−岐阜県におけるプラスチック製品製造業の現状について−

(財)岐阜県産業経済研究センター

1.岐阜県におけるプラスチック製品製造業の地位と特徴

(1)岐阜県におけるプラスチック製品製造業の地位

<1>我が国のプラスチック製品製造業の規模と製品内容

 我が国のプラスチック製品製造業の事業所は、平成9年度の工業統計表によると18,480事業所、従業者数は437,092人、製品出荷額は108,263億円である。
 これらの全製造業に対する比率は、事業所数が5.2%、従業者数が4.4%、製品出荷額が3.4%をそれぞれ占めている。
 また、5年前(平成4年度)と比較した場合、プラスチック製品製造業では事業所数が93.83%、従業者数が97.70%、製品出荷額が96.45%、といずれも減少している。一方、製造業全体も5年前と比較した場合、事業所数が86.30%、従業者数が89.10%、製品出荷額が98.04%の減少である。このように製造業全体に比較してプラスチック製品製造業では、事業所数と従業者数の減少幅は小さく、製品出荷額の減少幅は大きい。
 プラスチック製品の用途は極めて広く、下図のような区分で捉えられる。昨年の全生産量約603万4千トンに占める割合は、フィルム(33%)、機械器具部品(13%)、パイプ・継ぎ手(12%)の順であり、これ以外の用途はだいたい5〜7%の範囲にある。

                プラスチック製品の内容
  (分類項目)          (具体例)  
  「フィルム」………農業用(温室・温床)、スーパーの袋・ラップ等包装用、加工紙など
  「シート」…………包装パック材(たまご・果物用など)
  「板」………………波板、看板、ドアー、止水板など
  「合成皮革」………かばん・袋物、靴、自動車・応接セットのシート、衣料用など
  「パイプ・継手」…水道用、土木用、農業用、鉱工業用など各種パイプ・継手
  「機械器具部品」…家電製品、自動車、OA機器など各種機械器具部品
  「日用品・雑貨」…台所・食卓用品、文房具、楽器、玩具など
  「容器」……………洗剤・シャンプー容器、灯油缶、ペットボトル、ビールのケースなど
  「建材」……………雨どい、床材、壁材、サッシのガラス押え(ガスケット)など
  「発泡製品」………冷凍倉庫・建物などの断熱材、電気機器・精密機器の緩衝材,魚箱など
  「強化製品」………浴槽、浄化槽、ボート、釣竿、スポーツ用具など
  「その他」…………各種ホース、照明用カバー、結束テープなど
 注:通産省「プラスチック製品統計」による。対象品目は適宜見直され、毎年完全には一致しない。
<2>岐阜県製造業におけるプラスチック製品製造業の位置

 岐阜県のプラスチック製造品出荷額は、平成9年度「工業統計表」ベースでは約3,160億円で県全体の製造品出荷額の5.8%を占める。このプラスチック製造品出荷額を従業員1人当りで見ると、25.17(百万円)となり全国9位と高い水準に位置する。
 プラスチック製品製造業は岐阜県の七大産業の一つと言われてきたが、地域の産業構造の特徴を図る指標である特化係数(*)を算出すると、県内産業における順位は7番目に位置し、その値も全国5位にある。また、10年以上前からほぼこの水準が継続している。このように、データからも県の特徴的な製造業であることが裏付けられる。
特化係数の考え方は様々あるが、ここでは以下の式で算出した。
(県のI製造業の出荷額/県の全製造業の出荷額)/(全国I製造業の出荷額/全国の全製造業の出荷額)

プラスチック製品製造業の特化係数の高い県の順位(平成9年)とその推移
県名 プラスチック
製品出荷額
左記が製造業出荷額
に占める割合
特化係数 昭和60年時
点の特化係数
滋賀県 525,007 7.86% 2.34 2.87
奈良県 183,905 7.12% 2.12 1.75
茨城県 725,532 6.12% 1.84 1.68
栃木県 503,015 5.89% 1.76 1.94
岐阜県 316,078 5.77% 1.72 1.83
埼玉県 854,961 5.49% 1.64 1.75
福井県 109,208 5.36% 1.60 1.35
三重県 436,369 5.32% 1.59 1.10

注:出荷額の単位は百万円、平成9年で特化係数が1を超える県は15あるが1.5を超える県のみ記載した。
出所:通産省「工業統計表」平成9年より(財)岐阜県産業経済研究センター作成

