「日本の真ん中に新しい産業を」
〜ネットワーク産業の育成方策〜

財団法人岐阜県産業経済研究センター
研究部 主任研究員 新田啓之


 

1.はじめに

 岐阜県の特徴を語るときによく使われる言葉として「日本のまん真ん中」がある。古くは、”美濃を制するものは日本を制する”とまでいわれた岐阜。今、新しい岐阜の可能性をこの「日本のまん真ん中」という言葉の中に求めてみたい、そんな想いがこの研究を始めるきっかけとなった。
 製造業を中心とする岐阜県の産業は今、構造不況、輸入品との競合、海外進出に伴う空洞化など厳しい局面を迎えており、既存産業の活性化はもとより明日の岐阜県をリードする新しい産業の育成が求められている。一方、日本の中心に位置するという地の利に加えていわゆる高速三道と呼ばれる高速道路をはじめとする高速交通体系の整備が進められており、岐阜県は新しい発展の時代を迎えようとしている。
 (財)岐阜県産業経済研究センターでは、岐阜県のこのような特性、地の利を活かした産業の振興策を検討するため、朝日大学の忍田和良教授のアドバイスのもと調査研究事業「ネットワーク産業の育成方策」を実施している。本レポートでは平成7年度に中間報告書としてまとめられた結果をもとに「ネットワーク産業」のイメージを提案したい。

 

2.本研究の狙い

 本研究の狙いは、今後整備が進む高速交通体系や「日本のまん真ん中」という地の利を活かし、新たな産業の育成、既存産業の活性化に結びつけようとするものである。ネットワーク産業としては様々なものが考えられるが、特に交通や地理的条件を活かすという観点から、流通・物流に関連する産業を中心として検討を進める。また、本調査は新しい産業の育成を中心に議論するものであり、早期の事業化を目的として検討するものではない。従って、基本的にはイメージ、アイデアを提案し、行政、産業界の議論の材料を提供するというスタンスで調査を進めている。

 

3.岐阜県の特性

(1)交通面、産業面等からみた岐阜県の特徴

  1.  県西南部を中心に自動倉庫や情報管理システムを有した配送センター、物流センターが新たに整備されている。一方、工場立地は減少傾向にある。
  2.  県の産業は、製造業に特化した業種構成となっており”ものづくり”の中心的な地域となっている。このため様々な原材料、部品、製品が集散する地域と言える。製造業の中では、アパレル、刃物、陶磁器などの生活関連の地場産業の集積が高い。
  3.  県内の卸売業は零細企業が多く、一人あたりの販売額は全国平均の1/3程度と生産性は高くない。また、小売業は商店数の減少、特に中小規模の商店の減少が見られる。
  4.  現在、県南部を名神、中央高速道路が通っており、21世紀初頭には東海道北陸自動車道、東海環状自動車道、中部縦貫自動車道の新高速三道が整備され、北陸方面への利便性が高まるものと見られる。

(2)物流・流通関連の企業へのヒアリング等から見た岐阜県の立地特性

  1.  岐阜県は日本の中心という点では評価するが、他の中部の地域(静岡県や小牧市など)と比較して必ずしも優位に立っているわけではない。
  2.  また、全国的な展開を行なっている企業では既存の施設との関係で物流拠点等を考えるため、例えば、全国を2つの拠点でカバーする場合、関東と関西に置き、中部は省かれる可能性が高い。日本の真ん中であることはメリットであると同時に中抜きになる危険性も秘めている。
  3.  この他、メリットとしては東海北陸自動車道の開通を、また、デメリットとしては「港湾がない」「埋め立てによる新たな土地の供給ができない」などの内陸県特有の問題や海外とのアクセスが弱い(海・空とも)などの点が指摘された。

 

4.ネットワーク産業のイメージ

 ネットワーク産業の方向性を、新産業の育成、既存産業の活性化、物流拠点の整備、新たな物流ネットワークの構築の4点から、以下の10のイメージとして、提案する。なお、それぞれのイメージは各々独立したものではなく、相互に関連があり、また、状況によっては複合的な形となることも考えられる。

