(写真右は梶原岐阜県知事)
(株) 船井総合研究所 船井 幸雄

1933年大阪府生まれ。京都大学卒業。世界有数の独立系シンクタンクの経営コンサルタントとして流通業界を中心に永年、大手企業の経営指導に携わり劇的な成果を収める。講演活動を精力的にこなす傍ら、1万人を超える経営者との本年レベルの付き合いを通じ、人生のコツ、経営のコツをまとめた著書を多数発表

 

 昨年の8月、私は高鷲村での「分水嶺サミット」に出席し、岐阜県知事の梶原さんとともに長時間にわたって実に多くのことを話す機会がありました。それから半年後の今年の2月25日、「岐阜県ルネッサンス’95」というセミナーに招かれました。会場の岐阜グランドホテルは、モニタールームも含め2500名以上の人がつめかけ、500名ぐらいお断りしたもようです。岐阜県でも最大級のイベントとなりました。(来年の3月頃にはルネッサンス’96が開催されるようです。)
 世の中が大きく変化しているなかで、岐阜県でも沢山の人が勉強好きになり、素晴らしい21世紀を迎えようと考えていることがわかり、本当に嬉しくなりました。梶原知事を筆頭に、岐阜県の持つ長所を活かし、岐阜県が日本全体を変えるような発信地になってほしい。そう考えています。
 これから数回にわたり、私が経営者兼第一線のコンサルタントとして永年培ってきた経験と経営法をお伝えしたいと思います。

 

1、現在は移行期、ルールは変わった

(1)予期しないことの続出

 私は国内だけでも四千数百社という顧問先との本音の付き合いを通じて世界中の動きを見てきました。その立場から現在の特性は次のようなことではないかと考えています。まず一つめには予期しないことが続出しています。具体的に言うと、1989年11月にベルリンの壁が崩壊した辺りから、政治、経済、社会、技術、科学というように各分野で、予期できない変化が多くありました。
 その後ソ連の消滅、下がるはずのないといわれた土地価格の下落、予想以上の円高、そして神戸の大地震。しかもそれらは年とともに増えてきつつあります。

(2)続出する矛盾

 さらにそれに匹敵する大事なことは、社会制度の矛盾がどんどん出て来ていることです。例えば戦争が起きたり今度のような大災害が起きたら、資本主義は景気が良くなります。われわれが資本主義社会を維持し、景気を良くしようと努力すればするほど、自然を破壊し、人類の将来を破滅に導くことになるのです。景気をよくするのに他人の不幸によらなきゃならないというのは、大きな矛盾です。またその矛盾は調整しようがないところまで大きくなってしまっているのです。
 このように予期できないことや矛盾が出てきたいま、これまでの考え方、いわゆる近代的思想では目先のことさえ予想できなくなりました。いわんや将来のことなどはまったく見えないのです。これは一体どういうことなのでしょうか。その理由は、私は「世の中の流れが変わった」からだと思っています。その「流れ」を読めないから予期しないことが続出するように見えるのです。私の研究によりますと、世の中の事象はすべて必要、必然、ベストの現象と考えるのが正しいようです。また、一つのルール(流れ)に従って動いています。つまり、数年前から地球が変わり、人が変わったといえるのです。というより、地球や人々の目指す流れが変わったのだと思います。

講演する船井氏

2、「本物」の続出

(1)本物の技術

さらにここ数年「本物」が続出しました。本物というのはいいことばかりあって悪いことがないことです。この岐阜県に電子物性総合研究所という会社があります。楢崎皋月さんというとんでもなくすばらしい先生が見つけられた「静電三法」という理論をもとに、電子物性技術の開発を続けている企業です。これはすばらしい本物技術のひとつです。

