論 文
21世紀のデジタル社会
産業システムの情報化 インターネットで産業構造がどう変わる

 

佐 野  紳 也
((株)三菱総合研究所 情報通信事業コンサルティング部長)

 

1.次世代情報技術が与えるインパクト

 本日は、インターネットなどの次世代情報技術は、どういうインパクトがあるのだろうかということを、まず最初に説明させていただいた後に、個々の人々の生活への影響について話を進めたいと思います。まずインターネットの普及で、何が起きたのかということですが、ひとつは企業間とか企業消費者間の情報流通が簡単になったということであり、それからもうひとつが消費者からの情報発信も簡単になったということです。その結果ここにありますような直販型の企業とか、新しい仲介業者とか、あるいはカスタム型生産とかが現れてくるのだと思っております。
 

2.産業の情報化の二つの側面

 もう少し細かく見ますと、産業の情報化のふたつの側面と書いておきましたが、二つの側面と言うのは、非常にコストが安くなる形で消費者と企業の間、あるいは企業間が結ばれるということと、消費者からの情報発信が可能になるということです。
 まず最初に供給側から見ますと、インターネットでメールを送る場合、1通あたりいくらという料金ではありませんので、いくら送ってもいいわけです。そういう意味ではインターネットのアドレスを非常にたくさん知っていれば、そういう方に自社の商品を説明することはほとんどゼロに近い費用で可能になっているわけであります。
 それからもうひとつはグローバルな展開が可能ということです。タダで届く範囲が世界中ということですので、どこの地域にもメールを送ることが可能になりますし、メールだけではありませんので、例えばアメリカのGMとかが、電子的な方法で調達を行っております。そういうところに応札することも可能ということで、グローバルな展開が可能になってくるということがあります。
 それからもうひとつはお客様からのアクセスとか注文というのが、デジタルなデータで記録されますので、それに基づいて効率的な管理というのが可能になってきます。例えば補充品といいますか、プリンターのトナーとか紙とか、そういうものであれば、調べてみて、このお客さんは1ヶ月ごとに買っているということがわかれば、そろそろ無くなる頃に「補充しましょうか」とメールを入れてみるとか、そういったアクセスもできると思います。
 あるいはいろいろな購入のパターンを見て、この会社はこういう事を考えているのではないかと推察することもできます。そうなりますと、この会社にはこういう事を提案したらどうかと、そういった購買履歴の情報を活用してビジネスチャンスを見つけていくことが考えられます。これは供給サイドから見るとメリットなのですが、逆に買う側のサイドで見ますと、各社の商品の情報が簡単に入手できるということもまた真実です。
 従来ですと家電製品を買う場合、例えば秋葉原とか家電専門店とかへ行って、いろいろとカタログをもらったり、あるいは雑誌とかで見てどれを買おうかと考えるわけですが、インターネットですとすぐにそういうことがわかるわけです。それから価格も1軒目2軒目ぐらいまでは価格が聞けても、さすがに3軒行くのは疲れるので、2軒目で2軒目のほうが安かったら買ってしまおうという気になりますが、インターネットの場合は見積もりを取るのも簡単にできます。「この商品いくらですか」と各社にメールを流せば見積が出てきて、その中で最も安いところに発注してもいいわけです。
 そういう意味では価格競争が進むだろうと思っております。それからもうひとつの側面は、消費者から発信できるということです。先日東芝の対応が悪いといった事件がありました。パソコンを買ったが故障して、その時の対応が悪いということで大問題になりましたが、従来ああいうことはなかったのです。要するに消費者は何か問題があっても、伝える手段を持っていなかったのです。ところがインターネットというのは一般の人に広く情報を伝えることが可能になったということです。逆に消費者のほうがこういう商品がほしいということを供給側に伝えるということも可能になっております。今でもインターネットの中にこういう家電製品がほしいというサイトがあって、いろんな人が、こういう形の家電を誰か作ってくれませんかといったアイディアを出しています。
 いずれにしても企業が消費者からの情報を容易に得られるようになりました。それからもうひとつは消費者が他の消費者の意見を聞くことができるようになったことが重要な点だと思っております。
 

