巻 頭 論 文
 
女 性 企 業 家 創 出 の 条 件

 

江 上  節 子
(産能大学経営情報学部助教授)

 

新たなビジネス空間の担い手

 国際的にも類を見ない急成長を遂げた経済大国で、産業の経営に参加しているのはほとんどが男性である。21世紀を考えると、これからは新しい社会システムや新しいビジネスの振興が求められており、それらを実現するためには、従来、経営の意思決定に参加していなかった女性を、経済や産業の担い手としての役割に、積極的に位置付けていく政策が有効ではないだろうか。新たな市場を掘り起こし、新たな産業を創出する中に、高齢化問題、環境問題などいくつも山積する社会的課題を、統合的に組み込んでいく発想の転換を伴ったビジネスのスタイルが待たれている。女性が経営に参加することで、女性が企業を設立することを通じて、その可能性が高まるのではないだろうか。
 現実には、グローバル化、IT化の波が押し寄せている今日でも、依然として伝統的な枠組みの中でビジネス展開をしている経営者、企業、業界は多い。新しいビジネスが誕生するためには、創造的破壊は必然である。旧来の産業における固定的なビジネス観や非合理的なルール、システム、あるいは伝統的な取引慣行など見直すことにより、新しい形態、新しい方法、新しい領域のビジネスが生まれる。女性企業家の登場は、その起爆剤の一つにもなりうると思われる。
 女性が独立をする、SOHOになる、自営業になる、ベンチャー企業を興す、今さまざまな元気な動きが始まっている。だが、実際に企業を興し、事業活動を継続していくと、そこには、制度的、構造的、社会・文化的障壁も少なからず存在する。女性がビジネスにアクセスしやすい社会的な流れを整備することが、新産業の創造に向けての必要条件であろう。

女性企業家支援の流れ

 女性企業家支援の現状を見てみると、地方自治体や各地の女性センターでは活発に“女性企業家支援”の講習の実施、講演会・交流会の実施、融資・債務保証制度の実施、相談窓口の設置等を行っている。意識の啓蒙は進んでいるが、入門編に止まっている傾向が多い。
 また、農林水産省では、農村女性の経済的地位を向上していく観点から、特に農産物等の地域の資源を活用して朝市や農産物加工等の活動を行う女性グループに対して、情報提供や経営指導を行う「農村女性グループ企業支援事業」などを実施している。これらの女性企業家支援策は、まだ効果を測定するまでには至らないが、農村部での女性企業家に対するニーズの高さや、農作物の新規ビジネスの開発意欲から生まれたものである。
 アメリカにおいては、スモールビジネスの半数近くに女性企業家が存在する。この背景には、アメリカ中小企業庁による女性企業家支援策の功績がある。政府は「Office of Women's Business Ownership」と呼ばれる女性企業家支援組織を中小企業庁に設立し、「Women's Business Ownership Act」(女性企業家法)に基づく施策を実施している。 そのうちの1つ「デモンストレーション・トレーニング・プログラム」は、女性企業家および企業家をめざす女性に対して財務、経営、マーケティング、技術に関する訓練や援助を提供している。
 「メンタリング・プログラム」は、企業家トレーニングのための女性ネットワーク組織「the Women's Network for Entrepreneurial Training」が、開業してから3年以上経つ成功した女性企業家をメンターとして依頼し、事業成長に向けて準備が整った経験の浅い女性企業家との情報交換を促すものである。メンターが経験の浅い企業家に1年間にわたり、さまざまな観点から具体的なケースに基づいて経営指導を行っている。
 「パイロット・ローン・プログラム」は、女性企業家が銀行の融資の申し込みに行く際に、中小企業庁がローン保証の資格を前もって、その女性に与えるというものである。
 これは、アファーマティブ・アクションであるが、1994年連邦政府購買合理化法により、各政府機関は、女性所有企業に対して、当該年度の元請及下請契約総額の5%以上割り当てを、目標として設定されるよう要求されている。調達機会を女性に支援している。

事業経営を学ぶチャンスを女性に

 女性企業家は勤務経験を通じて、事業経営に役立つ知識や技術、ノウハウを獲得する機会が、過去において少なく、且つ現状いまだ少ないという実情がある。また、女性企業家が事業開設にあたって、女性であるがゆえの不利益など、金融機関への信用力、取引慣行、営業活動等において、偏見、障壁が取り除かれれば、女性が新たに企業を開設することは、もっと容易になるだろう。
 さらに、男女共同参画型社会に向けての政策が推進しつつあるが、現実的には家事・育児・介護等の家族的責任の多くを女性が担っており、女性企業家といえどもその負担から自由ではない。事業経営と家庭生活の両面の負担を抱える現実がある。男性の家事育児参加や、民間のサポート機関の充実は、課題である。
 今後、女性企業家を創出していくためには、以下のような環境整備が求められるだろう。