 

(1)GGネット(ギフトぎふ・岐阜県版通販システム)
<狙い、背景>
 岐阜県には、生活関連の商品はすべて揃うといわれるほど、地場産業が発達しており、飛騨牛、地鶏、日本酒、鮎など名産品も数多い。また、日本の中心地という地理的特性、宅急便等を扱う物流業者の集積など通信販売の拠点としてのポテンシャルは高い。このため、地場産品等を単品として販売するだけでなく組み合わせることにより魅力、付加価値を高め、地の利を活かした新たな産業として贈答品を中心とした岐阜県版通販システムを提案する。
<イメージ>
 地場産業を中心にして生活関連産品(農林水産品、食料品、アパレル、陶磁器、金物等)の魅力的な組み合わせ、パッケージングを提案し、それらをギフト商品として宅配便により全国の家庭に直接配送する。通常のカタログ販売の他、インターネット等により顧客からのオリジナルなオーダーにも対応していく。顧客と岐阜県の地場産業をネットワークし、同時に地場産業の有機的な組み合わせ(コーディネート)による高付加価値化(地場産業のネットワーク化)を図る。(図-1)

図-1 GGネット(ギフトぎふ)のイメージ

 

(2)大都市向け生活提案型企業同盟(オーダーメイド型ギルド)
<狙い、背景>
 岐阜県には伝統的な技術を有する産業(家具、和紙等)、ファッション性の高い産業(アパレル等)、先端的な技術を有する企業(金属製品、機械器具)などを中心として、顧客の様々なニーズ応えることのできる技術、技能を持った企業も多い。また名古屋や関西地区の大都市には地理的にも近い。このため、岐阜県の地場産業や機械工業の高い技術集積を活かし、大都市住民等のニーズに即応できる好感度な産業ネットワークの形成を目指す。
<イメージ>
 名古屋、京都、大阪等の大都市にショールーム・工房を置き、アンテナショップとして消費者のニーズの収集、簡単な注文加工・修理等への対応、製品PRなどを行う。また、素材・部品・製品の配送網を岐阜県内の産地とショールーム・工房との間に構築し、ハイビジョン等の高度情報ネットワークで結ぶ。県内では、それらの品物を集散させる物流拠点や営業拠点、情報拠点等の機能を持ったセンターを整備し、県内の産地・企業との連携を図る。

 

(3)物流代行商社
<狙い、背景>
 岐阜県はものづくりの盛んな地域であり、様々な原材料、部品、製品の集散地といえる。県内の物流のノウハウや人材の少ない中小企業を中心として、仕分け・包装・配送などの業務を代行するサービス育成し、製造業を中心とした中小企業の効率的な物流業務の実現、企画・開発、生産、販売等への人材などの資源の重点的な配置を支援する。
<イメージ>
 サービスの対象としては製造業の物流部門などの一般的な物流分野から冷凍倉庫内の作業やチルド食品の輸送といった低温物流のオペレーション、コンベンション等での美術品輸入など専門的な物流業務まで様々なものが考えられる。製造業などの代行業務においては、複数の中小企業(例えは工業団地に入居している企業)が一括して外注すれば規模のメリットを追求できる。事業主体としては、県内の運送業者、先進的な物流システムを構築している企業の物流部門の進出などが考えられる。

 