3.直販型の企業の出現

 では具体的に、どういう企業が現れてきているのだろうかということですが、電子商取引だと中間業者が無くなって直販型の会社ばかりになるのではないかというイメージもありますが、それはいろいろ産業によって違うのではないかと、私は思っております。
 一番典型的なのがコンピュータです。日本ですとデルコンピュータとかゲートウェイといった直販型の会社がありますが、そういうところでは消費者からの注文があって、部品会社に注文が入って、部品会社から納入されて、組み立てられ、消費者に届くという形態になり、無駄な在庫を持たなくてすむということが可能になっています。
 これはビルト・トゥ・オーダーといいますが、注文があってから作る方式を意味しBTOモデルといわれております。左側のほうは今の既存のモデルで、販売と生産は全く別個に動いています。消費者はまず販売店から商品を購入します。販売部門は商品が無くなってくると生産部門に早く作ってくれと要請します。生産部門はそれが本当かどうか、100個作ってくれと言っているが、あそこの販売セクションは結構間違った見込みでいうからどうしようか。50ぐらいにしておこうか。生産部門もいろいろ考えて製造したりしています。
 このように非常に情報の流れが悪くなっている会社もありますが、BTO直販モデルですとそういうところがないということで、在庫コストが無くなるとか、中間的なコストが無くなるということで、価格が安くなるということがあります。ただこれは業種によって異なってくると思っております。私はむしろ新しい仲介業者というのが今後出てくるのではないかと思っております。
 

4.インフォミディアリーの出現

 普通の中間業者というのはインターミディアリーと言っておりますが、情報を仲介するという意味でインフォミディアリーということになると思います。この人たちというのはむしろ市場の情報を売るプラットフォームを提供するというような事業者と思っています。今までの中間業者というのは物流とか注文とか、そういった受け継ぎが多かったのですが、そうではなくて市場の状況というのを売り手とか買い手に提供して、なおかつそれをベースに売買が進むようなプラットフォームを提供するということで、一番いい例というのが真ん中に書いてあります。
 「ワンストップショップ」といいますが、これはある意味では各社の商品がそのサイトに行けば買えるだけでなく、各社の情報もその場で得られるということです。また商品について質問があればそのサイトで答えてくれたり、あるいは在庫状況等の確認もできます。要するにそのサイトにいけばいろいろな会社にアクセスしなくても全ての情報が得られたり、あるいはいろいろな商品が買えたりできるサイトで、日本でも徐々にできつつあります。
 一番わかりやすいのが「旅の窓口」というインターネットで旅館予約できるところではないでしょうか。この「旅の窓口」ではいろいろな交通機関の情報も出ています。あるいはホテルの情報も得られます。要するに旅に関するあらゆる情報を提供できますというコンセプトで今成長しております。それから「マーシャルインダストリーズ」というのはアメリカのサイトですが、これは電子部品のサイトで、いろいろな会社の電子部品が紹介されています。いろいろなところから見積もりを取ったりする事も簡単にできます。
 こういったサイトが各業界ごとにできてくると考えております。これがたぶんオーソドックスなインフォミディアリーだと思います。もうひとつ最近注目されているのがオークションです。インターネット上でオークションをするということです。オークションというと絵画とか美術品とかのオークションですが、個人間の売買を可能にするシステムと考えています。ですからこれはいわゆるB to B(ビジネス・トゥー・ビジネス)とかB to C、(ビジネス・トゥー・コンシューマー)という観点からみるとC to Cではないかと言われております。
 それからスポットマーケットというのがありまして、これは特に物流部門で注目されています。運送屋さんは帰りの荷がなかったりすることとかが結構多いのですが、空のトラックとか広告スペースとか、明日の航空券とかのすぐ価値のなくなる財をそこで扱っています。もしほしい人がいればすぐに売りますという形で商売をするもので、これもアメリカで普及し始めております。こういった新しい形の中間業者はどういうところがポイントなのかまだまだ見えてこないところがありますが、やはりお客さん側から見て、そこへ行って全てができるという、そういうサイトが一番望まれていると思われます。そういうものをビジネスとして考えることが大切かなと思っております。
 

