6 エネルギー、食糧

エネルギー・資源そしてエネルギー技術の展望


内山洋司
( (財)電力中央研究所 経済社会研究所 上席研究員 東京工業大学大学院 人間環境システム専攻 客員教授 )


1. 21世紀は本格的なエネルギー消費時代
  エネルギーを本格的に使い始めたのは20世紀に入ってからである。 それまでの世界のエネルギー消費量は極めて少なく、 今から150年前は石油に換算して1.5億トン程度で、 一人当たりにして約0.4リットル/日であった。 当時は、 エネルギー源として石炭と薪が主に使われていた。 しかし、 20世紀に入って採掘が容易で輸送し易い石油を利用するようになってから、 世界のエネルギー消費が急激に増加し始めた。 特に第二次世界大戦以降の増加は著しく、 1950年に17億トンであったのが1997年には82億トンにまで増え、 その増加の勢いは今もなお衰えていない。 増加の理由は、 世界がアメリカ社会に象徴されるエネルギーに依存する物質的な豊かさと快適さを求め始めたことによる。 そして人口増加がそれを加速している。
  一人当たりのエネルギー消費も着実に増え続けており、 1950年で石油に換算して2.3リットル/日であったのが1997年には4.8リットル/日にまで増加している。 しかしエネルギーを湯水の如く大量に消費しているのは、 世界人口60億人の4分の1を占めている先進国の人々であることも忘れてはならない。 先進国のエネルギー消費は全体の4分の3を占めており、 一人当たりの消費量は途上国の9倍である。 中でもアメリカ人の消費量は際立っており、 一日に平均で26リットルにもなる。 日本人は12リットルで西欧とほぼ同じである。 それに対して、 世界人口の大半を占める途上国の一人当たりエネルギー消費はまだ少なく、 南北の間には大きな格差がある。 世界には南アジアと中央アフリカを中心に10億人の人々が農作物や家畜の廃棄物などの非商業エネルギーだけで生活しており、 まだ20億人もの人々が電気なしの生活を送っている。
  21世紀に入ると、 おそらく途上国の人々も先進国の豊かさを求めてエネルギーを使い始めるであろう。 そうなると、 先進国を中心とするこれまでのエネルギー消費はまだ序の口で、 21世紀は本格的にエネルギーを消費する時代になる可能性がある。 もし、 途上国の一人当たりエネルギー消費量が先進国の半分になったとすると、 世界のエネルギー消費量は現在の約5倍にまで増加する。 この計算には先進国のエネルギー消費の増加や途上国の人口増加を考慮していないが、 仮に世界人口が来世紀の中葉に国連が予測する100億人にまで増加したならば、 世界のエネルギー消費は10倍以上にもなってしまう。 果たして、 それだけのエネルギー需要を供給できる豊富なエネルギー資源が、 この地球上に存在するのだろうか。

2. 化石燃料の資源ポテンシャル
  世界は、 今、 エネルギー消費の約9割を化石燃料で供給している。 その内訳は、 石油40%、 石炭27%、 天然ガス23%である。 化石燃料には石油の他に天然ガスや石炭がある。 その中で最も豊富にある資源は石炭である。
  石炭は古生代、 中生代、 新生代の地球上に繁茂していた巨大な樹木が、 数億年の間に土砂により地中深く埋没され、 形成した植物遺骸の堆積層を地下深部の地熱と地圧により石炭化作用を受けてできたものである。 世界の炭層の多くは古生代の石炭紀に生成されたもので、 日本の炭層はこれよりずっと後世の新生代の第三紀にできたものが多い。
  石炭の埋蔵量については様々な数字があるが、 1995年に日本で開催された世界エネルギー会議での報告によると、 原始埋蔵量は世界全体で約11兆トンあるといわれている。 その内訳は、 瀝青炭と無煙炭が5.3兆トンで亜瀝青炭と褐炭が5.7兆トンである。 しかし、 現在の技術と経済性で採掘可能な確認埋蔵量は、 全体の約1割に相当する1.03兆トンで、 その内訳は瀝青炭と無煙炭が0.52兆トンで亜瀝青炭と褐炭が0.51兆トンである。
  化石燃料は、 地政学的にみて、 その分布に大きな隔たりがある。 石油は、 中東という一地域に確認埋蔵量の3分の2が埋蔵している。 表1は、 石油、 天然ガス、 石炭の確認埋蔵量と一人当り資源量を地域別に比較したものである。 表から石油は中東に、 天然ガスは旧ソ連・東欧と中東に、 石炭はアジア・オーストラリアと北アメリカ、 それに旧ソ連・東欧に3分の2以上の資源が埋蔵していることがわかる。