(4)デュアル・ボランタリー・ネットワーク(中小・卸小売業の連合体)
<狙い、背景>
 岐阜県の卸売業の大半は小規模であり、単独では効率的で高度な要求に応えられるための物流サービス、品揃えの強化、情報武装、小売業へのサポート力の強化などを行うことは困難である。また、小売業は大規模なショッピングセンターやカテゴリーキラーに押されて商店数の減少を招いている。このため、地元資本を中心とした卸・小売りの連携を強めた組織をつくり(県内流通企業のネットワーク化)、競争力を強める。
<イメージ>
 比較的利害の一致する異業種の卸売業者を中心として水平的な連合体を作り、品揃えのフルライン化、物流機能の強化などにより競争力の強化を図る。同時に、小売業も横の組織化を図り、両者の連携による新しいボランタリー・ネットワークを形成する。具体的には、物流機能の共同化をベースとした企業の連合体を作り、卸・小売業の共同による配送センターの構築・運営から始まり、全体的な購入・販売計画の作成、プライベート・ブランドの育成、地域密着型の営業展開などを行なう。

 

(5)SA型キャッシュ&キャリーセンター(高速道路付帯型卸センター)
<狙い、背景>
 日本の中心に位置する岐阜県は、全国からのアクセス・集客性に優れており、今後の高速道路の整備によりその能力はさらに増大する。一方、県内の卸売業は規模が小さく、大手のような充実した物流サービスを提供することは困難である。このため、地の利、交通の便を活かした県内卸売業の新たな展開方向の一つとして、配送を行わない持ち帰り型の卸売りセンターを高速道路の整備と一体的に行う。
<イメージ>
 高速道路内のインターチェンジを降りないでそのままアクセス出来る(スーパーサービスエリア型)卸売センターを整備する。対象としては自社の物流ネットワークを持たない物流機能の弱い中小卸売業(例えば中小のアパレル問屋など)や食料品などが考えられる。持ち帰りにより配送コストを押さえ、比較的低価格の商品を提供するという形態となる。候補地としては、高速道路のジャンクションとなる地域などが考えられる。(図-2)

図-2 SA型のキャッシュ&キャリー・センターのイメージ

 

(6)海外進出企業支援ネットワーク(輸出入拠点)
<狙い、背景>
 県内の製造業もアパレルを中心としてアジアなどに海外展開を行っている企業が多く、国際的な物流が重要となってきている。このため、アジアを中心とした海外拠点と岐阜を結び、日本の真ん中としてメリットを活かして国際的なネットワークと国内ネットワークの結合を図る。
<イメージ>
 インランドデポ等を等を中心とした輸出入支援機能の充実、内外ネットワークの形成(名古屋港・伏木富山港・名古屋空港(中部国際空港)とのアクセス強化。高規格幹線道路の整備等)、輸出入関連産業(代行業、商社等)の産業の集積を図り、海外進出企業の物流センターの誘致と併せて、輸出入拠点を整備する。また、海外企業も含めた加工・展示・販売機能を付加し内陸型の総合保税地域(FAZ)として整備していくことも考えられる。

 

(7)外資系企業支援ネットワーク(外資系企業の物流拠点・生産開始拠点)
<狙い・背景>
 既に販売委託やOEMにより日本に製品を供給している外資系企業が本格的に日本に進出することが、今後予想される。これらの企業は少数の物流拠点により全国をカバーする必要があり、日本の中心で、交通の便の良い岐阜県はメリット・魅力が大きいものと考えられる。このため、日本国内での生産・販売を本格的に開始しようとしている外資系企業をターゲットとして誘致を図り、岐阜を日本進出の拠点、スタートアップセンターとして位置づけ、それらをサポートする産業の育成を図る。
<イメージ>
 外資系を中心とした企業のための工業団地を整備し、それらの企業の生産+配送拠点として、インランドデポを核とした国際的な生産・流通拠点を形成する。(例えば外資系自動車企業の輸入基地である豊橋に対して生産・物流拠点の岐阜)。また、海外進出企業支援ネットワークの場合と合わせて外資系企業の生産や物流を支援する関連産業や情報通信網の整備を図る。(図-3)

図-3海外進出企業支援・外資系企業支援ネットワークのイメージ

 