(2)本物の人

 そのほかにも具体的な例を挙げますと、サザン・メソジスト大学教授の経済学者ラビ・バトラ博士がいます。私の会社(株式会社船井総合研究所)で主催する「フナイ・ミーティング」(*注参照)というセミナーに昨年講師の1人としてお招きし、1994年10月から2010年までの予測を語ってもらいました。彼はここ数年、共産主義の崩壊や1990年の東京株式市場の暴落など、その発表した予測がほとんど当たっているといわれています。彼は毎日3時間から6時間くらい瞑想をして答えを得るのです。私はラビ・バトラさんの一見大胆とも見える慎重な予測態度を評価し、彼のいうことが私の直感や理論とも多くの点で符号しますので、彼に注目をしています。

(3)本物の生き方

 人間はどう生きたら正しいかという本物の生き方、本物のノウハウということかはっきりと分かってきました。「脳内モルヒネ」というモルヒネと同じ働きをするホルモンが脳から出ている時の人間は非常に楽しくなります。体が若返り、病気が治り、つきがついて、良いことばかりが起きます。だから脳内モルヒネが沢山出るような生き方をしたらいいということがわかってきたのです。そのちょうど逆の生き方をする、つまりの脳からノルアドレナリンというホルモンが出るようなときは体の調子が悪くなり、人相も悪くなり、つきもうまくいかず、人間関係もうまくいかないようになるのです。一番ノルアドレナリンが出る方法は呪うことです。「あいつ、うまいこと行かなかったらいいがなあ」と思うと、思った人も思われる人もこれが出ます。思った人だけでなく、思われた人も出るから大変なのです。しかも、どれくらい脳内モルヒネやノルアドレナリンが出ているか機械で見られるのです。脳波計という脳から出る波を測る機械を使います。一秒間に一回脳波が振動することを1ヘルツというのですが、0.4から4ヘルツをデルタ波、4から8ヘルツをシータ波、8から13ヘルツをアルファ波、13から30ヘルツをベータ波、30から上をガンマ波といいます。熟睡中はデルタ波なのです。居眠り中はシータ波、リラックスしているときはアルファ波、起きて活動中はベータ波、興奮したらガンマ波。これと脳内のホルモンが関係あるのです。脳内モルヒネが沢山出ているときの脳波はだいたい10ヘルツぐらいより下のアルファ波。あるいはシータ波、デルタ波が出てくると脳内モルヒネがいっぱい出ているんです。それから20ヘルツぐらいより上の方ですと、ノルアドレナリンが沢山出ているのです。

(4)船井流、長所伸展法

 私が見つけ出し、実践している経営法を”船井流経営法”といいますが、そのひとつに”長所進展法”というものがります。これは、私がお店に行ったあくる日から売り上げが3割くらい上がります。まず「いいお店ですね」と言います。相手を気持ちのよくなる言葉を投げかけたら、投げかけた方も投げかけられた方どちらも脳内モルヒネがボッと出ます。その次に「何が一番売れていますか」と聞きます。売れているというのはついている商品です。ですからその商品の売場面積をちょっと広げ、店頭在庫料も広げなさいと言うのです。次に「何が一番効率がいいんですか」と坪当たりの売り上げの一番いい商品を聞き、あと5%ぐらい売場面積を広げ、商品の店頭在庫を1割ほど広げたらどうかと薦めます。次に「何が一番自信があるんですか」「何が一番得意ですか」と尋ねますと、あくる日から売り上げはぐうっと上がります。ほめたら女性もあっという間にきれいになります。自分の奥さんをきれいにできない男というのは、奥さんの欠点ばかりいう男です。ほめてあげると一生きれいになって、一生懸命働いてくれます。反対に絶対にやってはいけないことが、短所を指摘することです。欠点を見つけて是正しろというのは、自分も年をとり老化し病気になります。そして言われた方も駄目になります。

(5)より上位の意志、天の意志

 私が過去何十年間かこのコンサルタントという商売をやってきた一つの結論なのですが、まさかのときは天の意志が働きます。私はどういう因果か今までに1万人ぐらいの方から裸で相談を受けてきました。普通の方は一生涯に20人くらいの方からしか本気で相談を受けないと言われています。そういう立場から見ると、まさかというとき、一大事のときにはとんでもないことが起こるのです。それが非常に大事なことだったら、天が助けてくれるのです。そんな例は百ぐらいあっというまに挙げられます。いまの地球はまさかのときになっています。フロンでオゾン層に穴を開けたことから始まり、温暖化現象とか、とんでもないことがいっぱい起こっています。だから、予期しないことばかりが起こるというのは、天の意志が働いたと思うのです。

