ディスカッション
「ベンチャーで成功する秘訣とは」


コーディネーター パネリスト

山内英二郎

(株)ヘッドクォーター社長

百瀬武文

ワイエイシイ(株)社長

川合 歩

イーディーコントライブ(株)社長


山内  まず最初に、両社ともに商品コンセプトを作り、現実と商品コンセプトのギャップを埋めながら開発をされていますが、問題提起の仕方とそれを解決するアイデアのプロセスはどうですか。
百瀬  お客さんのニーズを吸収し、それを基に商売を展開していく必要があります。こちらで勝手に判断してモノを作っても、売れないことははっきりしています。お客さんに「こういうものをつくってくれ」といわれて「はい。分かりました」では能がありません。条件やプロセス等の変更も予想しながら開発テーマを取りまとめ、お客さんとさらに深い討論をしながら、結果的にはお客さんと共同開発をするのです。
 例えば、普通の生産設備の場合、億単位に近いような値段になりますから、失敗したら大変な損害になります。だから場合によっては、お客さんからお金を一部出していただくのです。これは、お客さんがお金を出していれば、なんとしても成功させなければいけなくなり、成功の確率も高くなるのです。
 ですから、お客さんの出されたニーズに対してただ聞いているだけではなく、会社の技術的な内容を付加してお客さんと共同開発することが絶対条件だと判断しております。
川合  当社は受託型の仕事でオペレーションしているので、マーケットリサーチがしにくいテーマが多いのです。新規性の高いものほどそうなのです。では、なぜ新規性の高いものを手掛けるようになったのかといいますと、一番最初はやはり素朴な疑問からです。疑問というよりモヤモヤです。「なんかおかしいな。」とか「こんなの本当じゃないよな。」とか、自分の中で何となく感じることがあって、問題整理ができた時、解決のアイデアが出てきたりします。
山内  次にご自身の企業で人を採用される時のポイントは何ですか。
百瀬  第一条件としては、積極性、つまりガムシャラタイプの人を考えています。バイタリティーで物事を征服するという感じを大切にしています。
川合  当社はプロジェクトごとにプロジェクトリーダーが採用しています。具体的な目的が発生して、このようにやろう、ああいうことをやろうというのが各プロジェクトの中で出た時、それができる人が不足していたら個別に声をかけます。また、他のプロジェクトに所属している人を新しいプロジェクトの人が借りるというケースもあります。これは、組織中心にものを考えていない仕組みだからです。当社では目的を設定し、それを実現するための手段として、その都度、組織を編成しているというやり方を採っていますので、採用という概念はなく、会社としては、場の提供しか行いません。
山内  舞台のプロデューサーと似ていますね。それでは、やる気のある人を選ぶというのも重要ですが、社内でいかにやる気を出させるかという仕組みも重要になってくるのではないでしょうか。この点いかがですか。
川合  やる気を出させるという発想は持っていません。やりたい人が自由にやれるという環境だけ提供しています。個人に委ねているのです。自分の思いをしっかり持っていて、自分で動き出した人というのは強いのです。強いというか純粋なのです。自分もそうしてきましたので、それしかできないというか、教えることなんてできないのです。
山内  そうですね。松下幸之助も「うちは一生懸命働く人が必要なんだ。」とおっしゃっていましたが、創業で成功している会社に行きますと、社員の皆さんはとても明るく、普通の会社よりも、2倍、4倍くらい働いているのです。私も創業時の人材派遣会社「パソナ」にいましたが、その会社では社員が生き生きとしており、26歳くらいの女性が朝の7時から夜の12時まで働いていました。彼女たちは生き生きしていました。これがほんとに人間を活かすやり方なんだなと思っています。

 

未来に賭けても無駄にはならない
山内  それでは、川合さんにもう一度お聞きしますが、社内で採っている加点主義についてお話していただけますか。
川合  そもそも当社が評価査定を止めた理由ですが、ある人を査定しようとした場合、その人の過去に遡り、前回評価した時の基準に戻ってどう変化したかを見ます。これは、毎年、毎年やっていましたが、辛くて辛くて仕方がなかった。絶対、納得のいく評価は最終的に出ず、結局は年功序列型になってしまうのです。だったら、評価なんて止めてしまえばいいじゃないかというところから始まったのです。これも、悩んでモヤモヤしたところから結論を出したのです。現在から過去を見るとこういうことになってしまいますが、未来を見ると、「未来にこういうことをやりたい。」とか「こういうことをしたい。」ということに賭けてみることはいいことじゃないか思ったのです。「私は、今までこれだけの仕事しかできなかったけれど、これだけのことをやりたい。だから、これだけの給料を下さい。」といってくる人には、その人に賭けても無駄にはならないのでしょうか。実際、いうだけいっておいて、結局やらないという詐欺のような人はそんなにいないのです。

 

ベンチャービジネスは失敗を恐れずに
山内  それで、成功すればいいのですが、失敗した場合にはどうされるのですか。
川合  プロジェクトを立ち上げた人がいて、その人がやろうとしていることを役員会が知らないとはいえません。役員会は、その人が将来出そうとしている成果に対して期待しています。役員会も支援できることは支援して、だめだった場合には、自分がやっても同じだったわけですので、その人をとがめる理由等ないのです。普通の会社ですと、トップがある程度了解していても、失敗したら下の人が責任をとるのが一般的ですが、ベンチャービジネスの会社では、トップが了解すればドンドンやって、失敗してもそれは仕方がない。またドンドンやれというようなやり方を採っています。

