座談会
 
21世紀のものづくり技術〜技術はいかに人に奉仕するか

 

[出席者](50音順)
赤池 学  氏((株)ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役所長)
秋元 幸平 氏((株)青芳製作所 常務取締役)
今井 實郎 氏(飛騨フォレスト(株) 代表取締役)
望月 優  氏((株)アメディア 代表取締役)
(司会) 渡邊 東 ((財)岐阜県産業経済研究センター 副理事長)


渡邊(司会)  本日は年度末の大変お忙しい中 、 座談会にご参加いただき 、 誠にありがとうございます 。
 さて、 今回のテーマである 「21世紀のものづくり技術」 につきましては、 さまざまな角度からのアプローチが可能かと思いますが、 私どもはそもそも技術というものは何のためにあるのかという原点に立ち返ることが今こそ必要ではないかという問題意識を持っております。 ハイテクであれローテクであれ、 人々の幸福に寄与するという目的観に立って、 技術に命を吹き込む作業が必要になってくるのではないか。 そういった意味で、 今回は 「技術はいかに人に奉仕するか」 というサブタイトルを付けさせていただきました。 これは単なる技術論にとどまらず、 究極的には人間の生き方とか人権といったような大きなテーマにもかかわる問題だと思います。
 それでは、 最初に、 ユニバーサルデザイン総合研究所代表取締役所長の赤池様のほうから、 「技術はいかに人に奉仕するか」 という観点から、 今日のテーマに関する問題提起をお願いしたいと思います。
赤池  今日のテーマと関連した自己紹介をさせていただきますと、 私は生まれも育ちも大田区の大森で、 現在も住んでいます。 大森は、 京浜工業地帯の入り口にございまして、 同級生のお父さんやおじいさんが経営している町工場で、旋盤をいじらせてもらいながら小学校時代を過ごしたという記憶がございます。 そうした経験から、 今でもものづくりが大好きです。
 また、 東京オリンピック以前の大森は、 浅草海苔の養殖が有名で、 日本の7割近くのシェアを占めていました。 幼稚園の頃の古い記憶をたどると、 冬場、 大森海岸沿いに養殖の海苔ひびが美しく立ち並んでいた風景を思い出します。 次世代もなお残すべき町工場からものづくりを学ぶこと、 浅草海苔に象徴される1次産業の保全や、 水・土・良質な森を守っていく意味についても問題意識を持っています。

「共用品」 から 「共創品」 へ

赤池  本論に入りまして、 今日のテーマについて4つほど話題提供をしたいと思います。 1つ目は、 私どもの社名であるユニバーサルデザインに関わることです。 ユニバーサルデザインの要件については、 おそらくアメディアの望月さんが最もご造詣が深いのではないかと思いますが、 バリアフリーが進化したものづくりの哲学であり、 日本語では 「共用品」、 あるいは 「共用品開発」 と訳されています。
 もちろん、 高齢者、 障害者、 子どもたち、 健常者の誰もが共に使え、 便益があるということは重要ですが、 同時に、 「共創」、 共に創っていくという考え方が、 大事なのではないか。 しかし、 「共用品開発」 と訳された段階でそれが欠落してしまったように思えてなりません。
 バリアフリープロダクトを作る時には、 理論、 理屈の先生方だけではなく、 実際に高齢者や障害を持たれた方にも参画していただかなければ、 良いものはできません。 これからは、 バリアフリープロダクトに限らず、 あらゆるものづくりにおいて、 それを受容する生活者の参画を意識すべきです。 例えば、 今、 アウトドアブームを経て、 ネーチャリングブームが到来しており、 週末に農業をするような方もおみえになる。 そうなると、 スポーツ・ファーミングに特化した車づくりというようなことを自動車メーカーも考えていかざるを得なくなる。 これからますますその傾向は強まるでしょう。
  「共創」 の象徴的な例をお話ししたいと思います。 北海道北見市のオホーツクビールという地ビールメーカーは、 2つの意味でマスコミに注目されています。 1つ目は、 いわゆるゼロエミッションと呼ばれる循環型のビール製造を行っていることです。 出資者である大麦農家の原料を使ってビールを醸造し、 絞る。 そこで出た絞りカスを、 同じく出資者である牧場に卸し、 牛を養う。 その牛の肉を地域の業者がハム、 ソーセージ、 ウィンナー等に加工し、 それをビール工場に併設したレストランで提供する。 そして、 牛の糞はまた大麦農家に堆肥として戻していくのです。
 もう1つの特徴は、 非常においしいことで、 これは今申し上げた 「共創」 に関わっています。 毎年夏になるといろいろな週刊誌が地ビールランキングを行いますが、 大体ベスト5に入っています。 その秘密を調べてみましたら、 やはり理由がありました。 35歳ぐらいのまだお若いブラウマイスターが、 毎年ドイツの小都市を訪ね、 そこに残る伝統的なビールの醸造技術を取材し、 それをもとに北見の工場で何種類かの試作ビールを作るのです。
 オホーツクビールは北見市民を中心に2千人ぐらいの友の会組織を持っていまして、 試作ビールを彼らに飲ませて、 味、 切れ、 こく、 香り等をチェックしてもらい、 高ポイントになったものだけをスタンダードに生産・販売していくという仕組みを採っています。 ユーザーである地域の生活者にも参画してもらうことで、 良質なプロダクトを作ると同時に、 おいしいビールが分かる地域の生活者・消費者そのものを作っていくという、 戦略としての 「共創」 がここにはたたえられています。
 別の事例をあげると、 ソニーの開発したロボット犬の 「アイボ」 のような最先端の製品は、 もちろん優秀なエンジニアやソニーの持っている研究所のサイエンティストグループが、 こういう製品創りたいという目的にそってある種のスタンダードを作るのですが、 個別の部品については、 私の地元・大森の金型の工場などでつくられている。 例えば、 センサーの複雑極まりない配線を収める足の型などを作っているのです。
 そういう意味では、 自動車も含めた日本のさまざまな製品が、 実は町工場の熟練技能者との 「共創」 で成り立っているという事実を、 我々生活者が知る必要がありますし、 メーカーサイドも、 それを戦略的に発信していくことが重要になってくる。

自然界に学び直す

赤池  2点目は、 「時を経た技術」 にあらためて注目し、 尊重していかなくてはならないと考えています。
  「時を経た技術」 には、 大きく分けて2つあるような気がします。 1つは、 40億年という生物進化の時を経た技術。 おそらく21世紀には、 さまざまな意味で、 自然界や生物が持つ技術やつながりの仕組みを学び直すことが必要になってくるのではないか。 近視眼的に見ますと、 今、 リサイクル・環境対策の関連でエコマテリアルが出てきていますが、 究極の理想的なエコマテリアルは動植物素材だと思います。
 後ほど、 今井社長がひのき畳という素晴らしい商品のお話をしてくださると思いますが、 この畳は藁床の部分にひのきチップが使用されている。 木という素材の未知の機能性を追求しているという点で素晴らしいものだと思います。 また、 日本や中国では良質な木材の仕上げ剤に養蜂の派生物である蜜ロウが使われていましたが、 そうした古い技術が、 化学建材によるアレルギーが問題になっている昨今、 非常に未来的な意味を持ってくる。

「熟練技能」 の再評価を

赤池  もう1つは、 人類史1万5千年から2万年の時を経た技術、 熟練技能です。 人類が今までどのような素材を作り、 それを成形するために、 どのような技術を開発してきたかをふりかえるということです。 先ほど 「アイボ」 のお話をしましたが、 ともすれば、 大企業のエンジニアが良質な製品を作っていると錯覚しがちです。 私は極論するとエンジニアの仕事はある製品を作ることによってどんな価値を生み出し、 どんな機能を達成させたいのかを考えることだと理解しておりまして、 それを具体的な形にするのが技術の本質であり、 それを担っているのは熟練技能者に他ならないと考えています。
 大田区の大森の町工場の例をあげますと、 高機能な日本のノートブックパソコンや、 ビデオカメラ、 デジタルカメラのズームレンズのガイド部品のように、 高い精度が求められ、 複雑な山型突起がある部品をつくる金型の設計屋がいます。 彼らがパズルのような頭脳と、 技能の限りを尽くして設計したものを、 きちんと研削・研磨をして型を作る人がいます。 こういった方々が良質な家電製品を進化させてきたという事実を、 もう1度知らしめる必要がある。