表1 地域別に見た化石燃料の確認埋蔵量
地域 石油天然ガス石炭
[億バレル][バレル人][兆m3[千m3/人][億トン][トン/人]
アジア・オーストラリア 441 ( 4.4)13.49.5 ( 6.7)2.89311.5 (30.2)9.4
北アメリカ 866 ( 8.5)132.88.4 ( 6.1)29.37250.4 (30.2)87.54
西欧 177 ( 1.7)45.65.5 ( 4.0)14.18156.7 (15.2)40.38
旧ソ連・東欧 570 ( 5.5)138.056.0 ( 40.0)135.59241.0 (23.4)58.35
中南米 789 ( 7.8)159.75.7 ( 4.1)11.5410.2 ( 1.0)2.06
中東 6,595 (64.9)4,396.745.2 (32. 4)301.330.2 (0.0) 0.13
アフリカ 731 ( 7.2)97.19.4 ( 6.7)12.4861.7 ( 6.0)8.19
世界計 10,169 ( 100)176.4139.7 (100)24.231,031.6 (100)17.89

( )内は割合             資料:BP統計(1996年)より作成:石炭は褐炭も含む

  表には人口一人当たりの資源量が地域別に示されている。 石油と天然ガスのアジアにおける資源量は、 世界の4.4%と6.7%であるが、 それを一人当りの資源量で比べると、 石油は西欧の3.5分の1、 北米の23分の1、 中東の340分の1である。 天然ガスはアフリカ、 中南米、 西欧の5分の1、 北米の10分の1、 中東の100分の1である。 世界の埋蔵量の30%をアジアが占める石炭 (そのうちの3分の1はオーストラリア) についても、 一人当りの資源量でみると西欧、 旧ソ連・東欧の5分の1、 北米の10分の1である。 アジア地域は人口一人当たりで見ると化石資源に最も恵まれていない地域になる。
  現在、 アジア地域の中東への石油依存度は、 すでに60% (日本は86%) を超えており、 それは西欧の29%、 北米の10%に比べるとかなり高
い割合である。 また将来の予測によると2000年には1970年代の石油危機当時の65%以上になるといわれており、 このまま中東依存度が高まると、 石油危機の再発が心配される。 石油危機の安全保障と代替エネルギー開発はアジア地域のエネルギー安定供給にとって不可欠であり、 今後は地域的な協力体制を築くなど積極的な対応がアジアの国々に求められている。
  表1に示した確認埋蔵量は、 現在の技術と経済性から採掘できる確度の高い資源量である。 将来、 確認埋蔵量に追加できる可能性を持つ資源がある。 それは、 確かな採掘保証を地質学的かつ経済的にまだ得られているものではないが、 膨大な資源量になる。 追加資源の多くは質の悪い資源で、 石炭ではピートや泥炭、 石油系資源として重質油、 オイルシェール、 タールサンド、 天然ガスの非在来型資源としてデボン紀シェール、 固結砂層、 地圧滞水層、 炭層などに含まれるガス、 あるいはメタンハイドレートがある。 表2は化石燃料の資源量を追加資源も含めて整理したものである (ただしメタンハイドレートの資源量は不確実性が大きすぎるため表には含まれていない)。

表2 化石燃料の資源量評価 単位:10億トン [石油換算](兆バレル)
累積生産量 確認埋蔵量 追加埋蔵量 合計(残存埋蔵量)
石油
在来型 90 (0.65) 150 (1.08) 145 ( 1.04) 295 ( 2.12)
非在来型 - 193 (1.39) 332 ( 2.39) 525 ( 3.78)
天然ガス
在来型 41 (0.30) 41 (1.02) 279 ( 2.01) 420 ( 3.02)
非在来型 - 192 (1.38) 258 ( 1.86) 450 ( 3.24)
石炭 125 (0.90) 606 (4.36) 2,794 (20.12) 3,400 (24.48)
化石燃料合計 266 (1.92) 1,282 (9.23) 3,808 (27.42) 5,090 (36.65)

