した翌日の指標は305ポイント上昇した。このことに対して古田所長は「中国の香港返還に向けての準備活動が評価されたもので、事実、香港では当初の悲観ムードが消え、楽観ムードが漂っており、他国へ移民した者もアジア経済よりもよくないということで12%程度香港に戻ってきている」という。

 さらに「香港に進出している日本企業は約2,000社(95年)で、投資額は94年累計で139億ドルにのぼるが、この返還を契機に益々経済が活発するだろうと予想する日本企業が大勢を占めている」と続け、日本企業にとっても香港の中国返還は歓迎されているようだ。

 香港の製造業は、労働者の11.6%を雇用する産業であるが、主要産業をGDPベースでその構成比(94年)をみると、商業・貿易・外食・ホテル部門が27.0%、金融・保険・不動産部門が26.1%、製造業はわずか9.3%と、産業構造がサービス化している。香港政庁はレッセフェール(自由放任主義、無干渉主義)の立場をとっており、日本と同じように製造業の空洞化問題もあるが、今後もサービス経済化を振興させたいという。

 岐阜県の製造業が香港に進出した場合の留意点などについて、古田所長は「香港の製造業は約50,000社強。登記は香港にあるのだが、実際香港には製品開発部や販売促進部などの商社部門があり、製造部門はコストの安い中国にあることが多い。このため香港は製造業の基地としてよりは、センターとしての機能が向いている。香港の製造業は主として消費財を製造する軽工業が大半であり、中国の生産基地を利用して、衣類、ジュエリー、旅行用品・ハンドバック、時計などの輸出では世界をリードしている。このように香港は軽工業品を非常に得意としており、最初は小さな投資から事業を進めていくのがよいのではないか」という。

 また香港の製造業は軽工業が中心ではあるが、エレクトロニクスといったハイテク産業も重要な産業となっている。ハイテク産業の香港進出について、対香港製造業・サービス業進出に関する協力業務を行っている香港経済貿易代表部投資促進事務所関西地域コンサルタントの明石正夫氏は「香港ではハイテク産業支援のための各種インフラや諸制度が整備されている。労働賃金は決して安いとはいえないが、原材料を無税で輸入することもあり極めて安い。また、設備投資を行っても6割は初年度に減価償却として経費扱いされ、赤字になれば法人税を支払う必要がなく、速く設備投資を回収することができる。そして、電力についても24時間安定的に供給できる体制があり、オートメ工場の採算はとれる」と強調する。

 さらに古田所長は「これは製造業に限ったことではないが、香港の右に出るものがいない程世界中から様々な情報が非常に速く入ってくる。この特性をうまく活用しない手はない。また、税率が他国と比べて15〜16%と低く、余剰金を再投資に回すことができる。また規制が少なく企業としては活動しやすい環境となっている。」と付け加えた。

 香港の1人当たりGDPは25,155ドル(96年推計)と世界でも非常にパフォーマンスの優れた地域である。また、GDPの2倍強もの貿易額があり、その貿易額は世界でもEU、アメリカ、日本に次ぐものとなっている。香港港のコンテナターミナルの取扱高をみると、96年で1,340万TEUと世界第1位の取扱高を誇っている。啓徳空港は現在でも世界第2位の航空荷物取扱量と世界第4位の旅客数を誇っているが、ランタオ島に新空港建設工事が着々と進んでおり、2010年には航空荷物取扱量で7倍(900万トン)、旅客数で3.5倍(8,700万人)になるという。

 このような状況をみると、中国返還後の香港は、中国にとっても世界にとっても、もちろん日本にとっても非常に重要な役割を持ち、その役割は益々大きくなっていくであろう。

 

<問い合わせ先>

香港貿易発展局大阪事務所
  大阪市北区梅田1丁目1番3
Tel:06-344-5211 Fax:06-347-0791

香港経済貿易代表部投資促進事務所(大阪)
  大阪市中央区備後町2丁目1番8号(備後町野村ビル4階ジェトロ内)
Tel:06-232-0461 Fax:06-232-0784

財団法人岐阜県中小企業振興公社 下請振興課 海外交流対策室
  岐阜市薮田南5丁目14番53号 岐阜県県民ふれあい会館10階
Tel:058-277-1092 Fax:058-277-1095

 

<出典>

「香港ビジネスガイドブック」香港貿易発展局(92年)
「香港経済指標など各種データ資料」香港貿易発展局(96年)
「香港経済の現状についての基礎資料」香港日本人商工会議所(95年12月8日)
「欧米・香港新たな潮流」岐阜新聞社(96年6月8日)
「KRIリポート'97-1」 共立総合研究所

 

<参考> 県内企業の香港への進出状況

企業名 拠点所在地 業態 事 業 概 要
荒井(株) 香港 工場 香港の現地法人が中国深で縫製工場建設(100%)
(株)イノアックコーポレーション 香港 事務所 コンピュータソフトウェアの開発・販売
ウインディックス(株) 九龍尖沙 事務所 対商社営業と輸出入事務
(株)大垣共立銀行 香港 支店 銀行業務
(株)ガゼール 九龍 販売 カジュアルウェアの販売
清川(株) 九龍 支店 服飾資材の輸出、販売
(株)十六銀行 香港 金融 有価証券の引受・売買、預金・融資・資金取引外国為替
香港 支店 預金・融資・外国為替
西濃運輸(株) 九龍 事務所 現地での営業渉外
濃飛倉庫運輸(株) 香港 その他 船積・陸場業務、倉庫・運輸業務
(株)デミ松井   販売 上海新黄時装への受注販売
東海サーモ(株) TSUEN WAN NT HONG KONG 工場 接着芯地の製造販売
松久(株)   販売 表生地、裏地、アクセサリーの販売
三星刃物(株) 香港 工場
販売
市場開拓(東南アジア諸国)
(株)ミマスアミ 香港 販売 中国深 市の三益製衣 と加工委託契約を結び製造製品を引取販売
(株)宮嶋 香港 工場 洋傘の委託生産
森松工業(株) 中環永楽街 販売 製缶類及び化学プラントにおける輸出入
(株)ヤクセル   販売
その他
洋食器、厨房用品の輸出入及び情報収集
吉岡(株) 香港 販売  

出典:岐阜県「岐阜県海外取引実態調査報告書(平成6年3月)