5.パッケージャーの出現

 今の場合はお客さんが判断をして決めるわけですが、もうひとつは提供側が全て、お客様にとって最善だと思うものをパッケージ化して提供する方法があります。パッケージャーというコンセプトです。例えば自動車を買うという場合を考えてみますと、車はディーラーさんで買って、保険はディーラーさんのケースもありますが、代理店さんへ行くとか、カー用品はオートバックスさんへ行くとか、私たちが車を動かすために、いろいろなところへ行って買っているわけです。
 ところが、確かに車好きな方というのはそういう事をいろいろ凝って、すべてを自分でやっておられる方もいらっしゃると思いますが、考え方によっては車というのは手段であって、目的はもしかしたらどこかへ旅行に行くことかもしれません。そういう目的のための手段であって、車にそんなにパワーをつぎ込む必要はないのではと考えますと、むしろある人がかわりに、あなたのライフスタイルにはこの車がいいでしょう。この車にはこういう装備が必要です。こういう保険がいいです。あるいはこの車を使うならこういうふうに使ったらどうですか。といったことを総合的に提供する人が今後出てくるだろうと言われております。
 必ずしもいい事例はないですが、最近パソコンとインターネットの契約、パソコンのセッティングをパッケージにして提供している会社があります。月4千円ぐらいでインターネットの利用料、パソコンのリース料かレンタル料も入って、それから自宅まできてセッティングしてくれるというサービス全部込みで月4千円といったサービスが出てきております。要するにセッティングをするということ自体がその人たちの目的ではなくて、インターネットを使いたいという目的に対しては、ペンティアムの何メガとかそういうのはどうでもよくて、とにかく使えるものがあればいいということです。このメリットというのはやはりパッケージ化して購入するので個々に調達するよりは安くなるだろうということです。専門知識に基づいて提供されていますので最適だと思います。ただ提供企業から見ると、一番最後に書いて置きましたが、特徴のないものはパッケージとしていれてくれなくなる可能性があるわけで、ある程度他社さんとここが違うというところがきちんとしていないと、こういうパッケージャーさんから扱ってもらえなくなる可能性があります。
 

6.カスタム型生産の出現

 それから最後に、カスタム型生産の出現ということで、今までは消費者と生産者の間の距離が非常に長かったわけですが、これが簡単に先ほどのフラットとかスピードとかいうことになるわけで、迅速に伝えられますのでカスタム型生産が可能になります。これにはふたつの観点がありまして、ひとつは商品開発への反映ということで、今でもいろいろな会社で商品を開発する時にインターネットとか、パソコン通信とかを利用してお客さんから情報をもらって、新しい商品開発を進めておられるところがあります。
 それからもうひとつは先ほどのBTO、パソコンに見られたように量産品ですが、オプションとかを消費者のほうが指定する形です。こういうオプションを付けてくださいということです。このふたつがインターネットによって可能になってくるのではないかということです。これはアルビン・トフラーという経済学者、経営学者が「第三の波」という本で、プロシューマーというコンセプトをだしていますが、これに近いのではないかと言われています。プロシューマーというのは何かというと、実はアルビン・トフラーの説によると、産業革命の前は実はみんなプロシューマーだったと言っています。消費者と生産者が同じで、要するに基本的には自分たちで作ったものを消費してきたというのが産業革命以前の状況ではなかったかと言っています。かなり簡単化しております。産業革命で工場ができましたので、生産者と消費者が分離されて、その中で市場が生まれてきました。それまでは自分で作ったものを自分で食べていたわけで、消費者イコール生産者でありましたが、産業革命でこの形態が変わりました。
 アルビン・トフラーは「第三の波」が何の波かとは書いていませんが、私は「IT革命の波」だと考えております。「第一の波」というのは「農業革命」で、その時期と同じように消費者と生産者が完全に一致はしないのですが、一致する始まりではないかと思っております。
 
 (注)当センターが平成12年3月1日(水)に開催しました「中小企業情報化支援講演会」から抜粋したものです。  


情報誌「岐阜を考える」2000年
岐阜県産業経済研究センター


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