  表から地球上にある化石燃料の資源量は、 36.65兆バレル (石油換算) と膨大な量であることがわかる。 その量は石炭が圧倒的に多く、 割合で全体の67%を占めており、 天然ガスが17%、 石油が16%である。 石油にしても利用可能な資源は、 非在来型石油であるオイルシェール、 タールサンドなどを加えれば、 5.9兆バレルにもなり、 それだけで私たちが生きている間は枯渇の心配はない。 この膨大な資源がもし採掘できれば、 まだ当分の間は、 化石燃料が世界のエネルギーの主役を努めることに変りはない。

3. 世界の超長期エネルギー需給
  世界は今、 人口が爆発的に増加している。 1800年初期10億人であった世界人口は、 年率0.5%の割合で増え始め1900年には17億人に、 その後も増加の勢いは衰えず、 1950年までは年率0.8%、 そして現在までは1.75%の率で増加し続けている。 その結果、 1950年の人口は25億人に、 現在は60億人に、 そして将来は2050年には94億人にまで増え続けると予測されている。 増大していく人口の9割以上は途上国の人口である。
  爆発する世界人口に対して、 エネルギー資源は充分なのだろうか。 図1は世界の将来のエネルギー需要を人口に比例して増加し、 その需要に対して9割を現在と同じように化石燃料で供給すると仮定して描いたエネルギー需給曲線である。
  地球上で採掘可能な化石燃料は、 既に表2で示したように、 石油換算で石油系資源が5.9兆バレル、 天然ガス系が6.3兆バレル、 石炭など固形資源が24.5兆バレルと、 全体で36.7兆バレルにもなると言われている。 それは現在の石油確認埋蔵量1兆バレルの36倍にも相当する膨大な量である。
  しかし、 将来のエネルギー供給も現在と同様に化石燃料に依存し続けると、 図に示すように石油資源は2030年頃をピークに減産し、 天然ガスも2050年頃から減産することになる。 来世紀の中葉には液体系と気体系の化石燃料には頼れなく、 それ以降は石炭などの固体系燃料に頼らなければならなくなる。 石炭は資源量が豊富にあるため、 石油やガスの不足分を補填するだけでなく増大する世界のエネルギー需要を賄う能力がある。 しかしその能力にも限界があり、 22世紀の中葉にはその生産ピークを迎えることになる。 そしてそれ以降は化石燃料だけで賄えなくなる。 もし、 原子力や再生可能エネルギーといった代替エネルギーを開発しなければ、 世界は急速にエネルギー供給不足に陥ることになる。 古生代や中世代に1億年以上もかけて蓄えられた化石燃料をこのままのペースで消費し続けると、 人類はわずか400〜500年で使い果たしてしまうことになる。

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  また資源枯渇とは別に、 良質の石油や天然ガスが枯渇すると、 質の悪い重質油、 オイルシェール、 タールサンド、 あるいはピートや泥炭などへの依存が高まり、 環境問題も深刻になる。 このままでは、 子孫には質の悪い化石燃料や原子力を残すことになってしまう。 良質の化石燃料が使えない子孫は、 自分達が生き延びるためには環境影響が大きい低質の化石燃料も使わざるを得ない。 また将来は世界のエネルギー安定供給のためには人類は、 好むと好まざるに係わらず原子力に頼らざるを得なくなる。 何万年先に地下に処分した放射性物質が漏洩して人々に大きな影響を与えるかもしれないという不確実な心配よりも、 50〜60年先には良質な化石燃料に頼れなくなる危機がせまっている。 エネルギー技術のような社会インフラ施設の整備には時間がかかるため、 危機が発生してから対策を立てても遅い。 危機回避はエネルギーに余裕がある今から行わなければならない。 それには、 石炭のクリーン化、 安全な原子力技術の確立、 そして再生可能エネルギー開発を子孫のためにも今から行うべきである。

