資質の高い人材を育成し、
国際的に通用する組織に
マナ板の鯉
坂井哲史
株式会社 焼肉屋さかい代表取締役会長
料理人
藤掛庄市
岐阜大学教育学部教授


 「岐阜を考える」は、第一線で活躍されている方に登場していただき、掲載内容が読者の社業発展の一助になれば、と設けたものです。
 今回は、東海三県下を中心に焼肉屋のFC展開を積極的に行っている(株)焼肉屋さかいの坂井哲史会長を、岐阜大学の藤掛庄市教授に料理していただきます。


「インターネット利用し、アメリカからも人材を」


藤掛教授
 藤掛 各務原市は市長をはじめ人材育成に熱心で、私も教育懇話会の一員として関わっています。坂井会長も資質の高い人材育成に格別熱心と聞いていますが。

 坂井 “飲食店だから労働集約産業”という観念では、これからは勝ち残れませんよ。経営者が会社の方向をきちんと出して、レベルの高い人材を採用し、いい仕事をやってもらう。この辺りが今後、明暗を分けると思います。現在、社員の半数が大卒者だし、今後もさらにレベルの高い人材を採って、国際的にも通用する組織造りを目指していきます。

 藤掛 人材育成では具体的にどんな事をイメージしているのですか。

 坂井 変化に対してスピーディに対応することが大切ですね。これにはの高い人材を育成する必要があります。ヒラメキを持つ人材が、会社の将来を大きく左右すると思われるので、中枢にはそんな人間を配置していく方針です。やはり資質の高い会社にするには、良いシステムをつくるだけでは駄目で、質の高い人材を配置できるか否かにかかっていると思いますよ。
 このため、インターネットで人材募集を行うことも考えていますし、ゆくゆくはアメリカにも流して、優秀なビジネスマンを確保したいですね。

 藤掛 ところで、業態は焼き肉だけだと思っていたのですが、イタリア料理も手掛けているのですね。

 坂井 飲食関連は時代のトレンドを先取りしていく仕事で、ライフスタイルがマーケットとオーバーラップしています。最近は洋食化がどんどん進んでおり、イタリア料理が日本のライフスタイルにはまってきました。このため、ピッツア&パスタのイタリアレストラン「ロッソえびすや」を開店したわけです。現在、4店目ですが、どの店もお客がいっぱいで、焼き肉店に負けないくらいの繁盛ぶりです。


「まずは200億円達成 アメリカで食品製造も」


坂井会長
 藤掛 本部の『J・ア−ト』というのは、どんな意味があるのですか。

 坂井 結論から云えばゴロ合わせです。でも非常に響きがいいでしょう。かのソニーにしても、会社内容もさることながら、響きが良いことも知名度向上に一役買っていると思うのですよ。また、JRと間違えそうだといいますが、それならJRよりも有名になれとハッパをかけているところです。

 藤掛 それにつけても、よく英語が飛び出しますね(笑い)。

 坂井 近い将来には、海外に進出したいという夢を持っているのです。限られた人生で、大きな目標を掲げて生きるのも楽しい事じゃないですか。
 また、飲食店はスケールメリットの商品なので、夢を実現に近づけるための第一目標を、200億円達成に置いています。会社が生き残っていくための最低条件ですね。店舗数も2000年には直営店、FC店を合わせて200店にしたいものだと張り切っているところです。

 藤掛 海外進出というのは、アメリカに焼肉店を出そうというのですか。

 坂井 飲食店を出す気はありません。食品の製造や仕入れなどを考えています。その時は多国籍企業と付き合っていき、どんどん海外情報を収集していきたいですね。そして株式公開したら「焼肉屋さかい」からは身を引くつもりです。
 他にやりたいことがいっぱいあるし、「ロッソえびすや」も軌道に乗りつつあり今後、50%の確率でテーマになると思います。やる事がどんどん変わっていくので、せっかちで移り気と云われます。やはり“機を見るに敏”の通り、時代の流れを掴むには、せっかちで動きが早くないと駄目ですね。

 藤掛 新しいテーマに挑戦する時は、スタッフはどうするのですか。

 坂井 一部を除き新しい人材を投入しています。そして力がある社員を育成強化していくのです。そういった意味でも、これからは年功序列はなくなり、能力主義に変わっていきますよ。

 藤掛 焼肉屋さかいの店構えは、どこからでも目につきますね。

 坂井 政策的にやっているのです。おいしい店はいくらでもあるので、いかにインパクトを出すかに腐心しました。ケバケバしいとも云われますが、いかに差別化するかが大切で、人目を引くことをしなくてはね。その点、デザインのライジングサンも同様ですよ。


「恰好と面白さの演出でちょくちょく朝令暮改」

 藤掛 デザインを見ただけで、元気が出てきそうだよね。

 坂井 今の社会は元気がなさすぎますね。士気を鼓舞するためにも、名前に響きがあって、人目を引くようなカラーやデザインが必要なのです。特に若い人は格好よくて面白さを演出しないと、お客も社員も乗ってきません。保守性を打破して、どうして進化・変化させていくかが課題でしょうね。
 それに5年計画とか、10年計画といいますが、変化が激しい中ではとても10年先は読めませから、ちょくちょく途中で変更します。

 藤掛 私の研究室のモットーは“朝令暮改”です(笑い)。計画は立てるのだが、同じようにすぐ変更です。ただ、朝令暮改するためには、広いネットワークを持っている必要がありますがね。

 坂井 周囲は大変だろうが、激しい変化の時だけに臨機応変な対応が必要ですね。そうはいっても、リスク防止には手を打っています。

 藤掛 「焼肉屋さかい」は、グループでまとまって飲食できるのもいいですね。

 坂井 おいしい物を安くといったことは、どこでもやっています。そんな中で場造りに力を入れているわけです。良い雰囲気で飲食したいという要望が多いからですが、それに押し付けでない文化の醸成も目ざしています。現在、仕掛け中です。カルチュベートされて、それが目に見えない所でお客さんの感性に訴えるといったことを狙っているわけです。これからはおいしい物を安く食べて帰ってもらうだけでは、駄目だと思っています。

 藤掛 話を伺っていると、絶えず考えて居られるのですが、余り考えると髪の毛が薄くなりますよ(笑い)。

 坂井 私はほとんどを権限委譲していますが、それでも中小企業にとってトップの力量が大きく左右します。今後ともクリエイティブな発想で、アグレッシブな経営に取り組んでいく方針には変わりありませんよ。

(対談は約1時間におよんだが、マナ板の鯉の坂井会長の口からは、速射砲のように言葉が飛び出し、藤掛料理人も鯉を取り押さえるのに、おおわらわだった)。

 藤掛 今日の鯉は格別勢いがよくて飛び跳ねるので、思うように料理できませんでした(笑い)。


会社概要

■株式会社 焼肉屋さかい
■本社所在地 
 岐阜県各務原市蘇原東栄町2−103
■設立
 昭和55年5月
■資本金
 1億3760万円
■事業内容
 ”焼肉屋さかい”直営、フランチャイズチェーン本部
 ”炭焼さかい”直営、フランチャイズチェーン本部
 ”炭火焼ほほほ”直営
 ”さ とんかつ本舗”直営



情報誌「岐阜を考える」1998年冬・春合併号
岐阜県産業経済研究センター


今号のトップ メインメニュー