平成8年度調査研究

アジアの経済発展と岐阜県産業の国際化支援策



 経済のグローバル化が急速に進展する中で、特にアジアが世界の成長センターとして目覚ましい発展を続けており、こうした中で我が国産業のアジア展開が進み、東アジア化ともいうべき状況となっている。
 岐阜県においても生産拠点の海外移転が現在はアパレルを中心に中国などに集中しているが、今後は機械・金属業でアジアとの連携が進むとみられる。
 当センターは平成七年度において、岐阜県産業の国際化対応と行政支援策を検討し、岐阜県産業がアジアとの産業リンケージを積極的に構築すべきであるとして「アジア・リンケージ・センター岐阜」構想を提唱した。そして、今年度は、この研究成果を踏まえ、当センター内に国際経済、国際協力の専門家、県内の海外進出企業の経営者などからなる「アジア・グローバル化戦略研究会」(委員長 井上隆一郎桜美林大学教授・ジェトロ客員研究員)を設置し、アジアの経済・投資環境、アジアと日本の生産ネットワークの形成、岐阜県産業の国際化支援策などについて六回に亘る研究会の検討を経て、報告書「アジアの経済発展と岐阜県産業の国際化支援策」がまとめられた。
 今回のレポートではこの研究会の成果の中から、岐阜県産業の国際化支援策として一二項目の提言を紹介する。

 経済のグローバル化が急速に進展する中で、とくにアジアが世界の成長センターとして高成長を持続している。こういう中で、日本企業は、アジアを含むグローバルな視野で生産ネットワークを形成しつつある。反面、日本の地域経済、中小企業がシワ寄せを受け、産業空洞化の不安が生じている。中小企業や地域経済の活力回復には、差別化、専門化、高付加価値化などとともに技術、経験などの蓄積を活かして、アジアのビジネスチャンスへの挑戦やアジアとのチャネルを作りアジアの経済の活力を日本に呼び込むという姿勢が必要である。
 県内企業をみると、アパレルなどの海外進出が進んでいるが、今後は機械金属分野の 海外進出・連携が課題となると考えられる。一方、外国企業を県内に誘致し、双方向型のビジネス交流を図ることが大きな課題となってこよう。
 県内産業の国際化対応は基本的には企業であるが、行政として支援すべき点も少なくない。このような観点から、行政の国際化支援策として、以下の一二項目を提言する。

1 「国際ビジネス支援センターぎふ」(仮称)の設置
 現在、県内企業の国際的なビジネスに対する支援は、県内の公的機関としては(財)岐阜県中小企業振興公社が中心であり、アジア六ヶ国とのビジネス交流の実施、途上国からの経済研修の受入れ、岐阜県からの経済ミッションの派遣など、政府国際関連機関、国際機関、アジア諸国の在日大使館と連携しながら、積極的に推進している。
 しかしながら、今後県内産業の国際ビジネス交流は経済のグローバル化の進展に伴って交流相手国がますます拡大するとともに交流形態も多様化が予想されており、現行の支援体制では対応が困難となる。このため、岐阜県産業の国際化対応を総合的に支援する専門機関として「国際ビジネス支援センターぎふ」(仮称)を設置し、体制の強化を図る必要がある。

2 日本貿易振興会(ジェトロ)機能の活用
 ジェトロは、海外、国内のネットワークの下に、情報提供、ビジネスの相談・斡旋など各種の海外ビジネス支援サービスを提供している。地域経済の国際化を進めるには、各地域の独自の取り組みと並行して、こうしたジェトロの機能を最大限に活用することが効果的であり、各地域にジェトロの貿易情報センターの設置が進み、国際産業交流の促進、 輸入促進、海外事業展開の支援などの業務が実施されている。
 岐阜県においても、ジェトロの貿易情報センターを県内に設置し、県内企業、県の公的機関などがジェトロの機能とネットワークを十分に活用しつつ、岐阜県産業の国際化を進めることが必要と考えられる。

