岐阜県における介護保険制度の動向
岐阜県健康福祉環境部高齢福祉課介護保険室
介護保険制度の創設は、高齢者の介護施策の転換になるばかりでなく、社会保障制度の新たな展開であるとともに社会福祉基礎構造改革へとつながるもので、国家的大事業であると同時に、実施運営主体となる県や市町村においても重要なプロジェクトそして位置づけられるものです。
現在本県では、市町村共々本年4月の介護保険制度の円滑な導入を図るため精力的に準備作業に取り組んでいるところであり、同時に、介護サービス提供事業者として予定している医療・福祉関係者においても準備の最終段階に入っているところです。とりわけ昨年10月からは、県内すべての市町村において要介護認定が開始されるなど、準備作業は順調に進んできています。
ところで、介護保険については、介護を必要とする高齢者やその家族ばかりでなく多くの県民の方々が、その行方について深い関心をもって見守っておられます。
T 介護保険制度の見直しをめぐる国の動向
こうした状況の中で、国政レベルで自民党、自由党、公明党3党により介護保険制度の見直しについて合意されたことを受けて、政府において平成11年11月5日に介護保険法の円滑な実施のための特別対策が打ち出され、特別対策に係る補正予算を含めて基本的な方針が先の臨時国会で承認されました。
特別対策の内容は、65歳以上の高齢者(第1号被保険者)の保険料を平成12年4月から9月までの半年間は徴収しないこととし、その後1年間は半減すること、現在ホームヘルパーを利用している低所得者の負担を当面3年間は3%とすること、在宅で重度の要介護者を介護している低所得者世帯に対して、年額10万円のほか介護用品などの金品を支給することなどが盛り込まれています。
今回の特別対策によって準備作業の修正を余儀なくされるものであることから、市町村等に戸惑いもありましたが、社会保険方式のもとで本年4月からサービスの実施が行われることについては何ら変更のないものであり、県・市町村ともこれまでどおり着実に準備を進めていきます。
U 本県の準備状況
◇ 市町村運営体制整備(広域化)の状況
介護保険の保険者は市町村ということになっていますが、要介護認定の地域間の公平性を確保するほか、介護保険事務を効率的に行ったり、保険財政を安定させるため、隣接する市町村が共同して広域的に取り組むことが有効であることから、県では10年度から広域化指導を積極的に進めてきたところです。その結果、県下99市町村が20に組織化されました。
全事務の広域化 |
8 |
*49市町村が8保険者に組織化 |
|
広域連合 |
6 |
安八、揖斐、本巣、益田、高山・大野、吉城 |
一部事務組合 |
2 |
山県、郡上(H12.4から広域連合) |
要介護認定の共同実施 |
8 |
|
|
一部事務組合 |
5 |
海津、中濃、可茂、土岐、中津川・恵那 |
共同実施 |
3 |
羽島、養老、不破 |
単 独 設 置 |
4 |
岐阜市、大垣市、多治見市、各務原市 |
計 |
20 |
*広域化により保険者数は58 |
こうした広域化は全国的にも進められていますが、全事務まで共同化する広域化に関しては、全国で55組織という中で岐阜県は最も組織数(8組織)が多い県です。
◇ 保険料等の状況
介護保険制度の開始にあたり最も関心の高いのがその保険料で、とりわけ65歳以上の第1号被保険者の保険料については、これまで様々な意見が出されたところです。この第1号被保険者の保険料は、市町村(全事務を共同化する広域連合、一部事務組合を含む。)ごとに保険給付総額に応じて設定されます。これを6月時点で試算したところ、平成12年度から14年度までの県平均額は2,432円(最高:3,165円、最低:1,738円)となり、全国平均の2,885円(最高:6,204円、最低:1,409円)と比べると4百円あまり低くなっています。本県の平均額が全国平均を下回る主な要因としては、施設入所比率が低いことが挙げられます。
市町村では、現在、必要な介護給付等対象サービス量の見込みとその確保など、介護サービスの円滑な実施について明らかにする「介護保険事業計画」の作成を行っており、この中で最終的な保険料の額も算定されることになっています。