21世紀の製造工場は 「地域」

赤池  最後に問題提起をしたいのは、 地域の生活者が良質なものをつくることに参画をし 「共創」 していくということです。 あるいは生物に学ぶという意味で、 地域の自然資源をもう1度見直したり、 地域のおじいさんを含めた熟練技能者たちのノウハウを生かしていくことも重要になるでしょう。
 例えば、 今、 市場サイドが求めているものの1つに健康住宅がありますが、 岐阜スタンダードの健康住宅をつくるというのも面白い。 岐阜の地域全体がその工場なのだという意識を持つことが大事だと思います。 これからのものづくりは、 単に売れれば良いということではなく、 良質な商品を作り、 それを受け止めることができる生活者をも併せて作っていく。 21世紀の自治体や企業は、 それぞれの地域や業界の底上げにつながるような、 新しい価値づくりのためのシナリオを考えるべきです。
 同時に、 ものづくりに意欲的に取り組む、 若い世代を育てることが非常に重要になります。 私自身も大森の工業高校等から講演や授業の依頼を受けることがありますが、 ものづくりが好きでない生徒が数多く見受けられます。 ものづくりの世界には、 素晴らしい仕事をされる本物の人材・成功者がいることを知らしめ、 机上の座学に止まらず、 一級の熟練技能の加工力、 現場の力といったものを、 徹底して教え込む必要がある。 また、 地域の企業も、 地元の工業高校や高専への経済的支援を含め、 もののつくり手を育成する必要があるのではないか。 地域全体で20世紀的な問題を超克する新しい価値づくりを提案していくべきでしょう。
渡邊  どうもありがとうございました。 それでは、 赤池先生から問題提起をいただいた4つの点について、 皆さま方にお話を頂きたいと思います。 最初に、 日本最大の洋食器産地である新潟県燕市で、 地場産業に新たな命を吹き込むべく福祉用品作りに取り組んでおられます、 青芳製作所の常務取締役・秋元様からお願いいたします。

「1人」 のためのものづくり

秋元  私どもの会社は創業42年になります。 売上の99%が輸出という時代がずっと続いていたのですが、 1985年のプラザ合意以降、 輸出が不振となり、 内需転換しようということになりました。 我々は輸出向け洋食器を、 ただひたすら作り続けてきたわけですが、 単に国内市場に参入するだけでは、 既存メーカーとの価格競争に陥るのは目に見えている。 そこで、 みなさんが作っていないものを作ろうと思いました。
 まず、 当社で作れるものは何なのかを考えてみました。 当社の得意分野はステンレスの加工です。 研磨・絞り・彫金・溶接という4つの技術が、 当社の所在する新潟県燕市は、 他の地域よりも優れているとみて、 それをどう活かすかを考えました。
 まず、 ステンレスのさびにくいという性質を利用して、 魚具や海辺で使う道具にアプローチをしました。 また、 ティーセットは、 スプーン以外は陶器やプラスチック製のものが多く、 これをステンレスに転換しようと考え、 若い女性をターゲットに商品開発をしました。
 模索を重ねる中で、 福祉用品に取り組もうということになりました。 健常者用のスプーンはどこにでもありますが、 手の不自由な人のためのスプーンはどこにもなかった。 海外製のものがあるにはあったのですが、 日本人には大き過ぎて、 とうてい使えない。 では、 我々が作ってみようということになりました。 当社は、 社長以下45人の中小企業ですが、 たまたま三菱重工業のような大手と共同開発をしたこともあり、 メディア受けが非常に良かったものですから、 脚光を浴びました。 もちろん、 品物も良いのですが (笑)。 福祉用品は、 販売ルートが未発達なので、 まだまだ、 売上的には微々たるものですが、 何とかやっております。
 かつて輸出全盛時代には、 貿易商社が持ってきた見本や図面のままに作れば良いわけですから、 それがどうやって売られ、 使われているかなど、 考えたこともなかった。 ましてや、 お客さまの顔など、 見たこともない。 ただ安い価格で、 効率良く作れば良かったのです。 ところが、 国内向けの福祉用品になりますと、 そんなやり方では通用しない。 まさにお客さま1人1人のために作るような気持ちで取り組まなければなりません。 以前とは180度作り方が変わりましたね。 何が一番変わったかといえば、 お客さまの声が聞こえるようになったことです。 スプーンを輸出しても何も答えは返ってきませんが、 国内向けの福祉用スプーンを使っていただいた方からは 「ありがとうございました」 というお礼の手紙を何通も頂いています。
 自分で食べられないということは、 自然界では死を意味しますが、 何とか自分の最後に残された能力を使い、 当社のスプーンを使用してものを食べられれば生き返る。 実際に 「生き返りました」 というお手紙を頂戴したこともあります。 最初は冗談だと思いましたが、 いろいろな先生方にお聞きしたところ、 本当の意見だと言われまして、 驚くと同時に、 メーカーとして、 ものの作り手として 「やった」 という気持ちを持ったのを今でも覚えています。 それらの手紙は、 当社の従業員全てに見せますし、 社員も誇りを持って仕事に取り組んでくれているようです。
渡邊  どうもありがとうございました。 続きまして、 インターネットや携帯電話、 各種モバイル機器の爆発的普及により、 以前では考えられないほどのスピードでIT革命が進展している中で、 ご自身が障害をお持ちになりながら、 情報のバリアフリー化という重要なお仕事に日夜情熱を傾けておられます、 アメディアの代表取締役社長・望月様より、 お話を伺いたいと思います。