4. 新エネルギーの導入可能量
  わが国は一次エネルギーの85%を化石燃料に依存している。 化石燃料への大量依存は、 酸性雨やCO2問題など地球環境問題を深刻にするだけでなく、 エネルギーセキュリティにおいても将来の不安を大きくすることにもなる。 政府は、 長期エネルギー需給見通しで供給構造に脆弱な我が国が持続的な経済発展を確保しながら地球規模の環境保全を図っていくためには、 化石燃料への依存を2010年には75%にまで削減するという目標を掲げている。 化石燃料への依存度を下げるために期待されているのが新エネルギーと原子力発電である。 それらは我が国がエネルギー供給において自立する上で重要なエネルギー源である。 中でも新エネルギーは、 賦存量が多く化石燃料の節約と環境保全に優れており、 小規模分散型の特徴を生かして普及していくことが期待されている。
  新エネルギーについては1994年12月に総合エネルギー対策推進閣僚会議で新エネルギー導入大綱が策定され、 将来の導入目標が設定された。 同大綱は新エネルギーの導入を促進するための国の基本方針となるもので、 次に示す重点分野について具体的な開発計画を打出している。
(1)太陽光発電など再生可能エネルギー
(2)廃棄物発電などリサイクル型エネルギー
(3)コージェネレーションなど従来型エネルギーの新利用形態
  表3は、 政府目標を示したもので、 二次エネルギーベースで新エネルギーのシェアは、 2000
年には5.7%、 さらに2010年には7.6%としている。 新エネルギーの中で将来のポテンシャルが最も大きのは、 "従来型エネルギーの新利用"である。 そのエネルギー源は、 石油や天然ガスといった化石燃料である。 それを除くと、 国内で供給できる新エネルギーのシェアは、 2010年で3.0%になる。

表3 新エネルギーの導入目標 [単位:万キロリットル]
1992年度(実績) 2000年度(新規施策) 2010年度(新規施策)
再生可能エネルギー 113.74 (12.6%) 325 (13.3%) 655 (17.7%)
太陽光発電 0.04 4 45
風力発電 0.1 1 2
太陽熱 113 300 550
温度差エネルギー 0.6 20 58
リサイクル型エネルギー 515.1 (56.8%) 638 (26.1%) 823 (22.3%)
廃棄物発電 23.2 106 212
ゴミ処理非熱等 3.9 27 72
黒液・廃材等 488 505 539
在来型エネルギーの新利用 277.5 (30.6%) 1,480 (60.6%) 2,220 (60.0%)
コージェネレーション 277 1,393 879
燃料電池 0.2 19 123
メタノール、石炭液化等 - - 96
クリーンエネルギー自動車 0.3 68 324
合計 906 (100%) 2,443 (100%) 3,698 (100%)
二次エネルギーに占める割合 1.5% 5.7% 7.6%