一方、第2号被保険者の保険料については、各医療保険者が全国平均1人あたりの保険料額に自らの保険に加入する第2号被保険者の数を乗じた額をまかなえるよう、保険料率を設定するなどして医療保険料として一括徴収することになります。
また、本県の介護保険費用総額(本人負担分を含む。)は、平成11年7月時点でサービス量や平均サービス利用額などをもとに試算したところ、平成12年度は約649億円(初年度につき11か月分)と見込んでいます(国全体では4兆3000億円)。
※ 介護保険施設:特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群
◇ サービス基盤整備、介護サービス事業者の参入等の状況
介護保険が、「保険あって介護なし」という状況にならないよう、サービス基盤の充実を図ることは喫緊の課題であるとともに、長期的にも着実に進めていかなければならない重要施策です。県では平成5年度に策定した老人保健福祉計画に基づき、11年度を最終目標年度として基盤整備に努めてきました。その状況は次のとおりです。
〔老人保健福祉計画の進捗状況〕
種 別 |
5年度実績 |
11年度計画 |
整備目標 |
進捗率 |
ホームヘルパー |
1,401人 |
2,658人 |
2,560人 |
103.8% |
デイサービスセンター |
65か所 |
165か所 |
185か所 |
89.2% |
ショートステイ |
464人分 |
1,057人分 |
1,100人分 |
96.1% |
在宅介護支援センター |
25か所 |
146か所 |
145か所 |
100.0% |
訪問看護ステーション |
6か所 |
58か所 |
85か所 |
68.2% |
特別養護老人ホーム |
2,355人分 |
4,005人分 |
3,985人分 |
100.5% |
老人保健施設 |
974人分 |
4,843人分 |
4,940人分 |
98.0% |
ケアハウス |
−人分 |
614人分 |
1,060人分 |
57.9% |
平成12年度以降の整備については、本年度に策定する県の介護保険事業支援計画の中で広域的な見地から介護サービス基盤の目標量や整備方針などを明らかにし、この計画に基づき必要な施設整備や人材育成などを推進していきます。
また、現在こうした整備と並行して、制度の開始に合わせて介護サービスを提供する事業者の指定を行っているところで、12月末で居宅介護支援事業者278件、居宅介護サービス事業者91件の指定を行いました。居宅介護サービス事業者については、平成12年4月からの介護サービス提供開始に向けて今後申請が増えてくると考えています。
居宅介護支援事業者や介護施設のもとで、介護サービス計画(ケアプラン)を作成する介護支援専門員(ケアマネージャー)の養成については、平成10年度に1,454名の実務研修を終了し、本年度は1,071名が実務研修受講試験に合格し、現在実務研修を地域ごとに逐次実施しているところです。要介護者等の人数などから県内で必要な介護支援専門員は約830名と見込まれ、一層の事業者指定と実務研修修了者による就業化が進むと考えています。
介護保険制度は、家族介護から介護の社会化が進められる中で付随的な効果も生まれてきます。介護に縛られて外に勤めにでられなかった女性が働きに出やすくなったり、介護のためにやむなく仕事をやめなければならないような事態を少しでも減らすなど、女性の就業促進・介護離職予防が期待されます。また、介護サービスの市場化に伴い、民間事業者の参入が促進されることによる雇用の創出効果が期待されています。
V 介護保険制度の実施に伴う課題
◇ 要介護認定の公平性の確保
介護保険に対する信頼性を保つには、要介護認定の公平性の確保が欠かせません。そのため、現在いる市町村等の介護認定審査会の委員(800名)及び認定調査員(1,200名以上)の資質向上を行うことにより、県下の要介護認定の均質化を図ることが必要です。県では、昨年10月の要介護認定開始までの8月から9月にかけて、これらの委員及び認定調査員に対し研修を行ったほか、認定調査の指標を統一するためのマニュアルを県独自で作成し、調査員の必携書としました。
◇ 第1号被保険者の保険料の地域格差の是正
県下の市町村等の保険料の試算では、最高が3,165円、最低が1,738円というように格差が1.8倍になっています。県としては、県民ができる限り等しい負担となるよう、保険料の格差を少しでも縮小したいと考えています。