環境整備と学習機会

 まず第一にあげられることは、情報提供、相談窓口の設置および情報機能の充実である。男性企業家が職業上の経験や人間関係によって、必要な情報の入手機会に恵まれているのに対して、女性企業家や新規開業を希望する女性は、情報収集に相当なエネルギーを費やさなければならず、また目的の情報にアクセスするには著しい困難を伴う。そこで、インターネットをはじめとする情報通信ネットワークの活用により、必要な情報を即時に入手できるシステムの整備が求められている。経営、金融、税務、労務、法律等について専門家による相談機能も付加した、情報の受発信窓口の充実が急務であると言えよう。
 第二に、事業経営の知識や技術を習得するための機会の拡大があげられる。女性はマネジメントに関する業務経験が極めて少ないことから、開業に至る間に財務・経理・人事等、管理部門における知識や技術の不足を自覚することが多い。そこで、事業計画の作成や資金の調達方法、開業手続きの具体的な内容、会計や税務の実務、商品開発やマーケティング、経営戦略、雇用慣行、従業員についての人事・労務管理や能力開発等、事業経営に関わるさまざまな講習課目を設定し、できるだけ多くの機会を通じて開設されることが必要である。
 また、開業準備の際や開業直後に生じる問題について実践的な講習は、アメリカの例を見ても、極めて効果的であることは明白であり、日本においても各自治体が有する女性センター等の活用によって積極的に展開されるべきであろう。 第三に、開業資金を調達する際に受ける投融資や債務保証制度に関して、女性企業家が信用力や担保力を獲得するための環境づくりがあげられる。自己資金力、担保力、信用力の不足は、女性企業家の大きな障壁である。彼女たちが資金調達手段として政府系金融機関を利用するケースは極めて少なく、さらに地方公共団体の融資制度の利用に至っては、微々たるものである。そこで、女性企業家が融資を受ける場合は事業計画へのサポート、事業の将来性に関するサポート、あるいは投融資、債務保証、資金調達に関する情報入手を容易にするような情報サービス機能の充実、また女性に対する偏見をなくすために、金融機関等の担当者を対象とする意識啓蒙活動などが、急務の課題となるだろう。

女性企業家のネットワーク

 第四に、女性企業家間のネットワークの拡大があげられる。女性企業家の少ない日本においては、モデルとなる先輩企業家と密接な情報交換をすることは、企業家としてのさまざまな成長を可能にする。
 また、メンターとなる企業家との出会いも、女性企業家間のネットワークの拡大によって発生し得るだろう。同じ目的を持つ者や目標となる人たちと事業経営に関する知識やノウハウの情報を交換することは、中長期的な観点においても、女性企業家の創出に寄与する。
 第五に、女性企業家が各産業分野で事業活動を展開しやすくするための産業界におけるオープン化があげられる。産業界では、団体等によって業界のルールや談合を始め、慣行が決められている場合が多いが、新規参入できる自由競争のルールづくりが、展開されるべきである。
 また、インターネットの普及が加速した、ここ3、4年に女性がe−ビジネスを立ち上げるケースが急増した。アメリカにおいても、90年代前半IT革新により、女性の能力発揮が加速された。IT革新が、既存の開発、生産、流通、販売の流れを変え、新たな産業モデル、ビジネスモデル、組織モデルを都市に限らず地方においてもつくり出してきた。 ジェンダーの強いと指摘される日本にも、大きなチャンスの到来である。性別、地域、年齢の差を越えることの出来る情報通信技術の活用を大きな契機として、女性企業家の誕生を促進できるのではないだろうか。



■江上節子(えがみ せつこ)
早稲田大学第一文学部卒業。『とらばーゆ』『B-ing』編集長を経て、91年から産能短期大学助教授、のち産能大学助教授。日本ベンチャー学会女性と起業研究部会長。
主な著書に「伸びる会社は女性を活かすのがうまい」「リーダーシップの未来」など。


情報誌「岐阜を考える」2000年
岐阜県産業経済振興センター


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