  ここでは非化石燃料の評価に焦点を絞り、 "従来型エネルギーの新利用"を除く"再生可能エネルギー"と"リサイクル型エネルギー"について供給ポテンシャルを検討してみることにする。 再生可能エネルギーとリサイクル型エネルギーは、 基本的にはローカルエネルギーである。 再生可能エネルギーには太陽光発電、 風力発電、 森林バイオマスがあり、 リサイクル型エネルギーには一般廃棄物と産業廃棄物がある。 それらについて国内の供給ポテンシャルを調べてみることにする。
  (1) 太陽光発電
  太陽電池の生産が近年、 急速に伸びてきている。 1997年に出荷された太陽電池は約130MWである。 セル価格も年々減少しており1997年で$4,000/kWで、 10年後には$1,000/kWにまで低下すると予想されている。 しかし電源としてのシェアはまだ少なく、 世界で稼働中の太陽光発電の総発電能力は800MWで、 全エネルギー需要の0.1%に満たない。
  わが国における太陽光発電も普及しつつある。 1997年度に実施された政府の家庭用PV助成策によって9,400軒の屋根に設置でき、 1年間で約30MWだけ普及した。 しかしこのペースの普及では、 政府の目標である2010年に4,600MWを達成するには150年かかってしまう。 普及を支援する一層の助成策が望まれる。 しかし例え政府目標が達成されたとしても、 4,600MWで賄える電力量は現在消費している量のわずか0.5%である。 このことから、 当面、 太陽光発電がわが国の主要電源になる期待は小さいと言わざるを得ない。
  電力中央研究所の市場調査によると、 わが国における太陽光発電の立地可能量は約46,000MWと推定されており、 それによって賄えるわが国の電力は現在の約5%になる。 しかし太陽光発電のような間欠電源は、 需要家の電力負荷に合わせて供給できないといった課題がある。 将来、 大量に導入でき夏場の最大ピーク時に理想的に発電したとしても、 ピーク負荷をカットする能力は10,000MWまでである。 それ以上の導入は最大ピークを夕方にシフトさせるため、 太陽光発電の設備価値を失うことになる。 このことは太陽光発電は、 わが国の電力需要の1%までは設備価値を持って経済的に導入できる可能性があるが、 それ以上の設備についてはkWhだけの価値 (火力発電の燃料費と運転保守費である5円/kWh程度) になってしまう。
  (2) 風力発電
  風力発電は、 風の持つ運動エネルギーを風車により機械的エネルギーに変換し、 これにより発電機を駆動して電気を得る発電方式である。 風から取り出せる風力発電の出力は、 理論的には空気密度と風車ローターの面積に比例し、 かつ風速の3乗に比例する。 風車にはプロペラ形の水平軸風車とダリウス形の垂直軸風車とがある。 これまでの導入実績を調べると、 大きな出力が出せるプロペラ形風車のほうが数多く建設されている。
  風力発電は、 1970年代の石油危機を契機に、 米国およびヨーロッパを中心にして導入が飛躍的に進んでいる。 世界の風力発電は、 独立発電機 (平均出力100W) として約50,000基、 その出力は6,000MWになる。 カリフォルニアは風力発電が最も多く導入されている地域で、 1994年の実績では、 約1万8,000基、 発電出力で1,500MW以上、 年間電力量で約25億kWhにもなる。 米国のカリフォルニア州では、 州の電力量の42%が再生可能エネルギーで供給されている。 その内訳は、 水力23%、 地熱13%、 バイオマス4%、 風力1.3%、 太陽熱0.3%、 太陽光0.1%である。
  わが国における風力発電は、 欧米に比べその導入量はまだ僅かである。 発電出力が比較的大きい250kWの風車の他に、 出力が3kW程度の風車も数多く普及している。 日本の風況は、 米国に比べて良くない。 年平均の風速は小さく、 山岳地や丘が多いため風も不安定で、 ウィンドファームに適した広い面積の土地が少ない、 また立地制約として、 搬入道路の敷設、 自然公園法の規制、 送配電線の敷設、 騒音、 景観、 ラジオ・テレビなどへの電波障害、 さらに離島においては資材の搬入用の港湾施設を新たに建設するなどといった問題点もある。 こういった様々な障害を考慮すると、 我が国で実際に導入できる風力発電はカリフォルニアに設置されている数より少ないものと考えられる (カリフォルニアにおける風力による年間発電量は、 我が国の総発電量の0.25%に相当する)。
  (3) 森林のエネルギー
  わが国の森林面積は、 国連食料農業機構の統計データ (1990年) によると25.1Mhaである。 年平均の森林蓄積量は温帯林としてみると約240t/haと推定される。 その蓄積に要する期間は時定数で表すと40年と言われており (依田恭二、 1982)、 年間平均の蓄積量は6 t/ha/年になる。 これから全森林面積を利用したエネルギー生産可能量を概算すると、 25.1Mha × 6t/ha/年 × 3.6Gcal/t=5.4 × 1014kcal/年となる。 現在の我が国の一次エネルギー総供給が5.44 ×1015kcal/年であることから、 森林によるエネルギー供給ポテンシャルはその10%に相当する。 もちろん日本の森林は険峻地が多いため、 実際にエネルギー生産に利用できる面積は限られており、 すべてが利用できるわけではない。
  (4) ゴミで賄えるのエネルギー量
  わが国の一般廃棄物の量は年間5,060万トン(1991年)になり、 国民一人当たりにして1.12トンである。 ごみ焼却施設は、 1995年6月現在で建設中を含めると181ヶ所になり、 発電出力は769,642kWに達している。 ゴミ発熱量は紙やプラスチックの消費に伴って増大しており、 その値は2,200kcal/kg (低位) である。 一般廃棄物をすべて焼却してエネルギーとして利用した場合、 その発熱量は111,300 Tcal/年になる。
  一般廃棄物とは別に、 産業廃棄物である廃木材などの可燃性ゴミが年間約2,500万トンだけ発生しており、 この保有エネルギーは100,000 Tcal/年 (発熱量:4,000 kcal/kg) となる。 これから我が国で利用できるリサイクル型エネルギーの供給ポテンシャルは211,300 Tcal/年で、 それは我が国の一次エネルギー供給の3.9%に相当する。

