動植物の
メカニズムを研究し
商品化する楽しさ面白さ
マナ板の鯉
井上 錦一
汎陽科学株式会社代表取締役
料理人
藤掛庄市
岐阜大学教育学部教授
前田元武
岐阜放送取締役中部支社長

 

 「岐阜を考える」のこの欄はさまざまな分野で活躍していらしゃる方に登場していただき、社業繁栄の一助になればということで設けております。今回は「息吹農法」の発案者でもあり、土壌活性剤の開発で知られる汎陽科学の井上錦一社長がマナ板にのっていただき、それを料理する人は、岐阜大学の藤掛庄市教授と、岐阜放送の前田元武中部支社長です。

藤掛教授 前田支社長 井上社長

 

藤掛  汎陽科学ではバイオの分野で先端的なことをやっていらしゃるとお聞きしていますが。

ハイテク土壌活性剤の成果


井上  おかげさまで、「息吹農法」ということで全国の農家に広がりつつありますが、その元になっているのが、「息吹LD」という土壌活性剤なんです。この息吹LDは不思議な資材といわれているんです。LDの正体は触媒機能をもった酸素欠落型活性化磁性体で、鉄分を主成分とした磁気をを帯びた微粉体です。水には溶けにくい性質をもっていますが、ほんのわずかな量を土壌表面に散布するだけで、雨水や散水によって効果がでてくるわけです。
前田  酸素欠落型活性化磁性体とは難しい。分かりやすく説明していただけないですか。
井上  植物でいえば緑葉体。動物や私たち人間でいえば、赤血球の中に、光合成や呼吸作用をつかさどる活性物質が確認されていましてね。その物質は特殊な磁石化合物で構成されているらしく、それに倣ってつくったのが息吹なんです。
前田  その土壌活性剤は農業のどんな作物に使われているのですか。稲作は知っていますが。
井上  大きく分類すると、米、野菜、くだものですね。土壌活性剤を使用しての成果は、根張りのいい丈夫な作物ができること、肥料取りの旺盛な作物となること、天候の変化にたえる作物ができること、おいしい米や野菜、くだものができること、この4つです。生産者からすれば、収量が増える、秀品率が上がる、日持ちのいい作物ができる、生産者の手取り収入が増すことなどですね。いま、全国各地で息吹農法が広がっていまして、本当にうれしいことですね。
藤掛  井上さんらがやっていらっしゃる仕事はいわゆるバイオテクノロジーの分野ですよね。これは人間の在り方や、個人の生命、人類の生存について倫理的・生物学的な観点から総合的に考えていこうとする学問でね。正確にいわせていただくとバイオメテックスなんです。そのバイオメテックスの面白さはどこにあるのでしょう。
井上  人間はトンボになりたい、鳥になりたいと思って飛行機を考えついた。それと同じように、例えばホタルはなぜ熱を発せず光を発するのか。ミミズは土壌を本当にキメ細かに耕すし、おねしょに効いたり精力剤になったりいろいろいわれていますよね。そういったメカニズムを解明し商品化する、わたしの場合は農業に活かしたわけですが、いわゆる「原始的技術」を応用していく面白さでしょうね。
藤掛  井上さんがバイオメティックスとかかわりをもたれキッカケは何だったんですか。
井上  私はくだもの屋のせがれに生まれましてね。くだものなどを売っていて思ったことは、消費者の立場になれば、うまい米を求めたいし、安全な野菜を食べたい。じゃ、そういったものを作る側の仕事をやってみようと。そんなことがキッカケですよ。
前田  井上さんのやっていらしゃることは、いわゆる分析化学を越えた生命科学なんですよね。
井上  バイオテクノロジーの元祖はメンデルであり、ガーナやアラードなんですよ。みんな学者じゃない人が生命科学に大きな影響力を与えているわけです。私たちは、岐阜県で初めてバイオテクノロジーを応用し商品化したと自負していますが、これからもバイオのメカニズムを分析し、未開発の分野に挑戦していきたいと思っています。
藤掛  井上さんの仕事と私たちの仕事と比べて共通する部分はいっぱいありますね。私の場合は、人(学生)にどれだけ教えるか、人がどれだけ知らないか、に挑戦しているわけです。コーディネイトする目標が決まれば案外簡単に解決できると思っていますね。


人との出会い巡り合わせを糧にして


前田  確か井上さんは、脱サラでしたね。その前は水の関係の仕事をされていた。水の分野も面白いでしょうね。
井上  海水を紫外線利用の水処理製造のプロジェクトを手掛けさせていただきました。そこでの経験は今の仕事の糧になっていますが、もう一つ勉強させてもらったことがあるんです。現経済同友会会長の牛尾治朗さんから巡り合わせの大切さ、出会いの素晴らしさ、そして人脈づくりを教えていただきました。息吹LDの場合も、それを製造する製鉄会社の理解と協力がなかったら土壌活性剤は生まれていなかったし、息吹農法を実践してくれる農家がなかったら、ここまで普及していなかったと思いますね。まさしく牛尾会長の出会い、人脈の大切さを痛感しているところですね。
前田  水のことですが、一時ブームになった「π(パイ)ウォター」も研究されているんですよね。
井上  ええ、匂いが消える水ですよね。生物水ともいっていました。そのノウハウは私たちが研究したんです。商品化のところでつまずきましてね。(笑い)
藤掛  最後に井上さんが今後挑戦していきたいことを伺っておきましょう。
井上  バイオで全く新しいものをつくることは無理だと思うんです。先程もいいましたが、動植物の生命のメカニズムを探り、それをいかに商品化していけるか、これが私の永遠のテーマですね。とにかくアイディアだけは、いっぱいもっているんです。例えば鳥のトサカはヒヤルロンサンをいっぱい含んでいるんです。それをスープにして食品にしたメーカーもある。さらにこのトサカのメカニズムを分析して商品化することも面白いですね。動植物、例えばミミズもトサカも神様が作った生命体なんです。でも、そうしたメカニズムを追っていくと、不思議なことをいっぱい発見でき、思わぬ分野に応用できる、それを商品化できるかどうかなんですよね。とにかくバイオの分野は面白さとつらさが同居していますが、私にとって生涯やっていきたい仕事なんです。

 

 一口データ

■汎陽科学株式会社
■本社 岐阜市芥見野畑3−58−5
■設立/昭和59年10月
■資本金/2750万円
■設立目的
 バイオテクノロジー専門の会社として、岐阜県下初の法人。
 異業種交流を必要とするニューバイオ分野の開拓を目指す。      
■開発製品
<息吹農法>
・土壌改良剤(LD)
・エサ用(FX)
<BCSシリーズ>
・水溶性油剤用(OE型)
・循環水用(WT型)
・食用油用
<その他>
・右記に付随した製品および事業