テクノロジーは 「障害」 を軽減させるために

望月  当社は平成元年に私が設立しまして、 視覚障害者向けのパソコン用ソフトを作っております。 今年で11年になります。 コンピュータが出始めてから、 私自身少しずつ使ってきたわけですが、 コンピュータをうまく使えば視覚障害者のハンディが大幅に軽減されるという実感を得ましたので、 会社を興したわけです。
 赤池先生は、 生活者あるいは消費者が開発やものづくりにかかわるということを1つのテーマとして取り上げていらっしゃいましたが、 当社の場合は、 私自身目が見えないものですから、 自分が便利になりたい一心でやってきたようなものです。 もちろん、 周りの視覚障害者にもご利用いただきたいという気持ちがあったからこそ企業という形を採ったわけですが、 一番の原点は自分が便利に使いたいというところにあります。
 例えば、 この座談会のお知らせや進めかたについて、 担当の方から電子メールを頂きました。 電子メールの分野は、 視覚障害者にとってまだ十分に環境が整備されていないのが現状ですが、 ちょうど弊社でこの夏発売予定の視覚障害者用電子メールソフトがありまして、 もちろん未発表ですが、 社内では使っております。 それを使用し、 読むことができました。 メールの本文自体はMS-DOSの古いメールソフトでも読めるのですが、 今回はファイルが添付されていましたので、 一般のメーラーでは無理なのです。 開発中のサンプル版が私のパソコンに入っていたものですから、 送られてきた添付ファイルが読めました。
 また、 昨晩送って頂いたファックスも、 今朝、 事務員から受け取り、 当社で発売中の印刷物読み上げソフト 「ヨメール」 を使って読みましたし、 テキストファイルに落としたものを点字プリンターで打ち出し、 電車の中で、 点字でも読んできました。 考えてみますと、 私は全部当社の製品を使ってやっているんですね。  自分が便利になりたいという理由で会社をやっていますが、 それを何とかして視覚障害者全体に普及させて、 視覚障害者の文化を花開かせようというのが、 私の夢です。 現段階では、 私どもの製品は視覚障害者専用であり、 あまりユニバーサルデザインではない。 ただ、 ユニバーサルデザインの製品を出すことによって、 大きな市場に打って出る夢はありますし、 そうすれば、 会社はもっと儲かるかなという気がします。
 当社の場合も、 先ほどの秋元さんのお話のようにマスコミ受けするものですから、 いろいろなメディアに紹介していただいています。 ですから何かすごく先進的な会社のように見られがちですが、 何せマーケットが狭いものですから、 いくら良いものを作ってもそんなにたくさんは売れない。 経営は大変に苦しく、 私自身、 立て直しに悪戦苦闘をしている状態です。 視覚障害者側からアプローチしたユニバーサルデザインの共用品を作り、 大きな市場に打って出るという夢はありますが、 会社の原点である視覚障害者に便利なものをつくるという基本は崩すつもりはありません。 もちろん、 それが崩れたらおしまいですが。 赤池先生のおっしゃった第1点目の要素をせっかく当社が持っているのに、 それを捨ててしまっては仕方がないと思います。
 次に、 自分の会社の小さな話から、 ちょっと大きく展開してみたいと思います。 もともと、 どんな人でも自分に便利なものを作ろうとしていたのが、 生活者との間に少し距離感が出てきてしまったのは何故かを考えますと、 おそらく産業革命を境に大量生産をするようになったからでしょう。 大量生産のシステムでは、 たくさん売れるものが良いものであり、 また、 売れるものを作りたいと皆が思うわけです。 私もユニバーサルデザインの製品を作ってたくさん売りたいと思っていますが、 皆がそう思い始めると、 個人の声は無視され、 技術・発想に優れた、 万人受けするものがヒットするという考え方が強くなってくる。
 確かにそういう側面はありまして、 だからこそヒット商品がいろいろ出てくるのでしょうが、 現実には、 1人や2人といった少人数の発想で大ヒット商品を出すというのは、 天才的なマッチングがあった時だけです。 例えば千種類の商品のうち、 大ヒットするのは1つとか2つというレベルです。 そのうちの990ぐらいはほとんどつぶれているのに、 それに気が付かずに皆大ヒットばかり狙うというのが、 産業革命以来どんどん進み、 現代にまで及んでいるのだと思います。 そういう中で、 やはりもう1度原点に立ち返り、 本当にユーザーのことを考えてもの作るというのは重要だと思います。 大ヒットするか否かは別として、 本当に人の役に立つもの、 世の中のためになるものができるはずです。
 先ほど秋元さんがご紹介になった障害者用のスプーンは、 売上は大したことはないかもしれませんが、 それを使う人に対する貢献度は大変なものですよね。 健常者がスプーンを使って何となくものを食べているのに比べ、 はるかに役に立っているわけです。 経済的価値以外にも商品価値を見出していくような世の中になって欲しい。 もちろん、 会社が存続しないと困りますが、 そういった視点を持って当社は製品開発・ものづくりに取り組んでいきたいと考えております。
渡邊  どうもありがとうございます。 それでは、 続きまして飛騨フォレスト代表取締役の今井様からお話を頂きたいと思います。 昨今、 シックハウス症候群と称される化学物質による健康被害が問題となっていますが、 ひのきの間伐材を利用した畳など、 健康・居住性の向上、 和の文化の継承等をテーマにしたユニークな製品作りに取り組んでおられます。 では、 よろしくお願いいたします。

インターネットを活用し、 健康的な住空間を提供

今井  私は根っからの畳屋ではございません。 いろいろな事に関わっております。 岐阜県益田郡萩原町に生まれ、 山や森が大好きで、 最近話題になっている間伐材に付加価値を付けることに取り組んで、 もうかれこれ10年になります。 先ほど赤池先生が時を経た技術の重要性について述べられましたが、 私も同感です。 それを現代風に演出できないかなと考えております。
 日進月歩のハイテク技術に比べ、 当社の場合はローテクですが、 健康住宅、 環境、 未利用資源の有効活用というテーマに取り組んでいます。 戦後、 盛んに植林されましたが、 密植であることから、 森林砂漠という問題が出てきています。 山は緑ですが、 山としての公益機能がほとんどないということです。 いったん雨が降りますと、 がけ崩れや山崩れが起こりやすく、 国土保全のためにも、 間伐をし、 山に自然を蘇らせる必要があることから、 私自身、 試行錯誤を繰り返してきました。
 当社がひのき畳に取り組むことになったきっかけをお話します。 ある工務店に行きましたら、 大工さんが柱の仕上げかんなをかけてみえました。 我々がやれば刃物が切れませんので、 かんなくずは非常に短いものになってしまいますが、 大工さんの場合は、 頭からおしりまで1枚につながった、 3メートルの帯のような素晴らしいものが出てくる。 それをつかんで引っ張ってみたところ非常に丈夫で香りも良く、 クリーンである。 当時、 岐阜の鵜飼の鵜を操る縄はひのきでできているという話を聞いたこともあって、 瞬時に畳にならないかとひらめきましたが、 あのような形状では、 なかなか難しい。 それでも何とかして夢を実現したいと、 夜も眠れない思いをしながら試行錯誤の結果、 まだまだ問題点はありますが、 ようやく人さまに見ていただけるようなものになってきました。 今ではオリックスのイチロー邸にも40畳ほど敷いていただいております。 これはお金持ちだから買われたというわけではなく、 スポーツ選手は職業柄、 健康や環境に非常に気づかっておられまして、 施工業者を通して提案させていただいたところ、 評価された次第です。
 21世紀は環境・健康がキーワードといわれます。 まさにその事に整合しているとの評価をいただき、 シックハウス症候群や環境ホルモン問題を引き起こさない健康的な住環境・住空間を敷物を通して提供させていただいております。
 従来の畳と比べるコストは高くなりますが、 今、 日本間はそれほど多くありませんし、 そういうこだわりのお部屋もあっても良いかと思います。 全体の総予算の中で、 ある程度プランにめりはりを付けていただくことによって、 導入は可能な価格だと思います。
 畳に限らず、 天井・壁・床材についても、 木、 草、 土、 紙といった素材が健康・環境に良く、 人間にとって不可欠なものでしょう。 化成品の畳は、 安さや手軽さといったメリットがあり、 ここ3、 40年の間享受してきましたが、 そのひずみが今出てきており、 大変な社会問題に発展してまいりました。
 我々は資本力に乏しく、 販路の点でも非常に弱い立場にありますので、 インターネットを最大限に活用しています。 大企業でも我々のような超零細企業でも、 インターネットという同じ土俵で勝負できる良い時代になったと感謝をいたしております。 おかげさまで、 全国各地で、 6畳、 8畳といった単位で、 四国以外、 ほとんど全国に出荷をさせていただけるようになりました。
 先ほど赤池先生のおっしゃった岐阜発のスタンダード健康住宅というお話には、 私も大賛成でございまして、 畳だけに限らず、 21世紀の人類のためになるような素晴らしいものが、 まだまだ掘り起こされずにいっぱいあると思うのです。 それを徹底的に探していきたいと思っております。
赤池  秋元さんのお話の中で重要なのは、 新しいものを作るにあたって、 まず、 何が作れるのかということを精緻に調べ上げられ、 技術の棚卸しをされたということです。 岐阜県内の企業も、 もう1度その辺をきちんと整理をすれば、 技術を使って一体どこに行くべきなのかが明確になるでしょう。 何ができるかだけではなく、 何に活かすかという、 次世代的な価値というものをきちんと考えなくてはならない。
 やはり自分が便利になるものを作るべきだし、 マーケットが小さくても使っている人に対する貢献度は非常に大きいという望月さんのお話も、 そのとおりだと思います。 バリアフリーが語られ、 例えばいろいろな住宅メーカーが加齢者対応住宅に取り組んでいますが、 やはり出発点は団塊の世代の人たちが高齢者になった時にどんな家に住みたいのかという自分の思いの棚卸しをすることが、 良質なバリアフリー住宅や様々なバリアフリープロダクトをつくる原点だと考えています。
 マーケットの狭さを克服するには、 繰り返しになりますが、 併せて生活者をつくっていくような取り組みというものを、 これからの企業はすべからく考えていかなくてはならない。 私は望月さんのお話を聞いていまして、 たくさん売れるものでなくても、 個々の思いにこたえるものであれば良いのではないかという思いを強くしました。
 我々はここ2年間ほど、 岩手県と三重県の有機農作物に関する情報公開システムの実証実験を、 インターネットを使って行っていますが、 そこでの面白い成果を紹介したいと思います。 岩手県二戸市のおじいさん、 おばあさんが伝統的に作っていたアワやヒエ等の雑穀は、 今までほとんどタダ同然でしたが、 このシステムを開始して3ヵ月後には南魚沼産のコシヒカリほどの値段でさばけるようになった。 これは、 おそらくシックハウス等が原因でぜんそくやアトピー性皮膚炎になった子供たちの家族が、 医療食として、 グループ単位で買い占めた結果だと思います。 おじいさん、 おばあさんが作っているものですから、 生産量は知れているわけですが、 作れば確実に高い値段でそれらの方々が引き取ってくれる。 これからの企業はこういう経営のあり方を考えるのも意味があるでしょう。
 これは有機農産物だけの話ではありません。 昨年末に環境保全型製造業の情報公開をしようということで、 我々の問題意識に共感されたメーカー、 製材業者、 養蜂業者、 蜜ロウ業者に参画していただき、 エレクトリックコマースの販売実験を行いました。 すると、 もともとは有機でこのシステムに入ってきた地域のホテル業者が、 良質な蜜ロウ仕上げの木材や建材などを一挙に買い占めるということが起こりました。
 この例を通して分かるのは、 有機農産物を買おうという意識のある人は、 値段は全然違いますが、 コスト高な健康住宅等を求める生活者である可能性が非常に高いということです。 これは先ほど申し上げた岐阜スタンダードの住宅は岐阜県全体で作るという話に関係していまして、 例えば岐阜県が有機農業について県内外に情報発信すると同時に、 健康住宅のようなものを戦略的に提案していけば、 意識の高いユーザーが岐阜スタンダード住宅を買ってくれるようになるかもしれない。
渡邊  使う人たちのことを考えてものを作るというのは当然なことなのですが、 大量生産の時代には流通が入ることによってどうしても距離が遠ざかってしまう。 それがインターネットの普及で、 自分たちの製品を本当に必要としてくれているユーザーに直接アプローチできるようになってきた。 その意味で、 企業側からしても生活者のためのものづくりが可能な環境が整ってきたような気がします。
 オンリーワンとよく言われますが、 私は今まで世界で1つしかないという意味に解釈していました。 しかし、 みなさまのお話をお伺いして、 ある消費者にとってその会社がオンリーワンなのではないかという気がしました。 その会社をオンリーワンだと思う消費者が一定数を満たせば、 経営が成り立つのではないか。 世界一の凄い技術を持った会社ということではなく、 ある消費者にとってその会社の製品が一番であり、 かけがえがないという捉え方です。
今井  ベストワンでなくあくまでもオンリーワンということですね。 特許はもちろん大事ですが、 赤池先生の巻頭論文にも 「過当競争でなく楽しい競争」 とありました。 インターネットを通した三重県の有機農産物への取り組みが、 大きな広がりを見せているというお話がありましたが、 今日もせっかく思いを同じくする、 秋元さんや望月さんのような方々ともお会いできましたので、 何らかのネットワークが構築できれば素晴らしいなと思った次第です。
 1企業の利益に止まらず、 地域経済全体の活性化を考えたい。 中山間地は特別な産業もございませんし、 商業の方も大型店の進出等で町が大変なダメージを受けています。 何か大きなことをやるというのでなく、 いろいろな柱を立てながら取り組んでいきたいものです。 ヒットアンドウェイに徹したい。