3 政府関連機関、国際機関との連携、国際化支援制度の活用
 中小企業の海外進出・交流については、政府関連機関、国際機関等で、海外からの研修生受入、海外への技術者の派遣・資金支援などさまざまな支援制度があり、これらの利用を図ることが有益である。
 例えば国連工業開発機関(UNIDO)東京投資促進事務所では、近年地方自治体、関連団体との協力の下に事業を展開しているが、途上国の工業開発促進の一環として中小企業を対象とする海外投資のFS(フィージビリティ・スタディ)助成制度を実施し、現地情報の収集、市場調査の実施、財務分析、費用などの面でサポートしている。こうした 技術協力機関の事業をより有機的に岐阜県に結び付けることが必要である。

4 県内企業の海外進出の支援
 日本企業の海外進出に当たっては、海外進出の準備段階、事業運営段階などでさまざまな課題があり、トラブルが生ずるケースもある。とくに県内の中小企業の場合は、現地情報の収集、人材、資金面などが不足がちである。海外進出の行政面での支援策は、昨年の報告書「岐阜県産業の国際化対応戦略とその支援策」で提言されたところであるが、県の公的機関が各国大使館、政府国際関連機関、国際機関と連携しつつ、側面から支援することが必要である。

5 外国企業の県内誘致の促進
 日本企業の海外進出が急増しているが、一方で外国企業の対日進出を促進し、双方向で投資を交流することが今後の大きな課題である。このため、欧米、アジアなど外国企業が進出するよう日本の投資環境を改善する一方、岐阜県の投資環境の優位性などの魅力を PRしながら、進出を誘致する。

6 外国企業とのアライアンスの促進
 今後はグローバル化の進展、情報通信の発達もあって、国内外の境界を超えて企業間連携が進むとみられる。こうした企業間連携を促進するには、県内企業と外国企業とのマッチングができる仕組みづくりをするとともに県内企業の技術力向上のため内外のR&D機関や国内の工業集積地域の企業群との連携などを支援する。

7 情報通信環境の整備
 世界が急速なスピードで高度情報化社会に変わりつつある。産業界においても国際的な取引や設計・研究の共同化を進める場合に、EDI(電子的データ交換)などの動きが進展するとみられ、県内企業の情報化の促進が国際化対応の観点からも不可欠である。また通信回線など情報通信インフラの整備を図ることが必要である。

8 国際物流拠点の形成
 岐阜県は国際物流については内陸県で空港がないことから拠点整備が遅れてきた。しかし長年の懸案であったインランドデポ(内陸税関)については昨年事務所が開設された。今後は関地区が広域物流拠点として、ロジスティックセンターなどの整備が計画されているが、国際的な物流への対応という観点からも魅力度を高める必要がある。また全国各地で輸入促進地域(FAZ)で基盤整備が進められ、地域経済活性化が期待されているが、現行法ではFAZの指定地域が港湾・空港地域に限定されており、今後の検討課題となろう。

9 県派遣海外駐在員の活用
 ボーダレスの時代となり、地域が海外と直結する時代となった。県海外駐在員は、その最前線にあるが、全国の自治体の中でトップクラスの派遣数となっている。海外駐在員の役割は、単なる職員研修や受け身の情報収集にとどまらず、経済、技術、教育などの各分野における積極的な協力関係づくりを担っていく必要があり、県内企業のビジネス支援面での積極的な役割が期待される。

10 外国語に強い人材の養成
 県内の学校教育において外国人教師を配置し少数精鋭で集中学習するほか外国での生活経験の機会を増加するなどによりバイリンガルを輩出する。

11 県市町村の海外との姉妹都市提携の推進、商工団体との連携
 県、県内市町村で海外との姉妹都市、友好交流提携を行うなど国際交流が進展しているが、県内企業が国際ビジネスを展開する際の手がかりともなりうるもので、ビジネス振興の視点からも活用を図る。また海外からの研修生受入事業などで商工会議所・商工会との連携を図る。

12 発展途上国への支援
 日本は、発展途上国に政府開発援助(ODA)を供与しているが、近年は民間のNGO(非政府機関)などのいわゆる草の根の交流も活発となっている。こういう中で、地方の行政機関としても支援に関して、各種の制約があるが、可能な国際貢献を行うとともに、海外事業経験を持つ会社退職者等を組織しての途上国企業への技術支援・指導の実施など政府に対して支援策を提言することも必要である。



情報誌「岐阜を考える」1998年冬・春合併号
岐阜県産業経済研究センター


今号のトップ メインメニュー