 

社長の情熱と夢が必要
山内 事業を起こす場合、人材というものが非常に重要なポイントになってくるわけですが、これについて百瀬さんいかがですか。
百瀬  私にとって人材というものは、非常に大きなウエイトを占めています。特に、スタートしたのが昭和48年ですから、人材募集が非常に大変な時だったのです。なかなか人が集まらないが、人がどうしても必要だったのです。私はやる気のある人を集めようと努力しましたし、基本的にはそう思っていました。しかし、いつまで待っていてもそのような人がこないため、適当な人を採用しました。
 このような採用が難しい中で、どういうことをしたかといいますと、やはりやる気のない人にやる気を持たせるということです。そのために必要なのは、
社長の情熱と夢です。何が何でもやり抜くんだ、頑張るんだという情熱が社員を引っ張り、そして、夢が社員のやる気を生み出すのです。当時は、やる気や能力のない人をかき集めたわけですから、さほど能力のなかった人も能力をつけて、ワイエイシイの発展に努力したと思っています。従って、会社というのはしっかりと目標を掲げ、夢を持ち、社員にそれを徹底させておくことが重要なのです。

 

経営者として重要な任務とは…
山内  では、事業を起こした場合うまく行けばいいのですが、事業を撤退しなければならない時、それはどこで見極めるのでしょうか。
川合  経営者として一番難しいのは、やはり引き時、見切る時だと思います。今、プロジェクトをいろいろ立ち上げて、オペレーションが始まっているのですが、結構早く答えが出たりします。最初にプロジェクトを認定する時、最終的に1億円かかりますというテーマをあげてくる人がいます。しかし、いきなり1億円を投資するかしないかということになりますと、答えはNOになってしまいます。やってもいないうちに1億円を投資することはできません。そのために、小さくリスクを負って検証していく方法があります。何段階かに区切って、その状況ごとに判断していくのです。当社で行っているPD制度(社内自己実現システム)の上では、第一段階がクリアできたら第二段階に、第二段階がクリアできたら第三段階に行く、というような区切り方をしているのです。例えば第一段階がクリアできなかったプロジェクトリーダーは、大概そこを何となく通過させても、第二段階にはいけなかったりするのです。
 ある程度は、どの時期にどういう成果を出すという計画の達成状況において判断するしかないかと思います。しかし、結局は無駄になっていなかったり、時間軸がずれているだけの時もあります。5年後だったら、それは素晴らしいものになるかも知れない。それを寝かすのか、捨てるのか、止めるのかという処理も難しいのです。
百瀬  いかに見切りを判断するかということは、社長の重要な任務の一つです。基本的には、市場の動向を一番大きなポイントとして判断しております。明快な回答はできませんが、開発しているものに対して市場の状況がどういう状況にあるのか、市場があるとすればモノになるのではないか、あるいは技術的に自社で無理ならばそのまま別の会社に買ってもらうとか、共同開発させてもらう等いろいろと手を打って、最終的に結論を下すというようにしております。非常に難しいことですが、社長にとって重要な判断だと思っています。

 

創造性を高めるには…
山内  最近、いかに社員の創造性を発揮させるかがよくいわれていますが、創造性が発揮するための教育をどのようにして社内で進めて行ったらよいですか。
百瀬  創業以来の一つの理念ですが、会社がチャレンジするということに非常に大きなウエイトを置いてきました。だからワイエイシイそのものに既にそのような風土があると思っています。このことは今すぐできるというわけではありません。長い歴史の中でワイエイシイという会社が生き延びていくには、チャレンジするということが基本にあります。そのため、改めて「創造性を発揮するためにこういう勉強をしなさい。」ということはなく、お客さんから仕事をいただいたり、あるいは自分で仕事を探すという中で、市場に受け入れていただくにはどうしたらいいのか、また値段的にコストを下げるにはどうしたらいいのか等というテーマは必ずでてくるのです。その中で、「こうすれば安くなる。」「こうすればお客さんのニーズにあっているものになる。」というところが創造性だと思うのです。ですから、目的を明確に打ち出した中で、それぞれが目的に向かって、自分の頭を絞り、いろいろな人の話を聞き、自分なりに勉強して、結果的として創造性のあるものができあがるのです。それがワイエイシイの風土だと思います。
川合  当たり前とか常識とかで片付けてしまい、一つの固定観念の形成があるから、新しいことが生まれてこない。だから、当社にきてくれる技術者も、できない理由を探すことがものすごく上手いのです。なぜできない理由ばかり探すのかなと不思議に思っていましたが、やはり癖がでてしまうのです。特にコンピュータ用語が顕著な例ですが、アメリカの技術トランスファーばかりやり、結果として考えようとしていないのです。知識の吸収だけが自分の能力の向上につながると考えてしまい、変な悪癖がついてしまっているのです。この10年間、日本から新しい技術というのは何も生まれていません。コンセプターが生まれていないのです。これは大変な事態です。
山内  新規事業等をやる場合、だめな理由を見つけることはたやすいのです。やはり、創業の場合にはできるだけフリーディスカッションという時間をとり、自由に発言させる。「パソナ」で実際にやっていたのは、フリーディスカッションを行い、自分でできなくてもいいからただアイデアだけをドンドン発言する。そして、それをフォローして、他の人がアイデアをのせていくというようなやり方です。これから日本でも、創造開発をするような人々をドンドン教育していかなければいけない、そういう時期だと考えています。