保険料は市町村ごとに供給されるサービスの状況(サービス基盤)を反映したものであることから、保険料の格差はサービス基盤の格差であるという認識のもと、地域間の均衡あるサービス基盤整備を進めることにより、保険料の格差解消に努めることとしています。さらに、広域連合等の広域化による介護保険財政の一本化が効果的であり、引き続き広域化に向けて指導していく方針です。
◇ 要介護認定非対象者に対する支援
現行の保健福祉サービスを受けている高齢者で、要介護認定において「自立」と認定された方は、介護保険からの給付が受けられなくなり、現行サービスを引き続き利用することができなくなります。こうした方は、平成10年度に実施した実態調査をもとに要介護度別人数を推計したところ、要援護高齢者41,132人のうち自立者は3,967人で全体の9.6%になります。
そこで、在宅者の場合は現行サービス水準の維持を図るため、国の「介護予防・生活支援事業」を中心に県単独事業を交えて支援していく方針です。また、施設入所者については、退所者の受け皿づくりとしてケアハウスや高齢者生活福祉センターなどの整備を促進していきたいと考えています。
◇ 低所得者対策
保険料については、所得に応じて5段階(基準額の50%、75%、100%、125%、150%)の保険料率が定められており、市町村では条例によりさらに保険料率を弾力的に定めることができます。
利用料自己負担については、高額介護サービス費により所得に応じた限度額が設定されることになっています。これに加えて、先述した政府の介護保険の円滑な実施のための特別対策において低所得者対策が講じられることになっており、こうした施策を受けて県としても積極的に対応していく方針です。
W 円滑な導入、実施に向けて
制度を円滑に進めるためには適正な実施はもとより、要介護者等の苦情や相談に応じることをはじめ、権利を保護することなどが欠かせません。そこで、次のような施策を主体に対応していきます。
◇ 相談・苦情対応機関の設置・運営
県では、県民の皆様からの介護保険に関するいろいろな相談や苦情に対応するため、 昨年7月に県庁と12の県福祉事務所に「岐阜県介護保険なんでも相談所」を設置しました。
また、こうした相談は身近な市町村や特別養護老人ホーム、介護保険施設に寄せられ ることが多いことから、こうしたところにも相談窓口が設置されるよう指導を行っています。
◇ 介護サービスに対する苦情対応
サービスを受ける場合、現行制度では市町村から施設等への措置・委託により提供さ れるという形態でしたが、介護保険では要介護者が事業者や施設との契約によって受けることになります。また、事業者は、社会福祉法人や医療法人だけでなく、株式会社な どの営利法人やNPO、生協、農協など様々な法人となります。
こうしたことから、要介護者が介護サービスの内容や事業者に関する苦情があった場 合に対応するため、介護保険法において苦情対応機関と位置づけられた国民健康保険団 体連合会や市町村と連携を図りつつ、迅速・丁寧に対処することとしています。そのた め、「岐阜県国保連合会介護保険苦情対応業務連絡会」を昨年8月に設置し、対応方針 を検討するとともに、苦情対応マニュアルを作成していく予定です。
◇ 審査請求への対応
保険者である市町村が行った行政処分(要介護認定など保険給付に関する処分や保険 料等の徴収金に関する処分)に対して不服がある場合、審査請求という形で申し立てが できることになっています。そのための審理・裁決を行う第三者機関として、県に介護 保険審査会を昨年10月に設置しました。介護保険審査会は委員30人体制で、合議体 の形式で審理を行いますが、特に申立が多いと想定される要介護認定に関する処分の審 査請求については、請求者の利便を考慮して、県下5地域(岐阜、西濃、中濃、東濃、 飛騨)に合議体を置いています。
以上、本県の介護保険制度の準備状況を中心に動向を説明しました。こうした準備と並行して、県民に介護保険に対する正しい知識を持っていただくことが介護保険制度を円滑に導入する上で重要であり、広報・普及について引き続き実施していくこととしています。
情報誌「岐阜を考える」2000年
岐阜県産業経済研究センター