企 業 紹 介
 
福祉食器具のイノベーターとして「自分で食べる」を応援

 

(株)青芳製作所

 

 青芳製作所は、 日本の一大洋食器産地である新潟県燕市で、 40年あまりにわたってスプーン、 フォーク等の金属洋食器づくりに取り組んできた。
 '85年のプラザ合意以降の急速な円高により、 わが国の輸出産業は打撃を受け、 内需主導型経済への転換が叫ばれるようになった。 輸出を主体とした燕市の洋食器産業もその影響を大きく受けることとなり、 同社も内需転換を目指し、 得意のステンレス加工技術を生かして、 生活雑貨・建築金物・漁具等の新たな分野に挑戦していった。 試行錯誤を重ねる中、 福祉用食器の分野への取り組みを開始。

福祉用具生産に取り組んだきかっけ

 同社が福祉用食器の生産にかかわるきっかけになったのは、 青柳社長の娘さんが小児まひに罹っておられたこと。 当初は個人的に作っていた食器を対外的にも販売し始めた。 「当初の5年間は全くだめでしたね。 ノウハウも販売ルートもなく、 製品自体も陳腐なものでした (秋元常務)。」

形状記憶ポリマーとの出会い

 そんな折、 (財) 信濃川テクノポリス開発機構から、 形状記憶ポリマーが開発されたとの情報を得る。 「形状記憶機能を、 障害をお持ちの方々のために活用できないかと考えたのです。 最初はある会社の開発した材料を使用しましたが、 射出性が良くないので困っていたところ、 半年ほどして長岡技術科学大学から三菱重工業が製品化したとの情報を得ました。 形状記憶ポリマーは、 もともとは、 草刈機のエンジンに使うオートチョークという部品の素材として開発されました。
 最初、 三菱重工業の担当課長に会いに行ったときには、 『福祉用品ですか?』 と怪訝そうな顔をされましたね。 ところが、 その課長さんが偶然にも佐治さんというお名前の方でして、 字は違いますが、 こちらはスプーンの匙を作るということで意気投合しまして (笑)、 最後にはこちらの熱意が伝わったのか、 やってみようということになりました。
 当時、 三菱重工業ではFM放送の時報の前にCMを流していましたが、 当社と共同で開発した製品の宣伝もそこでしてくれました。 正確な言葉は覚えていませんが、 『三菱重工業は、 形状記憶ポリマーのスプーンで、 手の不自由な人の食事を応援します』 といったようなキャッチフレーズであったように記憶しています。」

食器を人に合わせる

 こうして形状記憶食器具ウィル (WiLL) シリーズの第1号が'90年に誕生。 「人がスプーンに」 合わせるのでなく、 「スプーンが人に」 合ってくれるようになった。 「もっと軽く」 「もっと長く」 「子ども用が欲しい」 という要望に応えて、 スプーンは今、 WiLL・4まで開発が進んでいる。 介助用の 「フィーディング・スプーン」 や、 和食等ナイフが用意されていない場で食材を切り分ける 「お食事ばさみ」、 和食はどうしても箸で食べたいという人を対象とした 「楽々お箸」、 煮沸消毒等にも対応したオールステンレス製の 「業務用カトラリー」 等も開発。 新開発された有田焼の 「ほのぼの湯のみ」 は、 見た目は何の変哲もないようだが、 実はノウハウのかたまりである。 内部が空洞になった二重構造のため軽量化でき、 熱さが直接伝わらず、 保温・保冷効果も高い。 また内部に設けられた傾斜により飲みやすく、 「誤えん」 や 「むせ」 を防止できるなどの工夫がなされている。 食器類に止まらず、 形状記憶歯ブラシ・はさみ、 音楽療法用マレット等に至るまで他社と共同開発を行っている。

徹してユーザーのために

  「ある人のすすめで、 赤池学さんの著作 『メルセデス・ベンツに乗るということ』 を読みました。 そこに、 ベンツはベンツという車を作っているだけでなく、 ベンツを愛する人を作っているというくだりがありまして共感を覚えました。 そこで、 当社は 『燕のメルセデス・ベンツ』 になろうと決意したわけです (秋元常務)。」
 徹底してユーザーのことを考えた製品づくりを目指した結果、 「食」 を通して生きる希望を見出したと言うお礼の手紙が届くようになったという。 製品へのクレームにも誠実に対応している。
  「製品が製品だけに、 PL法どころか、 もっと気を遣いますね。 予期しない壊れ方をしたことも現実にありますが、 なぜ壊れたのか、 研究所で電子顕微鏡を使って原子レベルまで原因を追求しています。 お客様に顕微鏡写真をお見せすると納得していただけますね (秋元常務)。」

今後の夢

  「テーブルの上のもの全てに関っていきたい。 これからますます高齢化が進行していきますから、 独居老人の自立支援のためのレシピづくりを行ったり、 たとえ片手がなくても、 当社のこういう皿・スプーンを使えば、 食生活をエンジョイできますよという提案をしてまいりたい。 今のところ大学や福祉施設の関係者と共同研究していますが、 今後 「食」 というものを徹底的に追求していくならば、 食材屋さんとも密接に連携することも必要になってくるでしょう。 ゆくゆくは椅子、 テーブルからシステムキッチンに至るまで、 トータルで 「食」 のあり方を提案していくのが夢です (秋元常務)。」

  
<会社概要>
青芳製作所
代表者:代表取締役 青柳 芳郎
設立 :1957年
資本金:2千万円
所在地:新潟県燕市小池5143番地
TEL:0256-63-3442
FAX:0256-63-3243
URL:http://www.aoyoshi.co.jp/


情報誌「岐阜を考える」2000年
岐阜県産業経済研究センター


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