(2)岐阜県のプラスチック製品製造業の特徴

 岐阜県のプラスチック製品製造は、昭和26年に岐阜県工業試験場に各種成型機器が導入され、そこでの技術指導に基づいて生産されたのが産業としてのはじまりとされている。昭和30年代は日用雑貨品向けのプラスチック製造が中心であったが、その後、自動車、家電向けが順調に拡大を続け、昭和43年には「岐阜県プラスチック工業組合」が設立されるなど地場産業として発展してきた。
 県の「工業統計」ベースから見たプラスチック製品製造業の現状は下表のようにまとめられる。次に業界の特徴について簡単に触れることにする。

岐阜県プラスチック製品製造業の現状     平成9年(単位:人、百万円)

出所:岐阜県統計調査課「工業統計」平成9年より(財)岐阜県産業経済研究センター作成

<1>製品特性

 上表から岐阜県のプラスチック製品出荷額は「工業用プラスチック製品」、「プラスチックフィルム・シート等」、「その他のプラスチック製品」の3分野で7割を占め、主力製品であることがわかる。さらに製品特性を調べるため、通産省「工業統計表」の細分類38品目ベースを見ると、岐阜県では33品目について出荷実績がある(次頁の表参照)。これらについて出荷額比率の全国ベースと岐阜県ベースとを比較し、岐阜県の方が全国より高い品目は以下の9品目となっており、これらが岐阜県として競争優位を持つ製品と考えられる。
細分類の品目名 該当する一般的分類 全国販売額に占める
岐阜県シェア
・プラスチックホース 「その他、(ホース)」 4.9%          
・プラスチック継手(バルブ、コック) 「パイプ・継手」 10.2%
・軟質プラスチックフィルム(薄硬質) 「フィルム」 7.0%
・輸送用機械用プラスチック製品 「機械器具部品」 4.2%
・軟質プラスチックフィルム発泡製品(厚板) 「板」 4.5%
・その他の硬質プラスチックフィルム発泡製品 「発泡製品」 6.2%
・再生プラスチック成型材料 主として「シート」 8.8%
・廃プラスチック製品 主として「建材」 3.7%
・その他のプラスチック製容器 「容器、(カップ等)」 4.6%

 また、今回出荷実績のなかった、プラスチック平板(薄硬質)、プラスチック積層品、プラスチック雨どい・同付属品、プラスチックタイル、硬質プラスチックフィルム発泡製品(薄板)の5品目は、昭和55年(1980)頃から出荷実績がない。つまり、製造技術がないか採算が合わない等の理由により生産が行われていない訳で、岐阜県には競争優位がほとんどない製品と考えられる。

岐阜県と全国のプラスチック製品製造業の品目別出荷額と構成比(平成9年)

注:岐阜県の「全体に占める割合」の網掛けは全国より高い出荷比率。岐阜県の「出荷額」のなしは出荷実績が
ないことを、×は金額が僅かで事業所が特定されるためデータが未公表であることを示す。
出所:通産省「工業統計表」平成9年より、(財)岐阜県産業経済研究センター作成

<2>製造技術

 プラスチック成形加工は射出成形、押出成形、圧縮成形、中空成形、熱成形、発泡成形、インフレーション成形、ビニール加工など変化に富んでいる。
 岐阜県では昭和50年代後半まで、射出成形を中心にほぼ全ての加工実績があり、日本のプラスチック産業のミニチュアであったとも指摘されている(*)。
 現在の製造技術ついて、岐阜県プラスチック工業組合のホームページから加盟企業の主たる設備欄の内容を見ると、大半の企業が射出成形のみを挙げており、他の成形加工を主として行っている企業数は少なくなりつつある。
 射出成形について岐阜県プラスチック工業組合では、能力開発協会から『プラスチック射出成形技能検定』を受託・実施している。ここ数年、1級受験資格者(2級合格後5年を経過した者、12年以上の実務経験を持つ者)の増加と共に1級の受験者が増加しており、就業者の技術向上への意欲は高い。
*岐阜県プラスチック工業組合、「岐阜県プラスチック業界の技術集約型産業への移行」 昭和56年

工業組合加盟企業の主たる設備内容の多い順位

注:組合加盟の96企業(10年末現在)の内、93企業が設備を明記している。複数の加工成形を挙げている企業も
あるため、合計は100%を超える。発泡成形は1社のみ。押出成形には真空成形、インフレーション成形を含む。
出所:岐阜県プラスチック工業組合のホームページより(財)岐阜県産業経済研究センター作成