「物語」 のあるものづくり

赤池  先程望月さんがおっしゃった経済的価値以外の価値をどうつくっていくのかというお話はすごく重要だと思っています。 付加価値というよりも、 本質的な価値と言い換えるべきものかもしれない。 象徴的な例として私がいろいろな所でお話しするのは、 沖縄で泡盛を作っている金武酒造の話です。 金武町というのは、 町の7割が米軍の基地です。 実はこの会社が泡盛を貯蔵した古酒 (クース) についてユニークな取り組みをしています。 泡盛にはあまり醸造の技術はありませんが、 モルトウイスキーと同じく、 きちんと管理して寝かせながらおいしくする蒸留酒です。
 ところが、 ビジネスという目で考えますと、 醸造酒がおいしくなるまでには、 最低5年〜10年かかるので、 それまでは投資回収ができません。 それなのにあせって粗製のものを出荷したために泡盛はまずいものだという評判になり、 ブランド力が低下してしまった。 戦前までは 100年〜200年ぐらい取り置いたものがあり、 江戸時代には天皇家や将軍に良質な酒を納めてきたのですが、 それらが全部なくなってしまった。 良質なクースを作ろうとするとお金が入ってこない。 仕方がないから新しい粗製の酒を作る。 ブランド力がどんどん下がって泡盛はまずい酒だと認知されるといった悪循環を超克するために金武酒造がやったことは、 先にお金をもらってしまうということです。 要するに、 泡盛の貯蔵会員になってもらい、 5年コースが1万円、 12年コースが2万円といった保管料をあらかじめ払ってもらう。 それをもとにじっくり泡盛を作り、 きちんと管理していくという仕組みです。 それだけですとあまり付加価値がありませんので、 この会社の女性の専務が考えたのは、 鍾乳洞が非常に多いという沖縄の地域特性を活かして、 鍾乳洞の中で泡盛を貯蔵するということです。 鍾乳洞の中は、 温度や湿度の変化が少なく、 貯蔵には非常に適した環境なのです。
 これは非常に夢のある取り組みですので、 会員になった方が沖縄旅行に行った際に、 鍾乳洞に置かれている瓶を見に行きたくなったり、 友だちを連れて行きたくなるらしいですね。 現在、 会員数は1万1千人ほどになっており、 掛け算してみると相当なもうけになっています。 商品自体はまだほとんどお客さんのもとには届いていないのですが、 それでもビジネスになってしまう。 この取り組みには、 経済的な価値以外の夢の価値も入っていますし、 商品を売った後の鍾乳洞への観光といった要素もありますが、 要するに 「物語」 があるのですね。 商品開発や流通も巻き込んだ物語づくりというのが重要だと思いますね。
 また、 沖縄の那覇市に、 沖縄料理と沖縄中の泡盛がそろっているので有名な 「うりずん」 という飲み屋さんがあります。 ここでは 「泡盛百年古酒元年」 計画をやっていまして、 1口千円で会員になると、 1合分だけ 100年先に飲ませてもらえるというのです。 100年先というと、 孫も飲めないという世界ですが (笑)、 値段も安いこともあってか、 既に1万6千人ほどの会員がいるそうです。 これはおそらくお金云々ではなく、 こういった取り組みを面白がっているのでしょう。
 那覇に行けば、 そこで必ずお金を落とすはずです。 もし、 岐阜スタンダードの健康住宅が形になって、 そういった家を建てる人が現れたとしたら、 飛騨フォレストがどのようにしてひのきの間伐をしたり森を維持しているのかということにも興味を持ち、 見に来てくれるかも知れません。 そうすれば、 森林教育や環境教育にもつながります。 そういうストーリーづくりの仕方もあると思うのです。
渡邊  出来上がった畳だけではなく、 木が出来てから畳が出来上がるまでの一連のプロセスも含めて、 全体が商品であるということですね。
今井  オーク・ヴィレッジの稲本さんが、 飛騨の清見村にそういう工房を作られていますね。 さまざまな体験イベントを企画し、 東京の方から清見村に来てもらう。 東京の百貨店には自社の作品を展示しながら、 なかなかユニークな取り組みをされている。 やはり、 ただ作って売るという感覚ではなく、 何かそういった話題性やストーリーづくりが大事でしょうね。 それが生活者に機能性を認めていただくことにつながるのかも知れませんね。 当社のように自然を相手にした製品を扱っていますと、 工業製品と違って非常にばらつきがありますし、 大量生産もまず不可能に近い。 それだけに、 価値もあると思うのですが、 コストを抑えるのに苦労をしています。 一連のストーリーを生活者の方々にも知っていただくことによって、 これだけ真面目に取り組んでいるのだから少々コストがかかるのはやむをえないなとご理解いただけるかもしれません。
 岐阜県の産直住宅については、 確かに東濃のひのきは使っていますが、 後は、 建具から家具から設備関係に至るまで岐阜県以外でつくられたものが多く、 ある意味で建材のアッセンブリ屋でしかないと言う人がいたそうです。 健常者、 障害者、 高齢者等、 いろいろな人たちに参画してもらいながら、 一歩進んだ岐阜スタンダードの産直住宅・健康住宅を考えるべきです。 ローコストに抑えられればそれに越したことはありませんが、 多少コストはかかっても、 本当に地球環境のことを考えた、 本格的なものを作るのが大事でしょう。
赤池  岐阜が良質な住宅のスタンダードを作る意味は、 住宅そのものだけでなく、 暮らしを含めて提案していくということにあるでしょう。 陶器は良質な岐阜の陶器、 おわんもうるし職人がきちんと仕事をしたものを使っていくなど、 トータルでスタンダードを考えていく。 これがこれからの産直住宅メーカーが採るべき戦略だと思います。

