船井幸雄 (株)船井総合研究所会長

 

 今年の1月10日に私は63歳になりました。今までの人生は生かされるままにガムシャラに生き、全く計画的ではなく、すべて泥縄的といってよいくらいだっただけに、本当にいろんなことを無差別に知らされました。その中に「世の中でおこることは、必然、必要、ベストだ」という一つの信念化してしまったルールがあります。このルールにあてはめるとこの数年、食事時間や睡眠時間すら十分にとれないくらい忙しかったのも「必然、必要、ベスト」だったに違いないと思われます。

 この35年間私は同じ調子で飛び回っています。というより、むしろハードなスケジュールで動いています。休みは全くなく食事や寝る時間まで短縮している。それでも必要でやらなければならないことが残ってしまう。そんな毎日を送りながら、最近、自分の生き方について私なりに何度も反省し、肯定し、考えてみました。そしてこのような生き方は、今後のためには間違っているようだというのがまず気付いた事です。

 この連載も最終回を迎えます。今回は最近強く感じる事を交えながら、さらに私なりに、これからの企業にとって最も大切と思うことを述べてみます。

 

 1、私が本を書く理由

 最近、ある人から「船井さん、最近のあなたの本の出しかたを見ていると生き急いでいるように見えます。」と言われました。自分ではそんなつもりはまったくないのですが、そう思われるくらいに、私は時間がない中たえず原稿を書いています。よい機会ですので、何故私が今出版などを通して様々な情報を世の中に出したいのか、お話したいと思います。

 (1)12歳を越えた百匹目の猿

 今、「百匹目の猿」という本を書いています。たぶん3月の中頃にはサンマーク出版から出る予定です。以前にこの連載でも、これからの世の中を変えるポイントの一つは「百匹目の猿現象」である・・・と書きました。宮崎県の幸島という島の猿が餌付けをされるうちに海水でイモを洗いはじめ、それがある一定の割合に広がると、一気に日本中の猿がイモを海水で洗いはじめた・・・という話しです。このような例は猿に限らず多くの動物の中でも見られます。これは人や動物の心が見えない所でつながっているということを意味し、なによりも肝心なのは、良いと思うことを誰かが1日も早く始める事だということをお伝えしました

 実はこれにはおもしろい続きの話しがあるのです。みんながイモを洗う中、最後まで抵抗して洗って食べようとしなかった猿が数匹いたのです。それはどんな存在だったかというと、12歳以上の雄猿でした。人間でいうと、48歳以上の男という事になります。年をとった男で支配権をもった男のことです。世の中では新しい事は若い娘さんから始める事が多く、それから周辺に広がっていきます。そして最後に12歳以上の雄、つまり48歳以上の男性が残り、結局その猿が死んでしまうと群れ全体がイモを洗っているようになっているのです。まず、私は男というのはこのように哀れな存在であることを書きたかったのです。そして、そんな男の中にもたまに頭の柔らかい者がいて、多分私はそんな変わった男のひとりであると言ってもいいと思い、それなら男を代表して知っていることをお伝えしようと思ったわけです。

 もう一つの理由にはいつも言っているようにどうも、今のまま人類がモアアンドモアの追求、つまり物的追求をし続けると近い将来滅びてしまうという危機感があったからです。ですから、12歳以上の雄の代表として、私がコンサルタントという仕事を通して知ったことで若い人に知らせた方がいいことをできるだけお伝えしようと思い、最近書きすぎるほど書いているのです。

 (2)清富の思想

 2月に、編著書「清富の思想」を出版しました。この本は過去10年私がものすごく思想的に影響を受けた人を20数人ひっぱり出して一冊の本にまとめたものです。実はこの本を書こうと思った最も大きなきっかけは、松下幸之助さんの言葉でした。松下氏は生前、社員研修で幹部をこうしかったことがあるといいます。
 「松下では人物をつくっております。ついでに電気製品もつくっておりますと、なぜお客様にいえないのか。」・・・これは私が最も心をうたれた言葉のひとつです。こういう言葉を世の中にうまく知らせたいなと思って書いたのがこの「清富の思想」です。

 

 2、本物教育のすすめ

 (1)企業経営の目的とは

 私は企業経営の目的とはまちがいなく、まず「教育性の追求」、そして「社会性の追求」、最後に「収益性の追求」であると考えます。人として生まれてきた第一の目的は、人間性を引き出し、高めることです。これがつまり教育性の追求です。人間は理性を持ち、それとともに感情と肉体を持っています。これらを総動員して、教育性の追求=人間性を引き出し、高めることこそ正しい生き方といえるのです。具体的には、(1)自分に起こったことをまず肯定し、(2)感謝し、(3)考えて見ることから始まるようです。そしてこれが「教育」の原点のように思えます。

