インタビュー |
美 濃 和 紙 の ウ エ デ ィ ン グ ド レ ス
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(有)TJPコーポレーション 代表取締役社長 市原 慶子さん
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―お仕事を始められたきっかけは何ですか? |
市原: アメリカの大学院で福祉や教育について研究し、帰国後はその成果を生かして福祉の仕事に就こうと思っていました。しかし日本ではアメリカの斬新な福祉は受け入れられない状態だったのと、留学先の同僚から美濃和紙という日本の伝統文化を守っていくことを期待されていたこともあって、美濃和紙で何か新しいものを作って世の中に貢献していくこともできるのではないかと考えました。そこで平成5年6月に会社を起こし、和紙染色技術の研究と、小物を作ることから始めました。
昨今の環境問題の高まりとか、資源の有効利用を考えると、循環型社会において和紙は見直されるべきで、これからのニーズにあった和紙が出来れば企業としても成り立つのではないかという思いはありましたし。またファッション性があって若い人達に受け入れられるようになれば、和紙に対する見方が変わるのではないかという期待もありました。 最近は、服飾用の素材として紙が受け入れられるようになり、若い人達が和紙に注目してくれるようになりました。まだお金につながるまでには達していないのですが、感激しています。今、一歩足を踏み出したという状態です。
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―起業の際、ご家族の反応は、如何でしたか? |
市原:正直申しまして、決して諸手をあげて賛成してくれた訳ではありませんでした。私がやると言ったら絶対やり通す所がありまして、定款などを作る際には本を買ってきて片端から読んで自分で作成して、登記事務所へ自分で持って行ってというように全部自分でやりました。ここまでやるなら止めても無駄だなと思ったのかもしれません。
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―女性という面でのご苦労はありましたか? |
市原:アメリカは、やれば出来る、頑張れば必ず引き上げてもらえる社会でした。 その経験から、日本も同じで、『やれば出来る、やるしかない』と思っていましたが、周りからは「何も分かっていない女の子がやるのはおかしい」という声がかなりありました。今から思うととても無謀なことでしたが、正々堂々と社会に訴えていける物を作るために、法人格を持った会社を立ち上げたわけです。それでも、私の思いに賛同し応援したいという方も、大勢いらして下さいましたので、まず一歩を踏み出して、それから一つずつステップアップしていけばいいと思ってやり始めました。
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―特に女性であることを意識して、事業にあたられている部分はありますか? |
市原:私自身にそういうものがあるかどうかは別として、特にドレス関係には、きめ細やかな、男性では気付かないような女性特有の微妙な思いがあると思います。そうゆう女性ならではの感性を持ち合わせているスタッフを多く揃えて、行き届いたサービスが出来るように心掛けております。
一方で、女性だからという甘えは絶対に持たないことを心掛け、「私は女だから」と言う言葉は絶対言わないようにしています。仕事に対して、商売に関しては女も男もないと思っています。私が強くなったのかも知れませんけれど、やり始めた頃に比べて、凄く男性の目が変わってきたという感じがします。 最初の頃は、「女だから」とか「たかが小娘に何ができる」と、そういう言い方をされたのですが、今はもうどなたもおっしゃいません。ベンチャークラブなどへ行っても女性は1人ですが、「女だから」と言われることもありません。 仕事を頑張れば、男だ女だと言っている時代ではないと、少しずつ思えてくるようになりました。でも、まだまだかもしれませんね。
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―芸術性が強い商品のマネージメントということから、工夫されている面はありますか? |
市原:やり始めた時に、「芸術性の高い伝統工芸の世界はお金は儲からないよ」「ただでさえ儲かっていない紙の業界にあって、付加価値を付けて売るなんて、とても難しい」と言われました。しかし伝統をそのまま受け継ぐだけでは衰退しますから、その中に新しい現代の香りを加えることによって違う切り口を作り出したのです。「和紙なんか」と言っていた地元の方でも、「結婚式では、和紙のドレスを着たいわ」と注文頂けるようになりましたし、マスコミに取り上げられたことあって、地元以外からの問い合わせも増えてきています。以前は大量に売ることを考えていましたが、買って頂く方の顔が見える個人売りが一番いいと思って、インターネットなどを活用した個人売りの方向に転換しています。ドレス一着の為に、遠方からご両親と一緒に何回もお越し頂くこともあります。結婚式に出席されている方へのPRとなって、その繋がりで少しずつ増えてきているという感じもあります。 商売としては、商品としてきちんと流通ルートに乗せて出して、一定の仕事量を確保しなければいけないと思っています。私が半分奉仕のような気持ちでやっていると、やはり周りのスタッフもそう思われてしまいますから、もう少し経営というものに本腰を入れて頑張らなくてはいけないと思っています。 |
―今後の展開方向についてお教えください?特に専門的に研究された福祉や教育部門においてはいかがですか。 |
市原:定番商品が出来て、毎日ある程度同じような積み重ねのお仕事が出来るような作業量がありましたら、一人でも二人でも障害をお持ちの方達に入って頂きたいと思います。ほんの一握りの方かも知れませんが、一緒に働いて共に作る社会づくりに貢献できればいいと思います。
また、老人を介護されている方々は社会とのつながりが少なくなっているので、例えば下請け、内職といった形でお仕事をお願いすることによって、社会と接点を持ち、外に出て行かれる足がかりの一歩となればいいなと思っています。
和紙の仕事はほとんどが手仕事です。大きい機械を使うこともせず、危険度も無く、易しい仕事です。ですから、障害をお持ちの方ばかりではなくて、今問題となっている引きこもりの子達にも気軽に参加して頂けるように展開できればいいなと思っています。
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