環境に配慮したものづくり

赤池  今のお話を受けてお話ししますと、 例えば製材した材木をきちんと乾燥機にかけて乾燥させ、 付加価値を上げようとすると、 当然その工程でひび割れを起こした撥ね物が出てきます。 現在の大量生産の論理でいきますと、 そういったものは使えない。 もちろん、 強度的な問題で使えないものもありますが、 十分使用にたえうる撥ね物も多く存在します。 ユーザーと良心的な工務店との間にきちんとした連携があれば、 そういうものも使えるわけです。
 この撥ね物を逆手にとって、 「実はこれは加工工程で生じた撥ね物ですが、 強度的には全く問題ありません。 岐阜県では、 今まで使い物にならなかった撥ね物を活用することにより、 良質な木造住宅を低コストで提供しています」 といった形の営業がユーザーに対して可能になるかもしれないですね。 こういった技は、 今までのようにメーカー、 製材業者、 工務店、 ユーザーが、 お互いに顔が見えない形でやっていては使えませんね。
渡邊  畳にしても、 ひのきの畳に寝ると、 化学物質を使用したものと違って健康的に過ごせるというだけでなく、 畳が作られる過程の全てを消費者に伝え、 それらを丸ごと買ってもらうというのが重要でしょう。 例えば、 森林を守るために間伐が必要であり、 間伐することによって木がうまく育つのだというようなことをです。 ここ数年、 特に環境に対する消費者の意識が非常に高まってきていますので、 それを良い意味で刺激することになりますね。
今井  これからますます生活者の環境に対する意識が高まってくることは間違いないでしょうね。 今までのように、 誰かが環境を守ってくれるだろうという依存型でなく、 国民1人1人が意識を持つことが大事だと言われますし、 我々としても積極的に情報提供していこうと思っております。
秋元  私どもも、 生活者の意識が上がってきたというのを痛切に感じます。 関の刃物業界のリサイクル運動に刺激を受けて、 我々もスプーンのリサイクル運動を始めました。 大手の自動車メーカーや家電メーカーがリサイクルに取り組んでいますが、 中小企業は何もしないで良いのかという問題意識を持って自社の製品を見てみると、 これほどリサイクルしやすいものはなかった。 スプーンの裏には刻印があり、 18-8とか 18-10等の材質表示がされています。 これは、 昔の人々が素材の良さを誇示するために刻印したものなのですが、 今となってはリサイクルする識別書になっているわけです。
 リサイクルには2つのポイントがあると思います。 1つは分別の問題。 これは今申し上げましたように、 非常に簡単です。 もう1つは、 受け皿の問題。 私どもの会社がある小池工業団地は30社が集まっている金属団地ですが、 自分たちが作った製品を販売するお店があり、 そこでリサイクルの受付をしています。 そのお店は年中無休ですので、 全国どこから問い合わせが来ても的確な対応ができる。 土日に電話したら誰もいなかったということでは、 話になりません。 良識のあるユーザーは、 スプーンが要らなくなれば金属ごみに出します。 行政側は磁石につくかどうかを基準にして、 つかないものは土の中に埋めてしまう。 ステンレス製のスプーンは錆びませんから永久に土の中です。
 送料を負担していただいて我々の元に戻ってくれば、 溶かしてまたステンレスに蘇らせることができます。 メーカーにもよりますが、 18-8というSUS304のステンレスのリサイクル率は非常に高いです。 我々は中小企業ですが、 費用コストがほとんどゼロでリサイクル運動を成り立たせることができる。 受け皿はそのお店1軒だけです。 確か 『毎日新聞』 を通して全国に紹介されたのですが、 最初はわざわざ送料を負担してまでもスプーンを送る人が一体何人いるのかと思っていましたが、 現在8千本ほど返ってきておりまして、 反響の大きさに驚いているところです。
 中には、 戦前におじいさんが買われたスプーンを、 捨てるに捨てられないから寄付しますと、 送ってこられた方もみえます。 これは非常に素晴らしいものでしたので、 溶かさずに博物館に置こうと思っています。 一般のご家庭からも送られて来ますが、 民宿、 旅館、 レストラン等の改装時に、 100本、 200本単位で送ってくださる場合もあります。 ある時は、 みなさんで食べてくださいと、 お菓子が付いてきた時もありました (笑)。
 そんなことから、 環境に対するユーザーの意識の高さをひしひしと感じています。 しかし、 やはり報道に乗っても2、 3ヵ月すると冷めてしまいますので、 これからどう展開していくかが鍵です。

リサイクル運動で、 地域を愛する子どもを育成

秋元  岐阜県関市の包丁リサイクルともタイアップできたらと思っています。 関では包丁型に切り抜いたリサイクルボックスを使用されているようですが、 ついでにスプーンも入れられるようにしていただければ非常にありがたい。 当地にもステンレスの製の包丁があります。 関と燕の業者が手を取り合えば倍の広がりになります。 それから、 もう1つ申し上げると、 集まってきたスプーンの分別を、 地元の小学生にやってもらっているのです。 先ほど申し上げましたように、 18-8という数字で品質表示がされていますから、 小学生でも簡単に分けられますし、 分別の必要性についても、 きちんと説明しています。 裏の刻印でメーカー名が分かるので、 戻ってきたものが実は自分のおじいさんが作ったものだったとか、 あそこの家で作ったものだとかが分かるのですね。 というのも、 日本中でスプーンを作っている町は燕市しかないものですから、 どこから戻って来ても燕製であるわけです。
 陶器の場合は、 有田、 九谷、 瀬戸など様々な産地がありますし、 メイド・イン・チャイナのものもあって 「どうしてよそで作られたものまで処理しなくてはならないのか」 という声が受け入れ側に起きかねませんが、 ことスプーンに関しては、 そういったことはほとんどあり得ない。 全部自分の所が出したものですから、 自分で処理する責任もあるし、 また、 処理しやすい。 今、 当地では、 スプーンのリサイクルを通じて、 燕を愛する子供たちをつくりつつあるのです。
渡邊  昔、 1度送りだしたものですから、 返ってくるものにも、 当然親しみがありますものね。 子供にスプーンを分別させるのは、 もちろん環境教育の面でも非常に重要でしょうが、 昔ここで作られ、 消費者のもとに出て行ったものが、 また戻ってくるという、 ものづくりの原点を体感させる意義があるような気がします。
秋元  赤池先生が論文の中で 「ユーザーに貸している」 と表現されているとおり、 最終的には自分たちの所に返ってくるわけです。 それを体感できるこの取り組みは、 小学校の社会科の生きた教材にもなっています。
赤池  今のお話は、 PR効果だけでなく、 消費者そのものを作るということにも関係しているのですね。 大手住宅メーカーは、 岐阜県を含め全国各地に住宅展示場を持っています。 家は、 いろいろな意味でものづくりを教える場所だと思っています。 コンセントの向こうにはエネルギー教育が待っていますし、 水道の蛇口の向こうには水源とか川という問題が待っている。
 例えば、 工務店が、 モデルハウスを地域の子供たちの環境教育や総合教育に使ってもらおうという意識に目覚めて、 これはこうやって作られているのだとか、 この素材はこうして健康に配慮しているというようなことを伝える取り組みを行えば、 当然、 子どもたちの向こうには親御さんがおられるでしょうし、 家を建てるなら子どもに環境教育をしていただいた工務店に頼もうということにもなるでしょう。 これは、 望月さんが先ほどおっしゃった経済的な価値ではない価値の1例ではないかと思います。
渡邊  秋元さん、 先ほど、 1人1人の消費者に合わせ福祉用具をつくるという話が出ましたが、 具体的なことや、 それを一般のものづくりに敷延させるとどうなるかという観点でお話を伺いたいと思います。