 (2)右脳・左脳同調が決め手

 それでは、具体的にこれからはどのように人間性を引き出し、高めていけばよいのでしょうか。

 人間の脳には右脳、左脳という2つの脳があります。このうち、考え方を言語で表現できるのは左脳、イメージで考えるのが右脳です。今までの教育では、左脳が不当に重視されすぎてきました。しかし最近の研究では左脳だけでなく、右脳と左脳の同調(ヘミシンク)が、大事であるとわかってきています。同調し、空(くう)になることで、直感力や想像力といった力が発揮されるのです。

 例えば、教育の現場でも、現代の左脳教育では物覚えが悪いと言われていた子が右脳教育をしてみたら、びっくりするほど記憶力が向上した例があります。私の会社、船井総合研究所では毎月「THE FUNAI」という雑誌を発行し、私がその時もっともみなさんにお伝えしたい情報を特集しています。この2月の特集は「本物教育」です。私が最も知っていただきたかった人というのは、右脳教育について書いていただいた七田眞さんです。「七田式教育法」という右脳教育法を研究し、「七田チャイルドアカデミー」という教室を展開し、実績をあげられています。これからの教育は右脳教育によって大きく改革されることと七田さんは主張されているのですが、私も同様に思います。

 みなさんに、このように21世紀に向かうであろう方向を知って欲しかった。ですから、著書を始め、「THE FUNAI」などを通して私が知っている情報をお伝えし続けているのです。

 

 3、将来に夢を持ち、いきいき前向きに生きるには

 (1)愉しみながら生きる

 私は、21世紀は愉しみの世紀で、物ではなく心で愉しみながら生きようと言ってきました。それには将来に夢を持ち、いきいき前向きに生きることが大切です。ではそのためにはどうすればいいのでしょうか。

 まず(1)過去をすべて肯定する。(2)今を前向きにいきいき生きる。(3)将来に夢を持つ。この3つが大切です。過去をすべて肯定するということは冒頭にも述べましたが、すべて「必要・必然・ベストである」ということです。それをふまえ、今を前向きにいきいき生きます。そしてさらに将来に夢を持つことができれば、人は幸せになれます。幸せな人は周りの人も幸せにできるのです。

 (2)将来に夢を持つには、過去を参考に未来から考える

 では次に、将来に夢を持つためにはどうすればいいのでしょうか。
 それには過去を参考に未来から考えることです。過去は正しく見ることができる時、われわれにいろいろなことを教えてくれます。岐阜県が今注目している古田織部の思想、オリベイズムというのもよい参考になると思います。そして過去を正しくつかみ、参考にすると同時に、これからは未来から考えなければならないようです。そのためにはまずポイント情報を知ることです。私は仕事を通して知った「本物」の情報をできるだけ皆さんにお伝えしてきました。そのような本物の情報を聞き、更には実際に見て、確認し、理解していただきたいのです。そして、その上で自分で取り入れられる物を取り入れてください。これらの情報は未来的なことです。未来から考えれば夢を持つことができるのです。

 去年、私が最も勇気付けられた人のひとりに、日本理化学研究所 所長の倉田大嗣さんがいます。彼は、世界で始めてごみのプラスティックを油にするプラントを開発しました。有限を無限にする・・・こんな技術がたくさん今、世の中に出てきているのです。(昨年岐阜県でも、この倉田さんのプラントを見学に行く視察ツアーを船井総合研究所のコーディネートでされたようです。興味のある方は産業経済研究センターまでお問い合わせください。)

 

 4、今、いちばん経営者にとって大切なこと

 最後に今、経営者にとっていちばん大切なことをまとめてみましょう。

  1. 論理的、体系的に今の自社のポジションを理解する。
  2. 運をつけ、業績を向上させる。
  3. 夢を持てる勉強をし、未来から考える。
  4. 教育に全力投球する。
  5. 以上の一〜四をふまえ自社の体質にあった実現可能な、すばらしい将来作りを計画し、実現を確信し、実行する。

 以上の5つです。

 おそらく21世紀は素晴らしいエヴァの時代が来ると私は信じています。それには、われわれの多くが、考え方を変えなければならない時にきています。その意味で、過去と未来から正しく学び、将来に夢を持ち、はっきりと未来への方針を持っていただけるようお願いし、ここにペンをおきます。