ブラックフォーマル
というオリジナルを生んだ
「イギン」の強さ
マナ板の鯉
井上銀一
イギン株式会社代表取締役
料理人
藤掛庄市
岐阜大学教育学部教授

 「岐阜を考える」のこの欄は、さまざまな分野で活躍されていらっしゃる方に登場していただき、社業繁栄の一助になればということで設けています。今回は、岐阜アパレルから全国ブランドに成長したイギンの井上銀一社長がマナ板にのっていただき、それを料理する人は、岐阜大学の藤掛庄市教授です。

藤掛教授 井上社長

葬儀時の婦人の着物姿がヒントに


藤掛  イギンといえば婦人フォーマルウェア、カジュアルウェア、ということですが。婦人フォーマルというと喪服だったんですよね。
井上  いまでも喪服だけですよ。
藤掛  それをあえてフォーマルウェアというんですね。
井上  そうですよ。
藤掛  結婚式では?
井上  カラーフォーマルともいうけど、少ないですね。日本の場合、男性は葬式と結婚式ではネクタイを変えるだけです。女性は違いますね。男は真っ黒だから、なんとかしないといけないとは思っていますよ。
藤掛  結婚式でもホテルに行くと、黒ばっかり。外国の人から見ると異様に見えるそうです。
井上  ご本人も着るからね。ファッション的なものを着れば別ですけどね。
藤掛  夏の暑い盛りに着物を着ているのをみて、婦人フォーマルを始めようと思われたんですね。
井上  葬儀の時、太った人が着物を着て汗を流しているのを見て、大変だろうと。なんとか楽にしてやることはできないだろうか、ということでね。男性の方は真っ黒だから、開発しようとしたこともありましたが、大手が構えているから、難しいんです。
藤掛  喪服に限らず、成人式、大学の卒業式などのセレモニーもフォーマルウェアになりますね。男だと、紺のスーツに冴えないネクタイ。女だと袴になってしまっています。カラーフォーマルだと、いろんなフォーマルウェアを含むと思うんですが。
井上  他もありますが、びびたるだけですね。本格的だと、お葬式の喪服というのも良くないし、式服だと格好悪いし。本当のところだと、式服なんでしょうが。
藤掛  4月になると入園式、入学式ですが、親が真っ黒を選びますね。
井上  単純に無難だからでしょうね。
藤掛  無難ななかでもいい物を提供したいと。もっとカラフルにしたいとは?
井上  カラフルにしたらいいというものでもないんです。意味が違いますね。一概にどうこうはいえないですが、これは日本独特のものです。欧米では黒いものばかりを着て、お葬式に行くかというとそうでもありません。結婚式も日本のような式をしないでしょう。アメリカあたりでは、グリーンのドレスを着たり、空色を着たりしますからね。
藤掛  州によって違いますね。
井上  キリスト教のなかでも違いがあります。
藤掛  ブラックフォーマルウェアで業績を伸ばされていますが?
井上  昔のお葬式を見てみると、喪主は白色の着物です。他の人は黒でした。今は喪主も黒になっていますが。お葬式も結婚式も白に服するという意味があったんですね。今は兄弟も親戚のお葬式も黒でよくなった。全く変わっていないということもありません。

 

喪服は日本独自のもの


藤掛  ファッションの歴史には、フォーマルというか喪服がありませんね。喪服はファッションという発想ではないんですね。
井上  日本独特のものです。フランスにもイタリアにもないです。
藤掛  喪服は緊急性だから、ファッション性とか似合う似合わないの関係はないといわれてきました。アメリカの劇作家ユージン・オニールのドラマ「喪服の似合うエレクトラ」があります。エレクトラが、喪服が似合うといわれたのは、彼女がずっと喪に服していたからですね。
井上  向こうでも喪に服する間は黒ですね。歴史を遡っていくと天皇陛下までいきます。山高帽に下駄をはいて。徳川時代、鎌倉時代までいきますね。
藤掛  天皇一家は神様だから。
井上  それは日本的な考えです。モーニングのいわれは、徳川時代が終わってから。天皇陛下は「世界に通ずる天皇陛下」になろうとして、議論された。明治天皇は国のために、何を着ていったらいいかと考え、国の儀式にモーニングを着られ、たすきを掛けられた。奥方は着物ではなく、白いドレスになったんですね。そこでみんながそれに倣らったんです。
 女は紺のセーラー服、男はスーツを着ています。なぜ僕が黒を取り上げたかというのは、簡単なものではありません。喪に服しているのが黒なら、日本も黒の着物に統一したらいいだろうと。
 何か社会に貢献できるもので、うちの会社の価値があがっていくと思っています。


いかに楽しく着せるかがテーマ


藤掛  種類としては?
井上  100種類以上ありますよ。
藤掛  年代層や服の好みを取り入れて、ファッション性を持たせたんですか?
井上  第一には、いかにして楽して着せるか、ファッション性を高めるかですね。
藤掛  そういうことですね。ファッションの歴史に取り上げられなかったというのは、世界的にファッションではなかったんですね。そういう点では、世界で最初になるわけですね。
井上  そうですね。
藤掛  似合うというのは例外的であって、考えていなかったんですね。イギンがファッション性を高めたことで、洋服文化として受けたんでしょう。
井上  そこまでいっていいかわからないですが、日本でここまで普及したことに対しては。
藤掛  私の覚えでは、あるときからお葬式は、おばあさんからすべて洋服になりましたよね。
井上  僕らの子供のときにはなかったですね。40何年一筋でやってきたうちの歴史だと思いますね。
藤掛  フォーマル文化は県によって違いはありますか?
井上  ありませんね。しかし、外国には、日本のお葬式も結婚式も通用しません。
藤掛  100種類ものデザインは時代にあったもの?
井上  新しいものと流行は違います。現金を持ってきても、誰にでも商品を売るわけではないんです。いい人だったら、お譲りしたいという考えですね。それに見合った近いお金で。譲渡したい、買いたいというものです。毎年春秋で200種類ものデザインを考えています。ヒット商品はどこでもあります。それをゴロッと変えて、前の商品を売らないということはないですね。
藤掛  東京で商売をするメリットは?
井上  世界に出ていくには、東京はいいですね。日本的に考える必要はないですね。世界にはいつか出ていかないといけないですから。いつかは1000億円企業になります。
藤掛  世界に出ていくときは、フォーマルウェアーだけですか。
井上  フォーマルだけでなく、いろんなことをやっているでしょう。そのためには、まず、いい学生をいっぱい採用するっていうことですね。早稲田、慶応大学の学生が欲しいですね。慶応大学なら、学部はどこでもいいです。
 東京でもイギンのやり方は異色ですね。イギンのやり方は、戦前戦後これからもないだろう、といわれています。
藤掛  一種のベンチャービジネスですね。
井上  イギンとしては誰が何をいおうと、自分たちの道を進んできました。40年たって、目指してきたものにやっと近づいてきましたね。ここまで苦しかったですが。

 

 一口データ

■イギン株式会社
■本社 岐阜市加納神明町2−8
■設立 昭和24年11月
■資本金 7億5450万円
■企業プロフィール
 「ブランドは企業のプライド」を理念に、ブラックフォーマルで全国三〇%のシェアを誇る婦人フォーマルウェアの最大手。取引先は百貨店、量販店。社内では、徹底した実力主義で人材を育成。