流通面での改革が課題

秋元  私どもは、 福祉用品にしても生活雑貨にしても、 みなさんに楽しく食事をしてもらうことを目的に商品構成を行っております。 手に障害を持った方に、 どのようにして食べていただくか。 食べるには、 お皿から口まで食べ物を運べば良いわけですが、 いろいろな症状の方がおみえになりますし、 はしで食べたいという方もいらっしゃれば、 スプーンでという方もいらっしゃいます。 当社はスプーン屋ですが、 そういう要望に応えて、 手が不自由な方のためのはしも作っています。 様々な症状の方に対応するには、 やはり病院のドクターや施設の方々とも手を取り合わなければなりません。 当社にはものづくりの技術がありますし、 彼らにはこういうものが欲しいという要望がありますので、 お互いに話し合いを重ねながらものをつくっていくのです。 流通に乗せることをほとんど考えずに作りますから、 売れなくなってしまうという側面はあるかもしれませんね (笑)。
望月  流通は大きなテーマですね。 福祉機器・福祉用具のターゲットとなるべき人は、 本当は結構いるはずなのですが、 今までは大量生産のターゲットには考えられていなかったので、 こうした分野の流通は未成熟です。 そのために、 本当にニーズのある人には届かないというケースが、 今でも数多くあると思います。
秋元  本当にそう思います。 今の流通構造では、 ざっくりと言えば工場原価が3分の1、 問屋さんが3分の1、 小売店が3分の1ということですから、 約3倍の値段でユーザーの手元に届くわけです。 ところが、 本来の役割を果たしていない問屋や、 我々に情報を提供してもらえない小売店も多くなってきていますので、 インターネットを利用したメーカーからユーザーへの直販が必然的に進むとみています。
渡邊  岐阜の7大地場産業は、 かなり生活に密着していますが、 今まではメーカーは製品をつくることだけに特化し、 それを卸して消費者の手に渡るまでの間には関わっていない。 これからは作り手の側から、 互いの製品をコーディネートして、 豊かな生活とか、 環境に優しい生活など、 消費者にライフスタイルを提案していけると良い。 現在は各業界がバラバラな感じですから、 何とか手を取り合ってやりたいですね。
今井  岐阜県の場合、 塗り物、 陶器、 家具、 刃物などの素晴らしい製品があるのですから、 それらをトータルでコーディネートした健康住宅を提案していけば、 そういった業界も活性化してくるでしょう。

グローバリズムとものづくり

渡邊  先ほど望月さんは、 自分が欲しいソフトをつくっているとおっしゃいましたが、 技術開発はどのようにされているのですか。
望月  ソフト開発ができるスタッフを雇っていますので、 私が開発しているわけではありません。 当社は本当に小さな会社で、 フルタイムのソフト開発者は3人しかおりません。 そのうち2人は視覚障害者です。 目が見えなくても、 ソフト開発はできます。 ソフトづくりは文章を書くようなものですからね。 もちろん普通の文章を書くのとは勝手はだいぶ違いますが、 コンピュータが分かるように文章を書くようなものでして、 目が見えなくてもできる。 その意味で、 私も含めて、 視覚障害者用のソフトに対するユーザーのニーズが大体分かりますし、 仕様の決定に関してはほぼ意見が一致します。
 当社の場合はちょっと特殊ですから、 一般のものづくりには参考にならないと思います。 自分たちとは立場の異なる人たちに役立つものをつくらないと、 ある程度大きく売れるものにはなりませんでしょう。 当社で、 もし視覚障害者用でないソフトや機器を作ることができたら、 一皮むけたということでしょうが。
渡邊  そうしたソフトや機器の分野は、 アメリカなど海外でも相当開発が進んでいると思いますが、 海外からの技術導入・提携や、 逆に日本で開発したものを、 日本語から英語などに転換して、 海外展開していくことは可能なのでしょうか。
望月  後者は、 可能です。 前者の海外製品の導入に関しては、 当社の場合、 点字プリンターはアメリカから輸入しています。 国産のものもありますが、 アメリカ製のものが非常に性能が良く、 代理店販売をしております。 ソフトに関しましては、 英語のようなヨーロッパ系の言語と日本語とは、 やはり勝手が違います。 ウィンドウズでも英語ウィンドウズと日本語ウィンドウズとでは仕様が違います。 だから、 向こうでかなり良いソフトがあっても、 それをそのまま日本語に移植するというのは非常に難しいのです。
 ですから大手企業でも、 海外のものを日本語や自分の機種に対応させるために、 かなりの労力を費やしていると思います。 ソフトはユニバーサルなようでいて、 実はそうではない。 ですから、 今は主に自分たちで開発しています。 しかし、 状況がどんどん変わってきていまして、 OSのバージョンが新しくなってくるにつれ、 プロトコルが近づいてきており、 マルチ言語に対応できるようになってきています。 今おっしゃったように、 自社で作ったソフトを英語版にして世界に売ろうかなという気持ちは持っています。
渡邊  秋元さん、 今、 特に介護保険の関係で福祉関係の機器に対する注目が非常に高まっていますし、 あちこちでそういった展示会も開催されていますね。 もちろん最初は消費者にとって使いやすいものを各企業が開発していくところからスタートするのでしょうが、 いずれある時点で、 グローバルスタンダードまではいかないにしても、 ある程度選別されたり、 お互いに共同で開発していくという動きが出てくるような気もしますが、 実態はどうなのか、 今後どうなっていくのかについて教えてください。
秋元  介護保険制度がスタートすることで、 我々の取り組んでいる自助具に関しては良い風が吹いています。 介護保険の保険点数が過度に上がるのを防ぐため、 1項目ずつチェックするケアマネージャーがいます。 例えば、 通常のスプーンやフォーク、 箸を握ることのできない1人暮らしの患者にヘルパーが3度の食事を食べさせに行くとなると、 かなりの高得点になりますが、 福祉用のスプーンを手に挟んで食事をすることができるとケアマネージャーが判断すれば、 それによって介護保険の得点を下げることは十分可能ですし、 実際にそうなるでしょう。
 それから、 ことスプーンに関して言いますと、 今までヨーロッパの品物をそのまま日本に持ってきているだけですから、 健常者は簡単に使いこなせますが、 障害を持ったり高齢になると使いこなせない。 具体的には、 飲み込む量、 重さ、 口の大きさ等が違うのです。 輸出中心の時代には、 アメリカやヨーロッパサイズの図面のままに作り、 格好良いから日本の市場にも売るという程度しか考えませんでしたが、 今は、 医師や施設の方々ともネットワークを組み、 口に入る大きさは何センチメートルか、 飲み込む量は何ミリリットルか、 持つには何グラムが最適かなどを計算して作っていますので、 非常に使いやすいものになっています。
 今回Gマークを頂いた商品は、 施設や病院で、 自分で食事はできるけれども、 普通のスプーンだと食べづらい。 無理やり食べられるけれども、 非常に困っているという人たちという、 非常に細かいところにターゲットを絞って作ったわけですけれども、 出来あがったら万人に非常に使いやすいということになりました。 量的にはちょっと少ないですが、 私自身使ってみて非常に使いやすいと思います。
赤池  柄の部分が中空になっていて、 非常に軽い上、 握ると体温に同調してぬくもりも生まれてきます。 健常者も障害者も子供もみんなが満足できる本当のユニバーサルデザインですね。
望月  もしかすると、 海外の方にもそのほうが良いかもしれませんね。