<3>需要先の特徴

 冒頭で触れたように、プラスチック製品は自動車のバンパーからコンビニのレジ袋まで日常生活のあらゆる場面で利用されるため、プラスチック製品の需要先となる業界は多岐にわたる。
 岐阜県プラスチック工業組合のホームページから加盟企業の需要先の品目を見ても、極めて多様な分野をカバーしている。それらの中でも割合の高いものを挙げると、電機部品、自動車部品、日用品・雑貨、工業部品・資材、刃物部品等になっており、加工組立型製造業を需要先とする企業の割合が多いことが特徴である(次頁の図参照)。

工業組合加盟企業の主たる需要先上位7分野

注:需要先業種として挙げられている190項目を再分類して算出した。需要先としている企業数の割合順位であ
り、総計では100%を超える。また出荷金額とは無関係である。
出所:岐阜県プラスチック工業組合のホームページより(財)岐阜県産業経済研究センター作成

<4>従業員数で見た企業規模

 岐阜県のプラスチック製品製造業は、事業所全体として見ると大半が下請けで、零細だと言われてきた。県内の従業者規模別の事業所数の推移を見ると、5年前も現在も従業員9人以下の事業所が7割を超える一方、30人以上の事業所は1割に満たず、ほとんど構造は変わっていない。

2.最近の岐阜県プラスチック製品製造業の動向と課題

(1)出荷量の動向と影響

 岐阜県のプラスチック製品の出荷量の推移を生産動態統計(従業員40名以上の事業所対象)で見たのが下図である。97年から98年にかけて「フィルム」が微増した以外は全て減少している。特に金額ベースでは主となる「機械器具」の出荷数量は3年ぶりの前年比減となっている。これらは耐久消費財を中心とした需要先業界の景況に依存し、プラスチック製品製造業界の景況はその動向に大きく左右される。
 「フィルム」については全国的にはフィルムを主製品とするプラスチックメーカーの業績が悪化していると言われる。特に石油化学メーカーから資金や人材面での援助を受ける、いわゆる「系列メーカー」は石化メーカーの方針に依存した少品種政策のため、輸入品の拡大による価格低下から収益悪化に悩んでいる状態にある。
 岐阜県内には、主たる設備内容から明らかなようにフィルムを主製品とするプラスチックメーカー自体は少数にあり、かつ「独立メーカー」であるため全国に比較して影響は小さいと考えられる。


注:製品内容は適宜見直され、毎年完全には一致しない。
出所:通産省資料より(財)岐阜県産業経済研究センター作成

(2)今後の課題

<1>中小事業所に対する構造調整策

 既に見たように、プラスチック製品製造事業所の大半は従業員9人以下の零細事業所である。これらは金型、材料支給の賃加工業態と見られ、大規模なプラスチック製造企業の二次加工業として存在意義を持ち続けてきたと考えられる。
 昨年夏、こういった従業員10人以下の小企業を対象に岐阜県プラスチック工業組合が実施した「小企業経営動向調査」(対象46社)によると、昨年度の売上加工額は一昨年同期に比べて70%の企業が減少、同数量では76%の企業が減少、56%の企業が操業率の大幅低下と回答している。また平成11年の見通しについても33%の企業が売上額、単価、数量ともに低下すると予想するなど厳しい環境にある。
 このように加工技術についての競争が厳しいため、小企業の収益悪化がかなり厳しいことを伺わせる。同調査によると経営上の問題点として、工賃の低下と設備の老朽化を挙げる回答が大半であり、不況化の中で近代化がうまく進展していない(*)。
 当然ながら事業縮小や転・廃業を検討している回答もあり、雇用対策などの構造調整政策が本格的に求められることになろう。
*岐阜県プラスチック工業組合、「岐阜県のプラスチック」第147号の分析を参照した。

<2>リサイクル・環境問題への対応

 平成12年より容器包装リサイクル法の対象が容器包装製品にも及び、また大企業にだけ課されていた再商品化の義務を中小企業も負うことになる。このため油化処理装置などの初期投資コスト負担等について対応策の検討が求められている。
 またダイオキシン忌避や環境ホルモン問題によって、消費財の新たな素材選択がはじまっている。この結果、従来はプラスチックを用いていた容器、部品、机などで、従来のプラスチック以外の素材への移行が今後も進展すると予想される。
 したがって、プラスチックの内需総量が景気とは無関係に減少経路に向かう可能性も少なくなく、従来の汎用樹脂について加工成形を主として行ってきたプラスチック製品製造企業は新たな素材に適応した製造技術が求められることになろう。