 

3、いよいよ分水嶺にさしかかった人類

(1)いまなぜ分水嶺か

 私はこの2月に「未来への分水嶺」という本を書きました。分水嶺とはいったん越えてしまうと元には戻ることができません。他の流れに入り変えることは不可能でしょう。しかも西暦2000年までに、われわれはどちらかの流れにいやおうなく入らざるを得ないようです。でも、今はまだ分水嶺にさしかかったばかりで、これからなのです。将来のことは神様が決めてもそうはなりません。それから我々が考え方を変えて、いい方に入ったらよくなる。悪い方に入ったら悪くなる。その意味では、今後数年間が人類にとってもっとも大事な時のような気がします。今起こっていることを見ると、予測しないことばかりですが、本物の技術が出てきたり、とんでもない良い方向へ向かいだしたような気がするのです。悪いことをする人もいますが、良心に目覚めた人間もいる。だから、今差しかかったばかりの分水嶺にどう生きたらいいかを書いたのがこの本なのです。

(2)分水嶺に生きる

 まず1つは、正しい生き方をすること。これは簡単です。人の足を引っ張ったり、競争したり、自分だけ良かったらいいとかいう生き方でなく「マクロの善人間」として生きて欲しいのです。自分だけでなく自分以外の人間、目先だけでなく将来これでどうだろうかと考えて欲しいと思います。
 2つ目は本物に触れること。岐阜県は梶原知事はじめ皆さん本当に本物のことが好きです。梶原知事は岐阜県を中心に日本を変え、世界を変えてやろうというぐらいのやる気があります。私の本はここ数年、1冊の中に本物らしいものを20も30も書いています。できるでけ本物を知って本物と付き合って欲しいのです。
 3つ目は将来に対して大きな夢を持って欲しいのです。人間の思いは実現します。思いを実現させる方法はわかっていて、思ってことがイメージ化できて確信を持ったら実現します。プラスの確信を持つような思いをたくさん持って欲しい。将来に対して勉強して大きな夢を持って欲しいのです。

(3)トップの条件

率直に言って企業の盛衰は、トップ1人で99.9%決まります。1990年までは、事業を拡大して利益を上げる経営者には共通する特徴がありました。我欲が強く野心家で、策略が上手で競争が好き、勝つことに生きがいを感じるタイプの人が成功しました。だが1990年のバブル崩壊を境に、トップ経営者の条件、言い換えればもうかる条件が変わってきました。我欲から公欲、競争よりも共生、策略よりも正々堂々、そして社会貢献が先にくるようになりました。もう少し具体的にいいますと、次の6つの条件が挙げられます。
 第一条件が世のため人のためになること。第二条件が良心が痛まない。第三条件が自然を壊さないようにする。第四条件が自然を良くする。第五条件が担当する人が喜ぶこと。第六条件が一緒にやる仲間の値打ちを下げないこと。そういう条件にかなうことをやるともうかるのです。以前の高度経済成長の時にこういうことをやっていたらもうかりませんでした。ですから世の中の流れが変わったのです。昔は分離して考えていたのが今は融合して考える。秘密だったことが公開へ。浪費から節約へ。エコノミーからエコロジーへ。そして競争から共創へ。これらは経済に限らず政治にも、そして生き方すべてに言えることなのです。こういうことを皆さんがおやりいただくと、多分素晴らしい21世紀ができます。しかも岐阜県がその発信地になれる可能性も非常に高いのではないかと思います。次号では、それでは具体的にどのようにしていけばよいかを考えていきたいと思います。

 

※注「フナイ・ミーティング」

(株)船井総合研究所が主催し、時の話題のゲスト講師を迎えて船井幸雄が中心になって行う最も大きな一般人向けのセミナー。毎年10月に東京と大阪で開催。’95年度の開催予定は10月13日(大阪)、10月27日(東京)