機能・実用・耐久に
切れ味を追求する
ガーバー・サカイの「ナイフ」論
マナ板の鯉
坂井 進
ガーバー・サカイ株式会社代表取締役
料理人
藤掛庄市
岐阜大学教育学部教授

 

 「岐阜を考える」のこの欄は、さまざまな分野で活躍されていらっしゃる方に登場していただき、社業繁栄の一助になればということで設けています。今回は、ポケットナイフ製造で世界中から高い評価を受けているガーバー・サカイの坂井社長がマナ板にのっていただき、それを料理する人は、岐阜大学の藤掛庄市教授です。

藤掛教授 坂井社長

 

人が手を加えたものには「文化」がある


藤掛  さきほど「ナイフ博物館」を見学させていただいて、ポケットナイフからサバイバルナイフまで実に多くの世界中のナイフが展示してあり驚きました。ナイフもさることながら、世界にナイフ専門雑誌が多く存在することも知りました。人間が手を加えたものには必ず文化がある。ナイフにも当然、文化がある。坂井社長は刃物をいかにカルチベイト(cultivate 習慣などを養う)されているのか。そんなところからお聴きしたいのですが。
坂井  ナイフ文化というものは使う人と作る人が育ててきたと思いますね。しかし、ナイフはデザインがよくても切れなかったらなにもならない。現在はただ切れるだけでなく機能性、実用性、耐久性に優れたものこそ一流品であり、例えば、アメリカのアル・マーナイフは継続的に売れていますね。デザイン、機能、実用、耐久というすべてに優れているからなんです。今日、多彩なナイフが出現していますが、創意工夫がなされ、改良が重ねられた結果であり、そのプロセスに文化があると思いますね。
藤掛  昔はね、ナイフを使うカルチャーはなかった。ナイフと刃は別のコトバだったし1950年にフォークが出てきて、ナイフで切りフォークで食べるようになった。それまではナイフでモノを切りナイフに突き刺し食べたんですからね。現在は魚や肉用のナイフがあればパンを切るためのものなど用途によって実に多彩なナイフがありますね。それぞれに私は文化があると思うんです。日本の場合は刀の延長線上に刃物があるという感じですが。
坂井  日本の場合は廃刀令(士族などの帯刀を禁じた太政官布告。明治9年公布)の後、刀をつくっていた人は刃物に転じ、やがてナイフ、ポケットナイフに代わっていった。
藤掛  ナイフに対する考え方は日本と外国では相当な違いがありますよね。

 

日本と欧米とは「ナイフ文化」に違いがある


坂井  アラスカに行って関心したことがあるんです。あるところを尋ねると、1本100万円もするナイフを宝のようにして持っているわけです。あちらはクマが出没するのは日常茶飯事。自分の命は100万や200万に替えられないというんです。日本にも野生動物がいっぱいいるけれど、日本のアウトドアナイフとは訳が違う(笑い)。
藤掛  欧米なら欧米の伝統で使いやすいデザインのアウトドアナイフをそのまま日本へ持ってきても売れるとは限らないですね。欧米ではアウトドア→狩猟というカルチャーがあって、合わせてデザインしたナイフが生まれていますね。アウトドア指向が強い欧米では、まるで洋食器をつかうようにキャンピングナイフの使い方を教える。サバイバルナイフだってそうです。親が子に教えたりする。当然、日本とはナイフに対する価値観が違ってきます。
坂井  この前60歳近い夫婦連れがお見えになって、子供のナイフがほしいと。子供さんは大学生ということで、何に使うのですかとお聞きしましたところ、ただ持っていたいだけだと。使うんじゃなくて、一種のアクセサリー代わりなんですよ。四駆車と同じで友人も持っているから私も欲しいというように。
藤掛  まあ鑑賞用ということでしょうけれど、アウトドア人口の増加とともに、ナイフを使う人が増えているのも事実でしょう。
坂井  木の枝を切ったり、魚をしめたり、ナイフを考えて使うようにはなっていますね。でも、まだまだナイフに対する知識は乏しくて、そういったナイフ知識の普及も私たちの仕事と思っていますね。
藤掛  何回も言いますが、ナイフは食器の延長にあるという欧米と、刀から始まったという日本とでは、伝統もカルチャーも違う。しかし、欧米のナイフが日本のものより勝るとは限らないし、むしろ日本のナイフの方がいいと評価する人もいますよね。
坂井  ナイフ一本が完成するのに約200工程を経るわけです。そのほとんどが手作業でして、私たち製造メーカーからすれば、その一本は子供を産むような気持ちなんです。切れ味をみれば日本の方が勝っていると思いますね。それはやはり伝統に培われた刀剣づくりにかける職人さんの技術が生かされているからだといえますし、欧米の人も「切れる」ナイフを求めています。その辺に私たちの生きる道があるのではないか、と思っていますね。
藤掛  和式と洋式が混在したナイフづくりということですか。
坂井  ええ、一つ例をいいますと、私どもではアウトドアライフを視野に入れた、様々なナイフも作っているわけです。キャンピング、フィッシングなどいろんなシチュエーションに利用できるナイフ、ハンティングナイフ、枝払いや薪割りにも使えるもの、アウトドア用の包丁などいっぱいありますね。全部に共通することは、先程も言いましたが、日本人独特の繊細な感覚を生かし、刀剣づくりのノウハウを吹き込んだ、切れ味に優れたものばかりと自負しています。


ナイフの普及に努めていきたい


藤掛  先程、アメリカなんかでも「切れる」ナイフが求められている、とおっしゃったけれど、切れちゃまずいのじゃないのですか。欧米の人たちは「ナイフは刃物ではない」という意識があり、切れることを目指しているとは思えない。そこがカルチャーだと思いますが・・・。ナイフは食器の延長線上にあるというカルチャーを壊すことにはなりませんか。
坂井  それは違うと思いますね。日本は農耕民族、あちらは狩猟民族という分け方をすれば、例えばハンティングやフィッシングをする場合、やはり切れて、耐久性に優れるナイフの方がいいわけです。切れることが、先生のおっしゃっているカルチャーを壊すことにはならないと思いますね。
藤掛  最後に坂井社長のところでは、「ナイフ博物館」、さらにはナイフ愛好者たちでオリジナルナイフを作る「中部コレクターズナイフクラブ」を結成され、ナイフを作る技術指導をされ、設備も提供されています。ボーイスカウトでナイフの使い方を教えていらっしゃるともお聞きしていますが、日本でのナイフの普及について何か考えていらっしゃることは。
坂井  目的によっていろんなナイフがあることを知ってほしいですね。それにカッターナイフが売れているわけですが、まあ、残念といえば残念ですね。それこそ、ナイフのカルチャーを壊していることにはなりませんか。マスメディアに携わる人たちに言わせていただきたいことは、カッターも包丁も「ナイフ」の範疇と考えている人がいることです。事件があって凶器が包丁なのにナイフと書かれたりしますと、がっかりしますね。ナイフに対する知識をもっと持ってもらいたいし、子供たちにもナイフの正しい使い方などを指導しながら、ナイフの普及に努めていきたいですね。

 

 一口データ

■ガーバー・サカイ株式会社
■本社 関市志津野2081
■設立 昭和53年5月
■資本金 1500万円
■企業プロフィール
 米国の高級ナイフメーカー、ガーバー社から技術力が認められ、社名使うことを許される。ポケットナイフ、アウトドアナイフなどを製造。高度な機能性と実用性を徹底的に追求し、携帯性にも優れた同社のナイフは、世界中で高い評価を受けている。