5. エネルギー技術の展望
  代替エネルギーの中で、 新エネルギーである再生可能エネルギーとリサイクルエネルギーについて国内供給ポテンシャルを調べた結果、 我が国の現在のエネルギー供給量と比較して、 太陽光発電が約2% (電力量で約5%)、 風力発電が1%以下、 森林バイオマスが約10%、 ゴミが約4%である。 これらのエネルギーがわが国で最大限に利用できたとしても、 その供給ポテンシャルは現在のエネルギー供給量の約17%を賄うにすぎず、 国内で利用可能な再生可能エネルギー (水力と地熱を除く) やリサイクル型エネルギーが化石燃料を代替してわが国の主要なエネルギー供給源になることは不可能である。
  その打開策として、 海外でバイオマスや太陽光発電、 水力発電を使ってメタノールや水素を生産し輸入することも考えられる。 それはクリーンなエネルギー供給システムとして期待されている。 しかし、 現実は厳しく、 石油が1リットル13円とミネラル水よりはるかに安価な状況では、 経済的にみてとても採算が合うエネルギー供給システムにはなり得ない。 また経済的な困難さだけでなく、 供給国の政情不安による供給途絶への不安は化石燃料と同様に大きな問題になる恐れがある。
  原子力は準国産エネルギーとして、 化石燃料に代って安価で安定に供給できるエネルギー源として充分な供給ポテンシャルがある。 その確認埋蔵量はU235で評価すれば石油の確認埋蔵量の13%にすぎないが、 高速増殖炉を用いたU238の評価では17.6倍になる。 またウラン埋蔵量のエネルギー供給ポテンシャルは、 プルトニウムを最大限に利用していけば石油の確認埋蔵量の130倍、 地球上で採掘可能といわれている化石燃料資源量の3.5倍に相当する膨大な量である。 もちろん原子力の利用には、 安全性、 放射性廃棄物の処理処分、 核拡散といった問題が残されている。 しかしわが国のエネルギー消費が化石燃料から脱却するためには、 原子力の導入は不可欠であり、 そのためには残された課題を積極的に解決していく努力が必要である。 それは化石燃料に乏しいアジアのエネルギー安定供給にも大切なことである。
  省エネルギーもこれからのエネルギー政策に大切である。 エネルギー浪費型の経済発展から、 エネルギー有効利用と環境を重視した社会成長への転換が求められている。 人々は、 エネルギー価格が安いゆえに、 無意識のうちに無駄使いをしていることが多く、 家庭生活でも、 便利で、 健康的で、 能率の良い快適な生活を追い求め続け、 それがいつのまにかエネルギー消費を増やしている。 社会における省エネルギーの余地は大きく、 建物、 家電製品、 自動車など、 人々の省エネルギー意識の向上と省エネルギー技術の開発が望まれる。 使い捨て経済は、 資源の浪費であると同時に、 エネルギーの浪費にもなっている。 使い捨て経済を改める環境調和型の新しい価値観が望まれている。 「消費は美徳である」 から 「浪費は悪徳」、 「節約は美徳である」 に戻ることが大切になっている。 先進国は、 途上国の模範となる省エネルギー型社会を構築する必要がある。


■内山 洋司 (うちやま・ようじ)
   (財) 電力中央研究所 経済社会研究所 上席研究員 (原子力政策室次長) ・工学博士。
  1949年生まれ。 1981年東京工業大学大学院原子核工学専攻博士課程修了、 電力中央研究所入所。 技術評価、 技術経済、 エネルギー分析などの研究に従事。 1985〜87年米国、 電力研究所 (EPRI) 客席研究員。 その後電力中央研究所経済社会研究所専門役、 グループリーダを経て1997年より現職。 1995年から東京工業大学総合理工学研究科人間環境システム専攻、 客員教授。 科学技術庁専門委員、 高速増殖炉懇談会専門委員を歴任。 各種発電プラントのライフサイクル分析などエネルギー技術の技術評価に関する論文多数。 主著に 『私たちのエネルギー (培風館)』 など。


情報誌「岐阜を考える」1999年記念号
岐阜県産業経済研究センター

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