(8)静脈物流ネットワーク
<狙い・背景>
 岐阜県にはプラスチック、ガラス、亜鉛、紙などのリサイクルに関する高い技術力を持つ企業も多く、また、日本の中心に位置することから全国的なリサイクルネットワークを形成するには適した地域といえる。このため、岐阜県を中心とした静脈物流ネットワークを形成し、リサイクル産業の育成・振興を図る。
<イメージ>
 全国の中心としての位置を活かして、再生資源の回収物流の拠点、再生品の販売・配送拠点として岐阜を整備し、県内企業の高度な技術集積により再生を行う。また、他のネットワーク産業と組み合わせて回収と再生品の配送ルートの形成を行う。この他、各拠点にリサイクルのための回収施設・再生施設を付加し、環境面での付加価値をつける。

 

(9)ネットワーク・アジャスト・コア
<狙い・背景>
 岐阜県は日本の中心に位置し、トラック等の路線が集中する日本の一大物流軸上にある。このような特性は、東西の物流・流通業を結びつけるのに有利であり、日本各地のネットワークをネットワーク化する拠点(コア)として岐阜が期待できる。このため、全国のローカルなネットワーク(磁場の運送業者等)をコーディネートできる企業の育成を図る。
<イメージ>
 関東の企業が岐阜のコアを介して西日本においても物流ネットワークを保有しているかのごとく、配送等を行うことができる、いわばバーチャルなネットワークを構築する。エリアの異なる地域に密着した企業を提携させることにより、全国的に展開している企業にはないきめの細かい特色のある事業を行う。岐阜のコアでは、提携先の紹介、情報収集・管理、配送条件やロットの調整、伝票類の発行、積み荷の交換などを行う。また、トレーラーの切り離し・結合を行うドッキングヤードやトラック、鉄道コンテナ、航空・海上コンテナのスムーズな積み替え拠点としての機能も考える。

 

(10)複合低温物流ネットワーク

<狙い・背景>
 今後は、製造物責任法(PL法)の影響や鮮度・安全性への意識の高まりにより、輸送時における温度管理の必要性は高まっていくものと考えられる。一方、岐阜県は関東、関西、中部、北陸に近く、様々な食文化の交錯する地域でもある。このため、岐阜を中心として食料品を中心とした低温物流ネットワークを構築する。
<イメージ>
 関東・関西・中部・北陸の低温物流の基地として岐阜を位置づけ、岐阜を中心とした全国的な低温物流ネットワークを構築する。生産者から販売店・消費者まで一貫して温度帯別の管理ができるネットワークにより、鮮度の高い、品質の良い食品等を輸送できるサービスを提供する。岐阜の拠点では積み荷の交換、仕分け、出荷調整を行う。例えば、北陸からの魚介類を東京、大阪、名古屋と別々の便で発送するのではなく、一括して岐阜のセンターへ運び、それぞれの地区での需要動向を見ながら東京、大阪、名古屋へと仕分け配送する。また、東西の文化の間(はざま)として東京の”納豆”を大阪へ、京都の”ごま豆腐”を東京へ出荷するなど、食文化のクロスロードとして、それぞれの地域にはない魅力ある商品を提供できるだけでなく、中間の岐阜ではこれらの荷物を交換することにより帰り荷の確保なども行うことが出来る。基本的には、生鮮食品、冷凍食品等が中心となるが、ノウハウの蓄積に伴い化粧品や医薬品、一部種苗などへの展開も考えられる。

 

5.おわりに

 本レポートで紹介した岐阜県におけるネットワーク産業のイメージはネットワーク産業の可能性を探る意味での提案であり、今後は、実現に向けてのシナリオづくり、行政の支援策の検討などを行い、最終的な提言としてまとめていく予定である。基本的には、ネットワーク産業を担うのは各企業の方々であり、このレポートで書かれた10個のイメージを読まれて何かを感じ、新たな展開のヒントとなることが出来れば幸いである。最後に21世紀に向けてこのネットワーク産業が岐阜県をリードする産業の一つとして大きく育っていくことを祈って筆を置きたい。