「哲学」 のあるものづくり

今井  私の友人が、 障害者向けファッションに取り組んでいます。 例えば足の片方を切断した方、 あるいは腰が歪んだ方でもおしゃれをしたいという気持ちは非常に強い。 健常者にはファッションショーに出て来るような、 誰が着ても格好良く見えるものがありますが、 障害者はあり合わせのものを着て我慢をしているのが現状なのです。 その方は1人1人に本当に喜ばれる仕事をしたいと、 取り組んでおられる。 私は人権という点からしても素晴らしいことだと思います。
 不景気だから売れないと嘆いていますが、 地球環境や資源の問題を含め、 人のためになること、 公益性を考えて真面目に取り組むところにビジネスチャンスはある。 多少コスト高であっても、 21世紀はそういった確固たるコンセプトを持ってものづくりに取り組むべきだ。
渡邊  安く買えれば使い捨ても生じて、 結局は浪費になってしまいますね。
今井  そうです。 もうそういうものは要らない。
赤池  どこにお金をかけるべきかを教えてあげるべきです。 家を建てる際に、 きれいなシステムキッチンのカタログをみていると100万円で済むところがすぐに300万円位になってしまいますが、 化学建材でない良質な壁紙や、 高性能な断熱材等、 コストをかけるべき所は他にもあるのです。
 いま、 林業における後継者問題が深刻なのは確かですが、 ストーリーの作り方次第では、 ちゃんと生活者からお金を頂きながら、 森の下草刈り・間伐・枝落体験を付加価値とするようなデザインも可能だと思うのです。
渡邊  1つ心配なのが、 最初に問題提起された人づくりの問題です。 1万年、 1万5千年と営々と築いてきたものづくり技術の伝統を継承していくのが困難になりつつありますね。 これをどのように克服すべきかについて、 お話を承りたいと思います。

アウトソーシングの活用で、 コア分野へ経営資源集中

秋元  私どもは、 地場産業として金属に関するものづくりに取り組んできているわけですが、 今まで通りのことをやっていれば、 確実につぶれます。 それではどうすれば良いか。 赤池先生のお話と相反するかもしれませんが、 商売として生き残るためには、 自分で作ることにこだわる必要もあるし、 こだわらない必要もある。 当社で作らなければならない福祉用品等は作るが、 普通のスプーンは中国やインドネシアで生産してもらい、 不良品があれば当社で直す。 あれもこれも自社で設備投資をする余裕はない。 メーカーのこだわりを捨てては駄目ですが、 他との交流を増やさない限り、 生き残っていけません。
望月  実は、 今、 秋元さんがおっしゃったことは、 私の会社にもあてはまります。 ソフト業界では、 今、 マイクロソフトなどからいわゆる基盤ソフトの良いものがどんどん出てきていまして、 それらをつなぎ合わせて、 見た目が良いソフトが出来てしまう。 そういう意味では、 熟練したソフトウェア技術者でなくても、 売れるという意味での、 結構良い商品は出来る。 今は、 どんどんそういう方向に流れています。 より少ない労力で見た目が良いソフトが作れるような環境下では、 コスト的にも、 そういう便利なソフトウェア部品を使わなければ損です。
 ところが、 それらの組み合わせだけに頼っていると、 他社も同様にできるわけですから、 結局はアイデア勝負になってしまう。 それを避けるために、 ある種独特な技術については完全に自社のエンジニアが開発し、 後は安くライセンス契約できる外部のソフトウェア部品を活用しています。
 全部自社開発しようとしたら、 非常にコストが高くなり、 安く売れない。 逆に周りで開発したソフトに頼ってばかりいると、 当社の技術や個性がなくなってしまいますので、 その辺のバランスの取り方が難しい。 ビジネスと独自性が両立できるポイントを探りながらやっております。
今井  こだわりの部分は自社開発し、 後はアウトソーシングしていくというお話でしたが、 アウトソーシング先は海外になると思います。 現時点では国内と海外では相当な賃金格差がありますが、 いずれ平準化して、 いわゆる世界は1つというような形にはならないのでしょうか。 各国さまざまな経済事情があり、 簡単にはいかないのは分かっていますが。 昔はアメリカを日本が追い上げていたのが、 今は日本が韓国、 台湾、 東南アジア諸国にどんどん追い上げられている。 ものによっては、 中国では日本の30分の1ぐらいのコストで出来るので、 絶対に太刀打ちできないという状況もあります。
 私は日乃出工業というドアの会社も経営していますが、 非常に厳しい。 今は、 ローコストの海外製品にどんどん突き上げられています。 賃金が平準化してくればどうかなという気がしますが。 これはまだ先のことになると思いますが、 私は、 自社にしかないという得意分野を伸ばし、 自社開発、 自社ブランドといったこだわりの分野をいくつか作ることが重要だと考えます。 今の時代、 企業規模が大きすぎるのは良くないと言われていますので、 規模拡大ではなく、 柱となるものをいくつも作ることです。 特化したものをいくつか抱えていくことによって、 総体的には安定経営を目指す。 ある程度の利益追求は必要でしょうが、 やはりこれからは、 自分が世の中に貢献し、 人々に喜ばれているという心の満足感が重要になってくると思いますね。
渡邊  グローバルスタンダードと地域のものづくりとが、 どこでうまく折り合っていけるかという点について赤池先生のお話をお伺いしたいのですが。
赤池  グローバルスタンダードの場合は、 何しろ相手がいる話ですから、 日本がある良質な取り組みを世界で展開しようと思っても、 負けるわけにはいきません。 先ほど基盤技術の面でアジア諸国にキャッチアップされているという話がありましたが、 ガードをかけても止めようがありませんから、 これはやっていただこうと。
 ただ、 日本は、 前衛的な基盤技術のノウハウを町工場、 中小企業を含めてまだまだ持っていると思っています。 グローバル市場の中でパテントやスタンダードを取るためには、 高機能を追求しなくてはならない。 エレクトロニクスとメカトロニクスの極致のようなモジュール部品、 あるいは電送系の技術などで勝っていくべきで、 先を見ながらグローバルな展開をするという部分は、 まだしばらくはやらざるを得ないでしょう。
 ただ、 私は海外で行われているトヨタ自動車の看板方式に注目しています。 例えば北米のトヨタをターミナルにしながら地場の企業に教えたり、 系列のサプライヤー以外にも、 依頼があればお菓子屋であろうが何であろうが、 あの方式を教えています。 看板というのはジャストインタイムというイメージが強い。 もちろん在庫をなくすためにそうした厳しい仕組みがあるのですが、 あの考え方のポイントは、 システムとシステムの間に人間の工夫や知恵を挟むと良質な生産体制ができるというところにあります。 それを通して、 地域に信頼関係をつくり、 いろいろな企業と住み分けられる良質なネットワークをプロデュースしていける企業がグローバル時代に生き残っていけるのではないかと思っています。
 また、 先ほどからお話が出ている介護関係、 高齢者対応、 医療機器等の内需系の製品についてもグローバルな戦略が可能です。 こうした製品を作るための工作機械を作る際に、 アジア諸国に関連技術やノウハウを教え、 日本と同レベルのものを作らせれば、 コストがグンと下がり、 結果的に安い製品ができる。 こうした形の海外との連携もあり得る。 グローバル仕様の商品なのか、 それとも徹底して内需に特化したオンリーワンプロダクトとして育てていくのかというところをまずきちんと理念として定めて、 それに合った戦略を考えるべきです。
渡邊  確固たる理念を持って作ったものだということが、 相手にも伝わるし、 それが非常に重要な時代になってきているという感じがしますね。
秋元  私どもでは、 今、 赤池先生にもご協力いただき、 新潟県のユニバーサルデザインのフォーラムを作っているところです。 全国各地で同様な取り組みがなされていると思いますが、 我々は日本一を目指して頑張っています。 日本一というのは大変なことですが、 実は私どものフォーラムのメンバーは、 米菓、 お酒、 ストーブ、 生活雑貨の分野で、 ほぼ日本一の市場を持っておられる企業の方ばかりです。
 1つのものをみんなで作るのは難しいですから、 1つのコンセプトに基づいたものづくりを推進しています。 トヨタ、 アサヒビールなどが 「Will」 という統一ブランドをつくりましたが、 例えば 「ユニバーサルデザイン新潟」 という名にふさわしい確固としたコンセプトに基づいて作られた水や木の机等を提案していこうと民間ベースで取り組んでいます。 「ああ、 新潟のこれが欲しかったのだよ」 と言わせるものを作りたいと考えています。
 今は民間だけですが、 いずれは広報・情報収集活動や補助金という形で行政の方にもご参加いただければと思っています。 最初から行政に加わっていただきますと、 われわれの責任感が薄れ、 お任せになってしまうおそれもありますので、 今のところサポーターとして会議に出席して頂いております。 我々が自分の足で歩けるようになった時点で、 さらに走る力を頂くために、 行政の方々とつながりを深めようと、 今進めているところです。
赤池  研究者、 プランナー、 デザイナーグループの方々が、 「ユニバーサルデザインなおかき」 はどうあるべきかというようなことを議論するなど、 結構面白い世界です。 まさに共創ですね。 「楽しさ」 を感じながら、 支援者・参画者を募っていくのは大事だと思います。
 話は変わりますが、 飛騨フォレストさんの畳も、 早稲田大学の講義や調査ともタイアップされていましたね。 地道な取り組みはなかなか目立ちませんが、 大学の先生が論文を書いて下されば、 消費者へのアピール度も違ってくる。 きっと先生もいろいろな場所で講演などされているに違いありませんしね。 やはり、 これからは、 これだといえるものをどう道をつけて 「共創」 していくかが、 大切になってくると思います。
今井  そうですね。 やはり1つ1つの積み上げが大事です。 今日の座談会もひとつの情報発信であり、 これを機に流通の整備も進んでいくことを願っています。 知恵とアイデア満載の楽しい 「共創」 ができれば素晴らしい。 各企業それぞれに良いところがありますから、 お互いにネットワークしながら相乗効果を上げ、 ひいては千年先のまだ見ぬ子孫のために素晴らしい地球を残せればこの上ないと考えています。 私は、 自然素材には未知の可能性があると思っています。
渡邊  行政もものづくりに対して重要な役割を果たせると思うのですが、 なかなかうまく機能していない面もあります。 行政の役割に対してご提言がありますか。

「悪平等」 主義を超克し、 戦略的な投資を

赤池  行政が本質的に持っている悪平等主義を超克していただきたいと思います。 産業を支えるといっても、 顔の見えないトータルな底上げはできない。 お金がないという意味でもできませんし、 オンリーワン、 オンリーユーの技術・事業を持たない所に行政がいくらお金をつぎ込んでも、 サバイバルできませんから。
 農業や地場の製造業の全てを活性化しようという発想ではなく、 やはり地域が目指すべき方向を見据えて、 戦略的に取り組むことが重要でしょう。 例えば、 飛騨フォレストさんのような方が中心となって、 スタンダードな健康住宅を作るというのも面白いかも知れない。 そうした戦略事業を現実的に支援・助成できるような、 リフィル型、 スポット型の戦略投資をお願いしたい。
秋元  今、 行政の方は相当お金がなくて困っているようですが、 私は、 逆に良い方向に変わっているのではないかという気がしますね。 我々と目線の合った、 非常に良い考えを持つ方が増えてきたのは、 非常にありがたい。
今井  行政の担当者は、 事業が成功しても報酬がもらえるわけではないし、 仮に失敗してもちゃんと保障されているというようなところでお仕事をしておみえになる。 我々としては特に流通戦略などの面でのリーダーシップを期待していますが、 現実には市場については全く弱く、 行政にお願いしてもものは売れない。 予算がふんだんにあった時代とは大分変わってきているとは思いますが、 親方日の丸ではなく、 行政の方も我々と同じ土俵の中にいるのだという認識を持っていただけるとありがたい。

「やめる勇気」 を持て

望月  私は特に福祉用具関係で思うところがあります。 こうした分野の製品はコスト高になりがちで、 当社の製品も普通のソフトよりは高い。 それをカバーするため購入者に対して補助制度を設けている自治体もありまして、 福祉産業の活性化にとって非常にありがたいことだと思いますが、 重要なのは 「やめる勇気」 を持つということです。 コンピュータソフトの技術は日進月歩の発展を遂げており、 コストダウンのスピードは目覚しいものがあります。 しかし、 行政の方は、 消費者からの突き上げを恐れて1度決めた助成額の見直しをしない。 ある製品群に対しての補助金を、 最初は例えば30万円と決めたとしても、 その製品が技術進歩によるコストダウンで30万円以下で提供できるようになれば、 消費者に半分持ってもらう意味で、 助成金を15万円に下げれば良い。 1度決めたものを後生大事に固持しているがゆえに、 新しいものへの予算がない。 税金をもっと取らなければ新しいものに補助できないということになる。 「やめる勇気」 が、 新しい商品を普及させるチャンスを生み出すという、 柔軟な発想を持ってほしい。
渡邊  今のお話は、 行政にとって大変重要な提言だと思います。 私も永らく行政の中におりますので、 前年度主義的発想に陥りやすい。 本当は今のお話のように、 このまま続ける必要性を常に問い、 無駄なお金を見直して、 新しいものに投資することが重要ですね。

「現場感覚」 を持ち、 実効ある産学官連携を

渡邊  ものづくりにとっては 「学」 の部分が重要であると思います。 産学官連携と言われて久しいですが、 最近、 「学」 の方も意識が変わりつつあるように思いますが。
今井  我々も大学は敷居の高い所だという誤った認識をしておりましたが、 こちらから積極的に関わっていくことで、 結構、 門戸を開いていただけます。 パテントの問題もありますが、 何もかも自社で研究開発するのは大変ですから、 各試験機関、 研究所、 大学等にご協力いただければ、 大きな力になると思いますね。
 ただ、 昨日、 ある大学の農学部におじゃましましたが、 先生方は、 取りあえず何でもできればよいということをおっしゃる。 私どもはもう少しコスト面についても追求したいのですが、 「学」 はその辺の意識がちょっと薄い。

21世紀は 「ソシオプレナー」 が重要に

赤池  やはり世の中にはまだまだいろいろおかしなところがある。 それを変えなければならない。 1つ目は、 良質なものづくりを含めた社会システム全体を変えること。 2つ目は、 子供たちを含めた人間を変えること。 3つ目には、 その入り口にある法律を変える必要があります。 起業家を指すアントレプレナー、 技術をベースに起業していくテクノプレナーに対し、 地域のコミュニティーデザインを含め、 良質な社会システムを地域に根づかせるソシオプレナーとも言うべき人材が、 21世紀にはおそらく重要になってくるのではないでしょうか。
 例えば、 自治体における条例プランナーです。 道路の拡張整備と併せて川をきれいにしようとした場合、 2級河川ならよいのですが、 1級河川の場合は、 なかなか地域がいじれないという構造がある。 具体的な技術や社会システムの提案と併せて、 法律をどう変えていけばよいかを提案できる人材を、 地域が育てていく必要があります。 これからのものづくりは、 行政ともタッグを組みつつ、 良質な地域行政に貢献することが重要だと考えています。
渡邊  本日は、 みなさま熱心にお話をいただきまして、 素晴らしい座談会になりました。 ありがとうございました。
 
 


情報誌「岐阜を考える」2000年
岐阜県産業経済研究センター


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